ココロ踊る!山麓生活のススメ(第13回) 新居の壁塗り体験で職人技に敬服

スポーツ

公開日:2022.04.15

 昨年の夏に始まった家の建設は、春になって大工作業が終わり、内装などの仕上げ段階になった。地盤調査から見守り続けた家づくりも、いよいよ完成間近。最後に、壁塗り体験で思い出づくりをさせてもらった。

左官職人の道具を見るだけで楽しくなる

体にやさしい自然素材の壁

 私たちが施工をお願いしたA工務店は、自然素材を多く用いた家づくりをしている。内壁もその1つで、一般的なビニールクロスではなく、左官仕上げの塗り壁が標準仕様だ。健康志向の高まりに加えて、環境への配慮という点からも、塗り壁の人気が高まっているらしい。

 最近主流の塗り壁素材は、伝統的なしっくいと、30年ほど前から一般にも使われるようになった珪藻(けいそう)土がある。このうち、A工務店のお薦めは珪藻土。しっくいの原料は消石灰で、地中から採掘される石灰石。一方の珪藻土は、珪藻という植物プランクトンが堆積して化石化したもの。どちらも自然素材で、燃えにくいのが利点。さらに珪藻土は小さな穴をたくさん持つ構造なので、湿気の吸収・排出に優れていて、調湿・消臭効果があるといわれている。それにしっくいはムラになりやすいので高度な職人技が必要となるが、珪藻土は比較的扱いやすく、DIYでの作業もしやすいとのこと。

 そんな話を聞いたり、左官職人が使う道具を見たりしているうちに、ムクムクと好奇心が湧いてきて、自分でも塗ってみたくなった。

見とれるほど美しい左官作業

 工務店に相談すると、好きな場所を体験的に塗らせてくれるという。週末、家では左官職人のSさんが準備をして待っていて、「さあ、どこを塗りますか?」と迎えてくれた。珪藻土は下地と仕上げの二度塗りをするが、下地は難しいので、私たちがやるのは仕上げの塗り。ニッチ(壁を凹ませて作る棚)などの構造物がなく、塗りやすくて、あまり目立たない所がいい。少し考えて、納戸の一部を塗らせてもらうことにした。

 Sさんがお手本を見せてくれる。まずは、ホットケーキの生地のようにドロリと練られた珪藻土を柄杓(ひしゃく)に軽く一杯とり、左手に持ったパレットのような「コテ板」に乗せる。右手でコテを持ってリズミカルに動かし、生地をひとまとめにしたかと思うと、ひょいとコテ板を返す。コテに移した珪藻土を微妙な力加減で壁に押しつけて、気持ちよさそうに伸ばしていく。手早く作業を繰り返して、壁の一面があっという間に塗られた。コテ跡がまったく残らず、厚さも一定で美しい。大工のNさんの手仕事にも感動したけれど、Sさんの作業も見ているだけでほれぼれする、まさに職人技だ。

 「まあ、こんな感じですね。じゃあ、やってみますか?」とコテとコテ板を私たちに渡してくれた。夫と顔を見合わせて、お互いに譲り合った結果、夫からやってみることに。

扱い慣れない土に苦戦

 自信なさげに道具を受け取った夫は、「まずは、コテに生地を乗せるところから……」と板の上で土をこねてみるけれど動きがぎこちなくて、何度やっても、まったくコテの上に乗りそうもない。そもそも、ドロドロした液状のものを、真っ平らのコテに乗せるのは難しく、相当なテクニックが必要そうだ。

 Sさんが「もう一度、私がやってみましょうか?」と道具を受け取ると、さっきと同じようにコテを何度か返しながら、生地をカマボコ状に盛り上げた瞬間、板を大きく返し、見事にコテに乗せた。

 夫は「分かったぞ。思い切りが大事だね」と再度道具を手にすると、Sさんのマネをして、コテと板を返した。でも、それは土を板から押し出しただけで、生地は悲しくもベタッと音をたてて、床に落ちた。「あ〜」とがっかり。

 Sさんのようにカッコいい技に挑戦するのは諦め、板の端に乗せた生地をコテで押し出すようにして、直接壁に付ける方法に変えた。これなら何とかなりそうだ。夫は見よう見まねで土を塗り広げ、畳半分ぐらいを塗り終えた。そして、少し満足したところで私に交代となった。

まったく思い通りにいかない壁塗り

 実際に道具を手にしてみると、急に緊張してくる。勇気を出し、私も夫と同じように、板の生地を壁に押し付けるようにして塗ってみる。でも、どうしても厚い所、薄い所のムラができてしまい、凹凸を直そうとすると、今度はコテの跡が残る。跡を消そうとコテでなぞれば、また違う場所に新しいコテ跡が残る。同じことを繰り返しているうちに、だんだんと土が乾いて伸びなくなってしまった。

 焦っていると、「コテ跡をわざと残す仕上げ方法もあるんですけど、ちょっときれいにしましょうか?」とSさんが交代してくれて、私が塗った跡をやさしくなでると、不思議なぐらいに跡がきれいに消えた。基本的な作業ができるようになるだけでも1年はかかるとSさんは言っていたけれど、実際にやってみると、どれだけ難しいかがよく分かる。

 その後も夫と代わる代わる作業をして、やっと畳1枚分を塗り上げた。変な所に力が入っているのか、体はギシギシと痛く、集中力もそろそろ限界。一部屋分を塗るつもりで挑んだものの、壁の一部で早くもギブアップした。

 前処理を含めると、家1軒分を塗るには、職人が数人がかりで10日ほどかかるそう。本当にありがたいことだ。日に日にイタズラが激しくなる1歳の息子・ガクが、クレヨンやマジックで壁に落書きをしないように、必至に守らなければ。

塗り終えた後、息子と3人で記念の手形を付けた

山野を彩る季節の植物たち ~アセビ~
 木々の新緑が美しい頃、アセビは、ぼんぼりのような小さな花をたくさん付ける。私は野山でこの花を見ると、春本番だなあと思う。木によっては、ジャスミンのように、ほのかに甘い香りを感じることも。有毒植物で、漢字では馬酔木。馬が食べると、酔ったようにフラフラするから、とか。

執筆=小林 千穂

山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どもの頃に山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』など登山専門誌に多数寄稿するほか、『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)、『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)などの著書がある。現在は山梨で子育てに奮闘中。

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