ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、仕事の仕方には大きな変化が訪れた。緊急事態宣言の下での外出自粛期間が過ぎても、在宅勤務を中心としたリモートワーク(テレワーク)を実践し続けているビジネスパーソンは多い。在宅勤務は通勤時間の削減、育児や家事との両立などのメリットを得られる一方で、課題も少なくない。注意しなければならない課題の1つに、従業員同士のコミュニケーション不足がある。
日経BPコンサルティングが2020年4月に実施した「新型コロナウイルスの影響による企業コミュニケーションの変化」の結果によると、テレワーク実施による課題として最も多くの回答を集めたのは「社内コミュニケーションがとりづらい」(61.6%)だった。
「テレワーク実施で生じた課題」(日経BPコンサルティング2020年4月調べ)
もちろんこの点については従来の電話やメールに加え、Web会議の活用などでかなり改善はできるだろう。とはいえ、業務をスムーズに進行させ、人間関係を円滑にして組織としての力を発揮するには、業務に関する連絡やミーティング、会議といったフォーマルなコミュニケーションを電子化するだけは不十分なことに多くの企業が気付きつつある。
特に課題なのが、“ちょっとした日常のコミュニケーション”だ。オフィスに皆が集まって仕事をしていた時代ならば、通り掛かりに立ち話をしたり、忙しそうにしている同僚や部下に声がけをしたりと、多様な対面コミュニケーションが取れた。しかし、リモートワークでは、そうしたコミュニケーション機会は激減してしまう。
その上、電子メールやWeb会議によるコミュニケーションでは、ニュアンスがうまく伝わりにくい。例えば電子メールで用件だけを簡潔に伝えると、かなり強めのニュアンスに感じられる。少し注意を促しただけのコメントが、相手を否定するパワハラに受け取られかねない。
オフィスに集まって業務を行う場合、たとえ自分は会話しなくても周囲の会話を耳にしたり、同僚が働く姿を見たりすれば、特別に意識しなくても組織としての一体感や組織の一員である安心感を覚える。一方、自宅でリモートワークをしていると孤独感や疎外感にさいなまれ、業務へのモチベーションが低下し、生産性が落ちかねない。
こうしたリスクを減らすには、リモートワーク導入に合わせて新しいコミュニケーションの在り方を考え、何らかの手立てを講じなくてはならない。物理的に離れていても上司や同僚・部下とつながっている感じがあるようにしておくことが、ニューノーマルな働き方を本格化するには不可欠だろう。リモートワークで不足しがちな気軽な双方向コミュニケーション。ちょっとした気遣いで実行できる方法から、ICTツールを活用する方法まで多くの手段がある。
例えば誰でも手軽に実行できる方法としては、メールに一言書き加えることが挙げられる。コミュニケーションを強化するポイントの1つは、用件だけでなくそれに加えて感情も伝わるようにすること。業務の依頼をする場合には、内容だけを伝えるのではなく、普段顔を合わせて業務を依頼するときのように、「お忙しいところ申し訳ありませんが」といった言葉をあえて添える。その業務を片づけてもらったら、やはり、オフィスにいるのと同様に「どうもありがとう」「大変助かりました」といった感謝の言葉を忘れずに付けたい。
従来、経営幹部や若手社員などが組織としての一体感を養い、チームワークを覚え、コミュニケーションを充実させる場として、集合研修を実施するケースも多かった。“密”を避ける理由で、最近はそうした集合研修もなかなか実施できない。そこでWeb会議ソフトを使って数人で参加し、チームワークを育てながら経営感覚を養う研修サービスを提供する会社も出てきている。こうした取り組みは、離れた場所にいる社員もゲーム感覚で学びつつ、チームワークも鍛える一助となるだろう。
ほかにもICTの力を活用する方法の1つとして、NTTコミュニケーションズが2020年8月に提供を始めた「NeWork(ニュワーク)」がある。従来のオンライン会議では実現が難しかった、「立ち話感覚でのちょっとした相談や雑談」の活性化を目的としたコミュニケーションツールだ。
社内コミュニケーションを活性化するNeWork(HP:https://nework.app/about/)
NeWorkではログインした画面上に、自分や他のメンバーの居場所である「ワークスペース」が広がり、同じ場にいる雰囲気を味わえる。その中には、いくつもの「バブル」と呼ぶ会話スペースがあり、NeWorkを利用する他のメンバーが自由に会話をしている。業務の「レビュー」や「アイデア募集」であったり、「ランチ」の情報交換だったりとさまざまなバブルがあり、クリックするだけで立ち寄って会話に参加できる。
「オープン(いつでもOK)」「ワーク(話しかけるのは可)」「ゾーン(集中時間)」の3つのモードによって、アイコンの色が変化。状態を直感的に把握でき、気軽に声をかけられる
メイン画面のワークスペースのデザインも未来的で、画面上で自分の代理を務めるアバター同士がコミュニケーションする面白さがある。機能面でも、相手の状況を確認してクリックするだけで会話を始められるほか、ビデオ通話や資料の画面共有を使った本格的なミーティングもできる。
もちろん、こうした新機軸のコミュニケーションツールではなく、ビジネスチャットを活用するだけでも、社内コミュニケーションの充実は図れる。いつでも話しかけることができて、自分が対応できるタイミングで返事ができるビジネスチャットは、ことによったらオフィスでいきなり話しかけられるよりも有効なコミュニケーション手段かもしれない。
リモートワークを導入した結果、コミュニケーション不足を感じるようならば、それを改善する手段を講じないと、中長期的に生産性は落ち、業績に悪影響を及ぼす。応急処置的にリモートワークを導入したときにはそれほど感じなくても、ニューノーマルな働き方として定着させようとした場合、フォーマル、インフォーマル両方のコミュニケーションについて、改めて考える必要が出てきている。個人の工夫任せではなく、企業としてニューノーマル時代のコミュニケーション活性化法を改めて検討する必要があるだろう。
執筆=岩元 直久
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