オフィスあるある4コマ(第54回)
口コミの力
全社利用する文書作成ソフトや表計算ソフトなどのオフィスツールと異なり、各部署で利用する顧客管理や会計などの業務アプリはIT部門のライセンス管理が行き届かずに無駄なコストが発生している――。
こんな悩みを抱える企業もあるのではないだろうか。一般にライセンスとは、パソコンやサーバーなどにインストールして利用するソフトウエア(アプリケーション)について、ソフトを開発・提供する事業者と企業・個人との間で契約・締結する使用許諾のことだ。「自社のどの端末でどんなソフトを利用しているのか」「契約期間はいつまでか」などきちんとライセンス管理を行わないと重複して契約し、余分な料金を支払ったり、IT部門の許可のないソフトを利用したりすることでセキュリティ上のリスクが高まるといった問題を引き起こすこともある。
社内で利用するパソコンやサーバーの名称やCPU、メモリなどのハードウエア情報や、アプリ、ウイルス対策などのソフトウエアにかかわるさまざまな情報を収集・管理するのがIT資産管理だ。このうち、ソフトウエアに関する情報(ソフトウエア名、バージョン情報、インストールしている端末台数、ライセンス形態、購入日など)に特化して一元的に管理するのがライセンス管理で、IT資産管理の一部となる。
IT資産やライセンスの管理が必要な理由は、業務のIT活用が拡大し、管理対象となるリソースも増えているからだ。表計算ソフトを使って社内のパソコンやソフトを管理する企業もあるが、従業員の増加や業務の拡大によって利用するパソコン台数や業務アプリが増えてくると手作業では管理が難しくなる。
また、業務で利用する端末もパソコンだけでなく、タブレット端末やスマートフォンなど多様化している。パソコンの他、タブレット端末で有償のWeb会議やビジネスチャットなどのアプリを利用する場合、契約形態によってはライセンス費用が発生するなど、事業者との契約内容に応じた適切な管理が必要になるだろう。
では、適切なライセンス管理がなされていないとどうなるのだろうか。1つは、コストの問題だ。例えば、従業員の入社・異動・退職といった人事とIT資産の利用状況の変化に伴うライセンスの取り扱いに留意する。異動や退職で利用しなくなった業務アプリやソフトライセンス契約をそのままにしておくと無駄なコストが発生することになる。
また、退職者に代わって、新入社員が入った場合、新たなパソコンや業務アプリのアカウント登録も必要になる。こうした人事にかかわる業務をスムーズに行うためにも、適切なIT資産管理、ライセンス管理が欠かせない。さらに、IT部門の知らないところで従業員が許可されていないフリーソフトを利用したり、部署の判断でクラウドサービスの業務アプリを利用したりすることでセキュリティリスクが発生する問題がある。
例えば、ある部署の従業員がクラウドの業務アプリにアクセスする際、インターネットを利用して不正アクセスを受けたり、業務に関係のないWebサイトにアクセスしてウイルス感染したりするリスクもある。ライセンス管理だけの問題ではないが、セキュリティ面からもIT部門の許可なくソフトを導入しないように社内で徹底する必要がある。
その他、パソコンの購入時期が異なることでOS(基本ソフト)のバージョンが古い物と新しい物が混在している企業もあるかもしれない。古いバージョンのOSやソフトを使い続けているとセキュリティのリスクがある。例えばWindows 10の場合、2025年10月14日にセキュリティ更新プログラムのサポートが終了。IT資産管理、ライセンス管理によって社内のどの部署で旧バージョンのOS、ソフトを使っているか把握し、セキュリティ上問題のある端末、ソフトを排除することでセキュリティの担保が可能だ。
適切なライセンス管理がなかなかできないという企業もあるかもしれない。管理を難しくする要因の1つに、ライセンス形態の多様化がある。かつて企業は業務で利用するソフトについて、パソコンにインストールする分だけ、事業者から買い取る形が一般的だった。ソフトを新バージョンに更新したり、端末台数が変わったりするとき以外は管理にもそれほど手がかからなかった。
だが、今はクラウドサービスとして提供されるSaaSが広がり、月額定額や年額のサブスクリプションサービスが一般的。従業員の利用状況を見ながら一定期間ごとに更新するかどうかを含めた管理が必要だ。また、IT部門の管理を難しくしているのが、無償で利用できるフリーソフトの扱いだ。プライベートで利用するのは問題ないが、業務利用となると話は別だ。例えばPDFフリーソフトの場合、ファイルの閲覧はできるが、加工・編集はできないといった機能的な制限もあり、業務に支障をきたすことになりかねない。業務で利用するのであればアプリの必要性を検討した上で全社的に統一し、事業者とライセンス契約した上できちんと管理する体制を整えたい。
IT資産管理やライセンス管理にかかわる企業の課題に対応するさまざまなツールが提供されている。社内で利用されているハードウエア、ソフトウエアの情報を自動的に収集し、IT資産の見える化が可能なツールもある。例えば、管理対象となるソフトの購入数と、ソフトをインストールしているパソコン台数の差分を計算してライセンスの差分を把握したり、重複するソフトの契約を解除してコストを削減したりすることが可能だ。
また、IT部門の人材が足りないといった企業に適したサービスもある。社内のIT資産に関する情報を一括管理し、IT資産の棚卸しに役立てられる。パソコンごとの作業時間やアプリの利用状況を分析して業務の見える化や、OSやウイルス対策ソフトの更新状況を把握し、セキュリティリスクにも対応する。自社で保有するハード、ソフトなどのIT資産、ライセンスを把握し、事業の拡大のためにどんなIT投資が必要なのか検討することもIT部門の重要な役割になる。
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです
執筆=山崎 俊明
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