ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
年の瀬の忘年会、お正月、年始の新年会と、お酒を飲む機会が増える時季がやってきました。悪酔い・二日酔いの予防に心強いのが、ハウスウェルネスフーズ(ハウス食品グループ)の「ウコンの力」。2004年に発売されて以来、多くの人の飲酒時の友となっている機能性飲料のロングセラーです。
ハウス食品は1913年、創業者の浦上靖介が大阪で薬種原料問屋・浦上商店を立ち上げたのがその始まりです。浦上が海外に出張した際、カレー粉を購入。日本人の味覚に合わせるためさまざまなスパイスを調合し、日本人向けのカレー粉の開発に成功し「ホームカレー」を発売します。
ハウス食品は戦後になると、カレールウ「バーモントカレー」、スナック菓子「とんがりコーン」、インスタントラーメン「うまかっちゃん」などヒット商品を次々と生み出し、総合食品メーカーとして確固たる地位を築きました。そして2000年を迎える頃、薬種原料問屋から始まった歴史を見つめ直し、「健康とおいしさを発信できる企業に」との思いから健康に貢献する新商品の開発を始めます。そこで着目したのが、沖縄のウコンでした。
沖縄では琉球(りゅうきゅう)王朝の時代からウコンが生薬として用いられており、「ウッチン」という呼び名で親しまれています。乾燥したものを煎じてお茶として飲んだり、ウッチンごはん (ウコンのまぜご飯)などの料理で食したりするなど、ウコンが食文化に入り込んでいる地域です。当時、沖縄は日本でも有数の長寿県で、ウコンは滋養強壮、肝機能に良いことで知られていました。
ウコンはカレーの香辛料として用いられ、ウコンの色素がカレーの黄色の元になります。ハウス食品でもカレールウの製造で長く扱ってきた、なじみのある香辛料です。沖縄の人々の健康の秘訣(ひけつ)がウコンにあると見た開発担当者は、ウコンを中心にした新しいドリンクの開発に着手します。
ウコンはカレールウでは使っていたものの、ドリンクで使うのは初めてのこと。開発は難航しました。まず必要なのは、原料の選定です。カレールウに適したウコンと、ドリンクに適したウコンは異なります。会社の研究所が保有する大量の原料をひとつずつ試し、ドリンクの原料とすべきウコンを見極めていきます。
また難しいのが、原料の配合とそれが生み出す味のバランスです。おいしさ、飲みやすさを優先するとウコン感が弱くなり、健康に良い飲料という印象が薄くなります。しかし、ウコン感を強くするとウコンの苦味が前に出てしまい、飲みにくい味になってしまいます。ターゲットとして想定する30~50代のビジネスマンが好む味とウコン感を求めて、試行錯誤を繰り返しました。
また、欲しかったのがウコンの効果の証明でした。ウコンが肝臓に良いことは広く知られており、悪酔い・二日酔いの抑制に効くと言われていましたが、それを証明するものがありません。開発しているのは医薬品ではないため、商品に効能を書くことはできませんが、効果があることが証明できれば商品の普及にプラスになります。医科大学に協力を仰ぎ、長期にわたる臨床試験を実施。その結果、悪酔い・二日酔いの抑制効果が実証されました。
加えて、ウコンの主な機能性成分としてはクルクミンが知られていたところ、ビサクロンも二日酔いの改善につながることを確認。クルクミンを単体で摂取するよりも、ビサクロンを含むウコンエキスに高い効果があることを研究により突き止めました。
こうして2004年5月、「ウコンの力」が発売。それまでウコンは、効能が広く知られていたものの生薬などのイメージが強く、摂取するにはハードルが高い印象がありました。そのウコンが手軽に取れるとあり、「お酒を飲む前にまず『ウコンの力』」の習慣があっという間に多くの人に広まりました。
2013年に発売元がハウス食品からハウスウェルネスフーズに移行してからも「ウコンの力」は売れ続け、2022年11月時点で累計販売本数15億本が間近に迫るというロングセラーになっています。
私たちは新商品の企画を考えるとき、それまで手掛けたことのない新しい領域に乗り出すことに可能性を見いだすことがあります。もちろん、それが必ずしも間違っているというわけではありません。しかし、「ウコンの力」というロングセラーは、薬種原料問屋から始まった自分たちの会社の歴史を見つめ直し、健康に資するという創業の精神にのっとるところから生まれました。また、そこでキーになったのは、ウコンというそれまでにもカレールウの製造で長く扱ってきた原料でした。
私たちが人にアドバイスを求めるとき、すでに自分で答えを知っていて、人から言われるのを待っているのだという指摘がなされることがあります。答えは外にあるのではなく、大切なものは自分たちの内にすでにある。このことを、「ウコンの力」のスト―リーは示しているのかもしれません。
執筆=山本 貴也
出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。
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ロングセラー商品に学ぶ、ビジネスの勘所