ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
前回の記事で1年半前に新しい暮らしの場所を探し始めたと書いたが、それ以前から折をみて土地探しはしていた。というのも、静岡に住む両親が、山梨への移住を希望していて、私たちは両親のための土地探しに協力していたのだ。両親の移住計画は、いろいろとあって進まなかったが、その経験のおかげで、この辺りの土地の価格帯や地勢などに少しは詳しくなっていた。
半年後には子どもが生まれるというタイミングで、なるべく早く新しい生活をスタートさせたかった私たち夫婦は、土地だけではなく中古住宅も合わせて探すことにした。土地を購入しても、それから家を建てるとなると、どんなに急いでも半年以上はかかってしまう。それに比べて中古住宅なら、引っ越しをすれば、すぐに住み始められるのが魅力だった。
不動産業者のWEBサイトや不動産の情報サイトをチェックし、現地公開されている物件は、Googleマップなどの地図サイトで周辺の学校やスーパーの場所などを確認。よさそうな場所が見つかったら不動産業者に連絡して、現地を見学させてもらった。たまには両親も来て、ドライブがてらいろいろな場所を一緒に見て回った。中古住宅の間取りを見ながら、ここは子ども部屋、ここは寝室、ここは仕事部屋などと想像するのが楽しくて、毎晩サイトをチェックし、そして毎週のように現地へ家探しに出掛けて行った。
私たちの希望する条件にピッタリと合う家や土地はなかなか見つからなかったけれど、いつかはイメージに近い物件に巡り合えるだろうと気楽に考えるようにして、探し続けていた(どのようなポイントで物件を探したかは、次回に書こうと思っている)。
毎週のように県内のいろいろな場所へ住まい探しに出掛けた(写真は甲山からの甲府盆地と富士山)
そんな私たちが焦りを感じ始めたのが2020年3月のこと。新型コロナウイルス感染症で世間の緊張感が高まる頃、目星を付けていたいくつかの物件が、次々と「売約済み」になっていった。特に中古物件は競争が激しく、問い合わせると「先週、売れました」とか「昨日、契約だったんです」などと言われ、がっかりすることが多くなった。
スーパーからマスクやトイレットペーパー、食品がなくなったり、外出自粛の機運が高まる中、危機感を持った首都圏の人々の間で「プチ移住」が増えているということがニュースになったりもした。不動産業者に聞くと、問い合わせが通常の3倍以上に増加し、長い間売れなかった中古の家も急に売れたという。
実際に、認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」が発表した2020年の「移住先ランキング」(https://www.furusatokaiki.net/topics/ranking_2020/)によると、山梨は静岡に次いで、全国2位の人気。山梨、静岡はアクセスが良いうえ、首都圏から遠過ぎず、近過ぎず、ちょうどよい距離だし、気候も比較的穏やかとあって移住先にいい場所なのだろう。危機的状況に陥ると移住熱が高まるようで、不動産業者によると、このようなことは、2011年の東日本大震災の直後にもあったという。
移住先として人気の山梨県(写真は桃源郷を貫くリニア実験線と南アルプス、八ヶ岳)
そんな中、築13年で5LDKという十分過ぎる間取り、土地も家庭菜園ができる余地があり、正面には南アルプスが見わたせる高台という、私たちの希望にピッタリな物件を見つけた。部屋数が多いので、山梨への移住を希望していた両親との同居も考えられる。しかも土地と建物合わせて1300万円台という破格の値段だった。
ダメ元で問い合わせると「契約直前でキャンセルが出て、再度、売り出しを始めたところなんです」との回答。「これこそ運命だ」と、私たちはすぐに現地へ見に行った。建物は想像よりしっかりしていたし、山々の眺めが圧倒的で、ほぼ即決。数日後には申し込みをしてその物件を抑えた。
しかし、契約までの間に調べると問題がいくつか出てきた。まず、それほど古い家ではないのに、仲介業者によると、平面図・設備図・申請書類など建物を知るための書類が何も残っていないという。図面がないと、どのような構造で、どこの業者が建てたものかわからないだけでなく、今後リフォームをするときにも困るかもしれない。でも、それは中古住宅ではあることらしく、あまり気にならなかった。
家が建っている土地は、近くに住む元地主(売り主と親戚関係の別の人。地区の旧家で影響力もある)が自ら造成工事をして分譲地として売ろうとした場所だった。問題に思えたのは、専門業者が行った工事ではないため、上下水道がどのようになっているかが不明瞭だったこと。さらに、各区画への電線の引き込みもその元地主が行っていて、電気料金は電力会社ではなく、使用した分を個別メーターで計算して元地主に支払うという、ちょっと変わったシステムだった。
上下水道について仲介業者に聞いても、どうもはっきりとした回答がない。そこで、業者の許可を得て市役所に問い合わせをした。私たちはライフラインに関することだけはクリアにしておきたかったのだが、市役所でも詳細を把握はしておらず、結局、疑問点は解決しないまま、正式に契約することに決めた。その不安には目をつむってもいいと思えるほど得難いロケーションだったし、上下水道も当面、生活するには問題ないだろうと考えたのだ。
ところが、契約の数日前になって突然、仲介業者から「あの物件はあきらめてほしい」と言われてしまった。市役所へ問い合わせをしたことが元地主の耳に入って、気分を害してしまったらしい。売り主を飛び越えて、元地主が断るように言っているという。土地も家も売り主の物で、元地主の所有ではないから、元地主から断られる筋合いではないのだろうが、そう言われたら、私たちは黙って引き下がるしかなかった。無理にその家を手に入れたところで、元地主とは近所付き合いをしなければならず気まずいし、何より、その物件は、元地主を通してしか電気を使えないという大きな弱みがあった。
契約は白紙となり、物件探しも振り出しに戻ってしまった。すでに、あの家での生活を思い描いていただけに、気持ちが一気に落ち込んだ。出産予定日の2週間前のことだった。
山野を彩る季節の植物たち〜イカリソウ〜
ランを思わせるユニークな形、淡い紫色が魅力的で、見つけるとうれしくなる花の1つ。林床や草原に生育していて、4〜6月に花が開く。ハート型の葉もかわいらしい。名前の由来は「怒り」ではなく、船を固定する「碇・いかり」に花の形が似ているから。茎が3本に分かれ、それぞれに3枚の葉が付くことから三枝九葉草(さんしくようそう)という別名もある。
執筆=小林 千穂
山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どもの頃に山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』など登山専門誌に多数寄稿するほか、『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)、『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)などの著書がある。現在は山梨で子育てに奮闘中。
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ココロ踊る!山麓生活のススメ