最新セキュリティマネジメント(第14回) 未来を担う高度IT人材の育成に注力

リスクマネジメント 働き方改革

公開日:2022.07.26

 本連載では前回から、情報セキュリティの啓発やDXの促進、高度IT人材の育成などに取り組む独立行政法人情報処理推進機構(以下:IPA)が発信する情報を活用して、経営者が知っておくべき最新のセキュリティ情報を紹介している。今回は人材育成への取り組みを解説する。

 IPAの活動の一つに、セキュリティ人材を育成する「セキュリティ・キャンプ」がある。2022年は8月8日から12日の4日間にわたって全国大会が行われる。22歳以下の学生や生徒、児童を対象に、日本の高度なセキュリティ人材の育成を目的としている。活動の内容と意義について説明する。

選抜された22歳以下を対象に、学びの場を提供

 今回の全国大会はオンライン開催となるが、もともとは児童や生徒も参加できるように、夏休みの時期の月曜日から金曜日に4日間の合宿形式で行われていた。IPAと一般社団法人セキュリティ・キャンプ協議会が中心となって開催しており、情報セキュリティ技術を無料で学べる。

 対象となるのは日本国内の学校に在籍する22歳以下の学生や生徒、児童などで、仕事に就いている人は対象外となる。一度参加した人は5年間エントリーできない。エントリーの際には応募課題に回答してもらい、IPAではこの応募課題の回答を審査して選考通過者を決定する。

 22歳以下のアマチュアを対象とするセキュリティ・キャンプだが、応募課題はよほどセキュリティに詳しくなければ太刀打ちできない内容だ。インターネットでちょっと調べて回答できるレベルではない。

 応募課題はクラス別に設定されている。例えば、「専門コース」の「IoTセキュリティクラス」では、これまで作成したアプリやWebサイトの内容について詳しく紹介することなどが求められた上で、ICチップ内に記録されたファームウエアからの技術の漏えいについてのリスクや、自動運転車のデータの流れや脆弱性とその対応策への考察が求められる。

 「開発コース」の「暗号解読チャレンジゼミ」では、公開鍵と秘密暗号鍵のどちらの理論に絞るかを選択した上で、暗号方式の一つである「Cramer-Shoup暗号」が安全でなくなる場面を考えてそのシナリオを記述させたり、通信データの暗号化で使われている「AES暗号」の解読手法の解説を求めたりする課題が出題されている。

 応募課題の内容から、選考を通過してセキュリティ・キャンプ全国大会に参加する若者たちのレベルの高さが推測できる。まさに日本のセキュリティの将来を担う高度IT人材の卵たちである。

セキュリティ・キャンプの仲間たちが貴重な財産に

 セキュリティ・キャンプでは、セキュリティの実務者や研究者だけでなく、アカデミーやインダストリーの第一線で活躍する心理学や医療、法律など幅広い分野のプロフェッショナルが各クラスの講師を努め、4日間にわたって座学だけでなくグループワークや成果発表会などが行われていく。

 最も重要なのは、セキュリティ・キャンプを通してポテンシャルの高い若い人材同士が交流できる点だ。小中学生から高校生、高専生、専門学校生、大学生、院生などが立場や年齢の違いを超えて、セキュリティをテーマに真剣に議論を交わして生まれたつながりが、その後の人生の貴重な財産になっていく。

 応募課題に答えられるレベルにある若手人材は、実は孤独だったりする。学校や地域には同レベルの仲間がいない場合も多いからだ。「セキュリティ・キャンプに来て居場所を見つけた」と話す参加者もいた。仲間がいて互いに刺激し合えば、知識やスキルを向上させていける。

 講師の中にはセキュリティ・キャンプの参加経験者も多い。彼らが成長し、指導する立場になり、再びセキュリティ・キャンプに戻ってくる。こうしたコミュニティーの形成は、日本の情報セキュリティの将来にとって明るい光になるだろう。

 IPAでは門戸を広げ、地域主導の「セキュリティ・ミニキャンプ」や、セキュリティ・キャンプの上位バージョン「セキュリティ・ネクストキャンプ」も開催している。これらはセキュリティ人材の裾野を広げるとともに、トップレベルを引き上げるという狙いもあるため、機会を見つけて情報をチェックしてほしい。

 今回は次世代の人材育成を取り上げたが、IPAでは中小企業で働く経営者、従業員向けにやさしいセキュリティ学習といった身近な教育にも積極的に取り組んでいる。例えば、オンラインで受講可能な「5分でできる情報セキュリティ学習」といったコンテンツは中小企業のセキュリティ教育にピッタリだ。こうしたIPAの教育・育成コンテンツなどを活用して、情報セキュリティのレベルアップに力を入れよう。

執筆=高橋 秀典

【TP】

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