ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
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小腹がすいたときのおやつとして、会議のお菓子として、お酒のつまみとして、気の置けないパーティーの軽食として……。世の中にはさまざまなお菓子がありますが、亀田製菓のハッピーターンほどさまざまなシーンで活躍しているものは珍しいかもしれません。軽やかな食感と、せんべいにまぶされたパウダーの豊かな風味で愛されているハッピーターンは、1976年に発売された洋風せんべいのロングセラーです。
亀田製菓は、1946年に設立された亀田郷農民組合委託加工所を前身とします。設立当初は地元新潟の米を使って水あめを作ろうとしましたが、試作に失敗。柿の種など、米菓の製造を手掛けるようになりました。1957年には組織を亀田製菓株式会社とし、米菓メーカーとして本格的にスタートを切ります。
日本では1950年代に入って戦後の復興が進み、それに伴い社会の洋風化が進みました。お菓子の世界でもチョコレートやキャラメル、キャンディーといった洋菓子が人気を集め、人々の嗜好が変わりつつありました。そうした変化を捉え、1961年に亀田製菓が発売したのが「サラダホープ」です。
それまで、せんべいやおかきなどの米菓は伝統的なしょうゆ味のものがほとんど。そうした中、サラダホープはおかきの味付けに植物油を使い、さらにマヨネーズ風味を加えた非常にユニークなものでした。名前は「亀田製菓の希望(ホープ)の星になってほしい」という願いから付けられたもの。米菓にカタカナの名前を付けるというのもかつてない試みでした。
伝統的な日本のおかきに洋風の味付けをした「洋風おかき」のサラダホープは、発売直後から大ヒットになりました。しかし売れ過ぎたために製造が追い付かず、商品の供給が間に合わなくなり、後発の類似品に市場を奪われてしまいます。そこから「技術的に他社がまねできない商品を」と開発にさらに力を入れたことが、後のハッピーターンでの成功につながります。
ちなみに、サラダホープは全国展開していないものの新潟県限定で現在も販売されており、県内では高い人気と知名度を誇っています。
新たな商品の開発に挑む亀田製菓は、まず1967年に「サラダうす焼」を発売します。従来のせんべいは分厚い堅焼きにしょうゆ味を付けたものが主流でしたが、サラダうす焼はパリッとした食感の薄焼きにサラダホープのような洋風の味付けを施したもの。スナック感覚で楽しめる、新しいタイプのせんべいでした。
そして1976年、ハッピーターンが登場します。ハッピーターンは軽い食感をサラダうす焼から受け継ぎつつ、さらに画期的な商品性を追求したものでした。
一番の特徴は、味付けにパウダーを使ったことです。一般的なせんべいは、しょうゆ味などのタレで味を付け、それから焼き上げます。しかし、ハッピーターンはまずせんべいを焼き、焼いたせんべいに、砂糖、塩、アミノ酸などを配合した独自開発のパウダーで味付けするという画期的な製法を採用しました。せんべいの表面には凹凸があり、パウダーをしっかりキャッチするようになっています。
通常のせんべいは原料にうるち米を用いますが、軽やかな食感を生み出すため、ハッピーターンはうるち米にもち米を少量足して使用。せんべいは円形が定番ですが、ハッピーターンは食べやすさと持ちやすさに優れる小さな小判形としました。また、パウダーが手に付かないよう、キャンディーのようなフィルムでせんべいを包みました。これも、それまでの米菓ではなかった試みです。こうして、まったく新しい感覚の洋風せんべい「ハッピーターン」が完成しました。
ハッピーターンは発売直後から飛ぶように売れたわけではありませんでしたが、やみつきになるおいしさと、さまざまなシーンで使える汎用性の高さが徐々に評判になり、ヒット商品に。その後、商品バリエーションを増やし、同じく亀田製菓の「亀田の柿の種」と並び、日本の代表的な米菓の一つとなりました。
ハッピーターンは画期的なお菓子ですが、サラダホープを原点とする経緯を見ても分かるように、イチからオリジナルなものを作ったわけではありません。元になっているのは、昔から食べられているせんべい。製法も、蒸した米粉を切り分けて焼くという伝統的なせんべいの作り方がベースになっています。しかし、そこに味付け、形、包装でオリジナリティーを加えていきました。
人は新しいものに興味を示す傾向がありますが、新し過ぎるものは受け入れるのが難しいという側面もあります。ハッピーターンは、せんべいという定番感を保ちつつ強いオリジナリティーを持っています。独自性の中にも、日本人が慣れ親しんできたおやつ、せんべいが元であるという安心感があるのです。この定番感とオリジナリティーのバランスが、ハッピーターンをロングセラーにしている要因の一つなのかもしれません。
執筆=山本 貴也
出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。
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ロングセラー商品に学ぶ、ビジネスの勘所