ニューノーマル処方箋(第64回)
ランサムウエアがビジネス化。「RaaS」の脅威
<目次>
・なぜ、UTMは高速回線のボトルネックになり得るのか
・セキュリティリスクを高める現場の不満
・「セキュリティ」と「速度」を両立するクラウド型セキュリティ
・変わる働き方に合わせて、セキュリティも最適化を
「せっかく高速回線を導入したのに、ネットが遅い......」
こんな声をよく耳にしますが、原因はセキュリティ機器にある可能性があります。サイバー攻撃が高度化する中、セキュリティの強化は欠かせません。一方で、通信速度が犠牲になるのは多くの企業が抱える悩みの1つです。実はこの「セキュリティと通信速度のトレードオフ」は、今や避けられる時代になっています。
多くの企業が採用してきたUTM(Unified Threat Management:統合脅威管理)は、企業のインターネットの出入り口に設置し、通信の検査や制御を一括して行う機器です。ウイルスチェックや不正アクセス検知など多くのセキュリティ機能をまとめたUTMは、これまで主流だった「オフィス内にいること」を前提とした境界型セキュリティの代表的な存在だったといえるでしょう。
しかし、昨今ではこのUTMが高速回線のメリットを打ち消す要因となるケースが増えています。前述のようにUTMは社内から外部、また外部から社内の通信をすべてチェックする仕組みです。セキュリティを強化するほどチェックすべき項目が増え、通信処理の負荷も高まるため、仮に回線が高速でもUTMの処理能力がボトルネックとなり、「速度が出ない」という事象が生じるのです。
UTMによる通信遅延は、日常業務にも少なからず影響を与えます。例えば、クラウドストレージへのファイル送受信に時間がかかる、オンライン会議で映像や音声が途切れるといった例は多くの企業で見られます。
こうした状況が続くと、現場からは「業務に支障が出るなら、セキュリティ設定を見直してほしい」といった声が上がり、セキュリティポリシーが実態に合わない形で緩和されていくケースも少なくありません。その結果、必要な対策が形だけになり、業務効率を優先するあまり、企業全体のリスクがかえって高まるという本末転倒な状況に陥る可能性があります。
特に近年は、ビジネスコミュニケーションのオンライン化が加速し、大容量データのやり取りやリアルタイムな情報共有が不可欠になりました。こうした環境ではセキュリティ強化と業務効率の両立が、これまで以上に重要な課題になっているといえます。
こうした課題を解決する手段として注目されているのが、クラウド型のセキュリティサービスです。これまでオフィスの境界に設置されていたUTMの役割を、クラウド上のセキュリティプラットフォームに置き換える仕組みです。
最大のメリットは、セキュリティを強化しながら、高速回線のスピードを最大限に生かせることです。この方法では、従業員が使用するパソコンごとにエージェント型のアプリケーションをインストールし、インターネット通信を直接クラウド上のセキュリティプラットフォームで監視・保護するため、オフィスのUTM機器を経由する必要がありません。物理的な機器を介さないのでUTMによる処理遅延が発生せず、回線本来の速度を期待できます。
さらに、オフィス外でもオフィス内と同じセキュリティ対策が適用されるのもポイントです。アプリケーションがインストールされたパソコンをインターネットに接続する場合は、必ずクラウド型セキュリティを通るため、リモートワークや外出先でも社内と同じセキュリティポリシーを一貫して適用できます。
セキュリティ強化による業務効率の低下を防ぎ、働く場所を問わず安心してビジネスを進められる。これが、クラウド型セキュリティならではの強みといえるでしょう。
「セキュリティを強化すれば通信速度が犠牲になる」という従来の常識は、クラウド型セキュリティサービスの登場により変わりつつあります。オフィスの境界にとらわれず、端末単位でセキュリティを確保する仕組みは、リモートワークやクラウド活用が進む現在の業務環境とも相性が良いと考えられます。
通信の快適さと安全性を両立しながら、企業全体のセキュリティ対策を見直すきっかけとして、こうした新しい選択肢を検討してはいかがでしょうか。
【TP】
ニューノーマル処方箋