中小企業のトレンド(第6回) 最低賃金が過去最高の引き上げ、地方に影響不可避

人手不足対策 法・制度対応

公開日:2015.11.19

 2015年度の最低賃金引き上げの目安額が、過去最高の平均18円に決まった。最も賃金の低い地域でも16円。地方にアベノミクスの効果を波及させたい政権の意向が背景にある。最低賃金ぎりぎりで求人している多くの中小企業にとって、経営への影響は避けられない。

 7月29日朝。前日午後から開催されてきた、厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会は、2015年度の最低賃金改定の目安を、平均18円とすることを決めた。昨年度の16円を上回り、02年に今の仕組みになってから最高の額だ。

 最低賃金は正社員のほかパートタイマーやアルバイトにも適用され、その額を下回る賃金は原則として違法。都道府県別に時給で表され、4つのランクごとに改定の目安額が決められる。

 今回は、Aランク19円、Bランク18円、C・Dランク16円。これを受けて各地の最低賃金審議会が実際の引き上げ額を答申、都道府県労働局長が最終決定して10月頃から実施される。既に大阪の20円、石川や島根の17円など、目安額を上回る額を答申した地方も出てきている。

 目安額は、労働者側・使用者側が話し合い、意見が一致しない場合は学識経験者などで構成する公益委員がとりまとめる。今回の決定に際し公益委員側は、安倍晋三内閣が6月下旬に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2015」や「『日本再興戦略』改訂2015」に「特段の配慮」をしたという。地方にもアベノミクスの効果を波及させたい政権の意向をくんだ、最高額の答申だったわけだ。

TS-1-6-2-2_k もっともある委員は、「年3.3%という消費者物価の上昇率(14年)から見れば25円を超えてもおかしくはない。そこから、昨年度の改定に盛り込んだ消費税率のアップ分を差し引けば、18円には一応の根拠はある」と、政権側の言いなりになったわけではないと話す。

 地方の中小企業経営者にとって最低賃金の引き上げは一大事だ。例えば自動車関連製品の製造を手掛ける安田精工(鳥取市)の安田晴雄会長は、「14年度のDランクの引き上げ幅である13円を死守すべきだと思っていたので、16円と聞いて耳を疑った。鳥取では景気の好転は実感できない。今回の改定をきっかけに、人減らしや廃業も起こりかねない」と危惧する。

パートの賃上げから

 最低賃金の引き上げが直接影響するのは、パートやアルバイトを採用する際の賃金。「非正規社員を多く雇用する食品加工、外食、小売りなどは大きな影響を受ける。さらに時給の高い従業員にも賃上げは波及する」(前出の中央最低賃金審議会委員)。パートなどの賃上げを行えば、正社員からも賃上げ要求が出てくる。こうした波及効果を狙って、安倍政権は最低賃金の引き上げを打ち出したわけだ。

 現在、鳥取県内の企業に適用されている最低賃金の額は677円。異議が出なければ10月4日に693円になる。県内のハローワークで求人票を見ると、ある介護企業は最低時給を677円にしてパートを募集していた。こうした企業は引き上げの影響をもろに受ける。中には、7月29日に労働条件を変更し、試用期間中の時給を680円から700円に引き上げた飲食店もあった。

 もっとも賃上げは、まずその地域の雇用情勢に左右される。鳥取県の6月の有効求人倍率は全国平均とほぼ同水準の1.17。過去1年間の上昇率は全国平均の倍で、既に賃上げの圧力は高まっていた。

 では、同じDランクでも有効求人倍率の低い地方はどうか。例えば高知県。6月の有効求人倍率0.9は、全国で4番目に低い数字だ。高知でハローワークに寄せられている求人票を見ると、時給677円や680円を提示している会社が散見される。

 高知県の最低賃金審議会の委員を務める吉澤文治郎氏(ひまわり乳業社長)は、「山間部を中心に最低賃金額を給与に設定している会社は珍しくない。今回の引き上げはこうした地域に根ざした中小企業を直撃する。3年連続の2ケタ引き上げに『またか』という声も出ている」と話す。

 最低賃金は、労働者の生活費や賃金水準、企業の支払い能力を総合的に判断して決定される。一方目安額には、今回のように「時々の事情」も反映されるため、最近は実際の賃金上昇率を大幅に上回る改定が続いてきた。

 現在、目安制度の改革議論が進んでおり、16年度の最低賃金改定までにランク区分の見直しや目安への信頼感回復策が話し合われる予定。安田精工の安田会長は、「現在の目安額は金科玉条。もっと地方の自主性・独自性が発揮できる制度にしてほしい」と話している。

日経トップリーダー/井上俊明

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