ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
小さな会社のオーナー社長の場合、会社のお金も自分のお金と考え、簡単に会社からお金を借りてしまう場合が少なくありません。このときの会社の経理処理での勘定科目は「代表者貸付金」となり、決算期において、社長から会社への返済がすべて済んでいない場合には、決算書の貸借対照表に「代表者貸付金」として記載されます。
オーナー社長が会社からお金を借りる理由はさまざまですが、例えば、社長個人の費用の支払いを会社が行っているケースや、会社の利益を増やすために役員報酬を低く抑えた場合などに、社長とはいえ生活費が必要となり、その資金に充てるために借り入れるときがあります。また、経費の領収書をなくしてしまい、費用に落とせなくなったときなど、社長への貸し付けで処理する場合もあります。
オーナー社長にとっては、自身でお金を出して会社を設立し、すべての経営責任を背負い、はたまた会社が銀行などから融資を受ける際には、連帯保証人としての責任を負うため、「会社は自分のもの」と思うのも理解できます。しかし、会社が代表者にお金を貸していれば、返してもらわない限り会社の貸借対照表上にこの「代表者貸付金」は残ってしまいますし、貸し付けた分、会社の現金・預金は減少していきます。
このような「代表者貸付金」ですので、活用するメリットはまったくと言っていいほどありません。反対にデメリットは多数あります。以下に主な「代表者貸付金」のデメリットを4つ上げます。
【デメリット1】
銀行などの印象が悪くなり、場合によっては銀行などから代表者貸付金の完済が求められます。銀行などから融資が受けられなくなる可能性もあり、まさに会社にとっては死活問題となります。
なぜ印象が悪くなるのかというと、「代表者貸付金」がある会社は、オーナー社長が私的に会社のお金を使っているのではないか、返済する見込みがないのではないかとみられる可能性が高いからです。銀行などは融資する際に返済が可能な会社かどうかを判定します。その際に毎年の決算期の勘定科目に「代表者貸付金」があるようですと、融資しても最終的には社長個人に使われてしまうのではないかと考え、融資を行わない場合もあります。
【デメリット2】
会社は貸付金に伴う受取利息の計上から、結果として負担する法人税が増えてしまいます。会社が社長にお金を貸した場合、利息を取る必要があります。この利息は法律で定められている利率で計算され、法人税の課税対象です。この利息分の法人税が納税されていなければ、税務調査の際には必ず指摘されます。
【デメリット3】
代表者貸付金の残高は相続人の債務として引き継がれます。そもそも代表者貸付金は、会社がオーナー社長にお金を貸しているということであり、オーナー社長個人からみれば会社から借金をしているわけです。このような中でオーナー社長が亡くなった場合には、その相続人が会社からの借金を引き継ぎますので、相続人は会社からの借金を返済しなければならなくなります。
【デメリット4】
貸付金の債権を放棄するとオーナー社長に対する役員賞与として会社の負担が増加します。これは、会社が貸付金の完済が見込まれないとして債権を放棄した場合、税法上、原則として役員に対する賞与とみなされます。役員に対する賞与は会社の経費に認められませんから会社の負担は増えますし、社長個人には所得税が課税されるということになります。
オーナー社長にとっては使い勝手の良い代表者貸付金ですが、その額が増加しすぎた場合には、上記のデメリット対策として何らかの対応が必要となります。そうした面倒な事態を防ぐためにも日頃から会社と個人のお金を分けるように心掛け、会社の経営方針をきちんと立てて計画的に事業を進めていく必要があります。また、経費の領収書などは保管しておくよう、経理処理の面においてもしっかりとした体制作りを心掛けましょう。
次回は、会社がオーナー社長から借り入れを行う「代表者借入金」の注意事項などについて紹介します。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ、複数の税務署長を経て、2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。
株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。
【T】
個人事業主・小さな会社の納税入門