ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
訪問先で、先方からの依頼や質問に対して、「会社に戻って対応します」「一度持ち帰って回答します」と答えざるを得なかった経験はないだろうか。逆にせっかく時間を取って商談を進めようと思って迎えた営業担当者から、こちらの質問に対して、同様の言葉を返され、がっかりした覚えは――。
こうした状況に陥る大きな理由として、「社内にある情報を確認しないと、うかつなことは言えない」が挙げられる。それを解決する手段として、外出先でも必要な資料を活用できるようにする取り組みが進んでいる。
これまで、セールスやサービスを担当していて外出が多いビジネスパーソンは、分厚い書類をバッグに詰め込んで活動しなくてはならなかった。提案書・製品パンフレット・説明資料・各種マニュアルといった顧客対応書類、日報や報告書など自社に提出する書類も一緒に持ち歩いているケースが多い。
外出先で必要な資料を活用でき、しかも持ち運ぶ書類の量を少しでも減らすための取り組みとしては、ノートパソコンなどモバイル端末を活用する方法がある。業務で使う各種の情報をハードディスクなどに入れておけば、持ち運ぶ資料は大幅に減らせる。
通信機能を使えば、会社への日報や報告書の提出も簡単に行える。近ごろはノートパソコンだけでなく、スマートフォンやタブレットがある。以前と比べて社員の機動性は大いに増したはずだ。
しかし、モバイル機器を持ち歩くだけでは、すべての仕事が外出先でできるようにはならない。例えば、自身の資料だけならモバイル端末に収納して使えばいいが、商談などで他の社員の提案書や見積書の確認を要する場合は、共有化する仕組みが必要となってくる。
業務上必要な資料を共有して、外出中でも使えるようにするには全社的な取り組みが必須だ。しかし、社員の誰もがどこでも、業務用資料を活用できるようにすると、情報漏えいというセキュリティー上のリスクも生じてしまう。
また、多くの企業では業務管理システムはセキュリティーの観点から、社外からはアクセスできないようにしている。グループウェアなどはクラウド化が進んでいても、業務管理はクラウド禁止とされていることが多い。
こうした課題をクリアしていくことによって、社員はオフィスに縛られずに仕事ができるようになり、「会社へ戻らないと対応できない」といった無駄をかなり減らすことができる。
オフィスではなく、社外で仕事を行う社員が増えれば、その居場所をきちんと把握しておく必要が出てくる。例えば、担当者がオフィス不在時に、取引先から電話で問い合わせを受けた場合、「担当の者から折り返し連絡します」と応答してもそれほど失礼というわけではない。しかし、社外で働くことが頻繁になった場合には、このような返事が日常的になってしまう。
折り返しの連絡を約束してもらっても、担当者とすぐに話ができないことが常態化してしまえば、取引先にとってはかなりのストレスになる。急ぎの用件であればあるほど、不満を感じるだろう。こうして招く顧客満足度の低下は、先々の商いにダメージを与えかねない。
また会社側、特に中間管理職の意識変革も重要な課題だ。出社しなければ仕事をしているとはいえないという固定概念は、いまだに根強く残っている。長く会社にいるのが仕事を頑張っていることになる時代では、もはやない。働き方の改革は、アベノミクスの最重要事項にも位置付けられている。
いつでもどこでも働けるようにして、移動などの社員の負担を削減し、生産性を上げるようにすることは、強い企業になるために不可欠な取り組みといえるだろう。だからといって顧客満足度を下げては意味がない。その両立が経営者の手腕に懸かっている。
執筆=林 達哉
【MT】
強い会社の着眼点