ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
市街地より少し遅れて八ヶ岳山麓に桜が咲き始める頃、待望のわが家が完成した。待ちに待ったこの日、夫と一緒に間取りを考えたこだわりの家に入る。さて、その住み心地は?
桜と八ヶ岳が望める北杜市内のお気に入りの場所。この春、いよいよ山麓での生活がスタートする
引き渡しの日はあいにくの冷たい雨。午後の約束の時間、ドキドキしながら玄関のドアを開けると、家の中は暖かく、ほのかに木の香りが漂ってきた。工事の過程を見学に来ていたときと同じように「おじゃまします」と言って入ったら、工務店の人に「今日からは小林さんの家ですよ」と笑われてしまった。でも、まだ実感がない。
ウッドショック(第11回参照)で難航した大工工事が終わってからは、あっという間に作業が進み、壁塗りが終わったかと思うと水回りが整えられ、照明器具などが取り付けられた。それまでの工事現場という様子から、内装が施されていくにつれ、急に家らしい雰囲気が増す。
半導体などの部品不足の影響で、設置はゴールデンウイーク前後になると工務店から言われていたエコキュートとIHクッキングヒーター、ウォシュレットなどの電気機器も、引き渡し日直前にすべてそろった。この日のために工務店が相当頑張ってくれたようで、「いや〜、本当に参りました」と担当者が苦笑い。電気機器が間に合わなければ、1カ月ほど、お風呂は最寄りの入浴施設へ通い、食事は登山で使う携帯用のガスバーナーで調理、トイレは庭の仮設を使うのかな、と覚悟していただけに、何よりありがたい。
担当者から電気製品の使い方などを一通り教えてもらった後、「暖房を一度止めますけど、今日はこれまでの住まいに帰られますよね?」と確認された。この問いに「いや泊まります。寝袋を持ってきたので」と私が即答すると、「寝袋で寝るんですか」と目を丸くして驚かれた。引っ越しはまだ先だけれど、それまで待てないのが私の性格。家ができたら、道具がそろっていなくても、早速生活してみたい。
夕方、簡単な食事を済ませると、早くも寝袋に入って3人でごろんと床に寝転がる。テレビも家具もない、出来上がったばかりの家。天井に貼られた木の板のやさしい色と、白い壁が落ち着いていていい感じだ。屋根をたたく雨音がリズミカルで心地いい。まるで、静かな山の中の小屋にいるような気分。無事に引き渡しとなって安心したからか、「これから、ここでどんな生活が始まるんだろう」などと考える間もなく、眠りに落ちてしまった。
その後、マンションと新居を行ったり来たりしながら、1週間ほど生活してみた。「3度建てないと満足する家はできない」とよく聞くけれど、実際に住んでみると、やはり間取りを考えたときには気付かなかった点が見えてくる。扉の開きは左右逆のほうがよかったとか、ここに収納庫を作ればよかった、コンセントが足りなかったなどなど。
とてもシンプルな内装のわが家
私たちが間取りを考えるとき大切にしたことの一つに「空間のつながり」がある。部屋の仕切りは最小限にして、なるべく壁やドアは付けず、家のどこにいても家族それぞれの気配が感じられるようにした。息子のガクが一人遊びをしたり、もっと成長したら学校の宿題をしたりする姿を見守りつつ仕事や家事をしたいと思って、キッチンだけでなく仕事スペースも、リビングや寝室と完全には区切らない造りにしたのだ。
ガクはこれまで、隣の部屋にちょっとしたものを取りに行っただけで「ママ、いない」と言いながら半泣きで追いかけてきたのが、新居では姿が見えなくても気配が感じられるからか、後追いが少し軽くなったような気がする。夕食の支度をしているときも、リビングでくつろぐ夫と話がしやすく、これまでより会話が増えたのもいい点だ。
でも、部屋の区切りがないのは欠点もある。春は、夏の登山ハイシーズンに向けて出版物が増えるので、私の仕事が一年で最も忙しい時期となる。真っ先にパソコンやプリンターを持ち込んで、新居でも半徹夜の日々が続いている。締め切り時刻が迫り、つい強く打ちがちになるパソコンのキーボードの音や、殺気立って仕事をする気配もガクが寝ている部屋に伝わってしまい、夜中に目を覚まして泣くこともしばしば。そのたびに仕事を中断して寝かしつけに戻らなければならない。さらにここ一番、集中したいときに「ガーッ、ゴーッ」と夫のいびきが聞こえてくると、ちょっとイラッとしてしまうことも。やはり仕事スペースは独立させるべきだったかな、と思った。
これからも、もっと気になる箇所が出てくるかもしれない。でも、長い時間をかけて自分たちで考えた間取りなので、多少不便でも「しょうがないかぁ」と思えるし、不便さを許容できる愛着も持っている。気になる所は自分たちで工夫して、少しずつ家と生活がなじむようにしていきたい。
山野を彩る季節の植物たち ~アヤメ~
わが家には、土地を譲ってくれた元地主さんから受け継いだ草木がいくつかある。その中でも特に気に入っているのが5月中旬から咲き始めるアヤメだ。直径1mほどの大株が2つ。花が咲きそろうと、とても爽やかで、庭が明るく感じられるほど。カキツバタやショウブと花の形がよく似ているけれど、違いは外側に開く花びらの付け根に網目模様があること。それでアヤメを「文目」「綾目」とも書くのだとか。大きくて美しい花だけれど、それぞれ1日でしぼんでしまうのが惜しい。
執筆=小林 千穂
山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どもの頃に山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』など登山専門誌に多数寄稿するほか、『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)、『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)などの著書がある。現在は山梨で子育てに奮闘中。
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ココロ踊る!山麓生活のススメ