中小企業のトレンド(第8回) インバウンド市場急伸、口コミで“爆買い”を誘う

時事潮流 インバウンド対応

公開日:2016.02.24

 訪日旅行者が急増し、中国人による“爆買い”が注目を集めた2015年は、インバウンド元年といえる。中国人向けのSNSで口コミを戦略的に増やすなど、ユニークな手法で売り上げを伸ばす企業も出始めた。政府は、2030年までに訪日旅行者を3000万人にする目標を掲げる。

実質的なインバウンド元年となった2015年

 観光バスで乗り付けた大勢の外国人旅行者が、ショッピングモールやドラッグストアに押し寄せ、医薬品や雑貨などを大量に買いまくる。いわゆる“爆買い”の光景は、東京や大阪だけでなく、地方都市でも珍しくなくなった。

 日本を訪問する外国人は東日本大震災後の2012年以降に急増し、14年には年間1341万人になった。15年は1~9月までの実績で、前年を上回る1449万人に達し、このままいけば2000万人の大台に迫る勢いだ。

 15年1~9月の訪日外国人のうち、最も多いのは中国からで26.5%、2位は韓国で19.7%、3位が台湾で19.1%と続く。15年に中国人向けのビザ発給要件が緩和されたほか、円安が進んだため、旅行先に日本を選ぶ中国人が急増したことが背景にある。

体験会に留学生を招待

 観光庁によると、15年1~9月の訪日外国人旅行者が日本国内で消費した額は約2兆6000億円、そのうち中国人の支出が最も多く42%を占める。2位は台湾からの旅行者で15%だ。こうした、中国や台湾からの旅行者による大量購買が、多くの中小企業に恩恵をもたらし始めている。

 インバウンド向けのプロモーション支援などを手掛ける中国市場戦略研究所(東京・中央)の徐向東(ジョ・コウトウ)代表は、「中国人は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で日本製品の口コミを調べていて、旅行者に購入を依頼することが多い」と説明する。

 中国人旅行者の多くは、事前に買い物リストを作成して来日するといわれる。つまり、自社製品の情報をSNSで拡散できれば、爆買いの対象になる可能性が高まるわけだ。

 顔型のシートに化粧水を染み込ませたフェースマスク「ルルルン」を販売するグライド・エンタープライズ(東京・渋谷)は、商品の認知度を高めるため、15年6月下旬に中国人留学生ら20人を集めて、製品体験会を東京で開催。さらに7月には上海でも美容に興味を持つ現地の消費者らを集めた体験会を実施した。

 その結果、中国で人気があるSNSの「微信(ウェイシン)」や「微博(ウェイボー)」に、商品の写真入りで使用感を語る投稿が増え、同社が15年2月に微信に立ち上げた公式ページへのアクセスが急増した。その効果で、国内の免税店での同製品の売り上げは体験会を開く前に比べて2.5倍に増えた。

 同社の加賀忠聡執行役員は「フェースマスクに含まれる化粧水の量の多さなどを実体験してもらえたことでSNSの口コミが増えた」と手応えを語る。内外を合わせた「ルルルン」の売上高は、15年度には40億円程度になる見込みで、このうちインバウンド向けの販売は10%弱を占めると予想する。

投稿から販売予測

 インバウンドビジネスの支援サービスも続々と登場している。

 トレンドExpress(東京・千代田)は、微信や微博での中国語の投稿内容を分析して、企業向けにリポートするサービスを提供する。

 中国のSNSで知らぬ間に口コミが広がり、国内でそれほど知られていなかった製品が急に売れ出すケースが増えている。SNSの投稿を分析すれば、こうした事態をタイムリーに把握できる。さらに、「投稿数の増減を継続的に追うことで、ある程度の販売数量を予測し、生産計画に反映できる」と同社の四家章裕編集長は語る。

 中国経済の成長は減速傾向にある。しかし「従来ほどではないが、中国人旅行者の消費額は今後も増えていく」と野村総合研究所社会システムコンサルティング部の岡村篤グループマネージャーは見る。

 日本政府は、30年までに外国人旅行者を3000万人まで増やす計画だ。爆買い対策に乗り出すのであれば、今しかない。

日経トップリーダー/太田憲一郎

【T】

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