ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
2024年7月16日、東京都医師会は定例記者会見を行い、感染が拡大している新型コロナウイルスの動向について解説をしました。このペースでいくと1カ月後には感染者数が3倍から4倍になるという衝撃的な内容でした。
2023年5月8日から新型コロナウイルスが「5類感染症」に移行し、限られた医療機関での受診から幅広い医療機関においての受診が可能になっています。これらの医療機関で感染者に「早めに診断して "治療薬を飲みますか" 」と言っても、負担額が高額のため我慢してしまう人が多く、重症化する人が増えているとの懸念を示しました。代表的な治療薬であるラゲブリオやパキロビッドは保険適用となるものの、3割負担で約3万円、ゾコーバは3割負担で約1万5000円かかります。
このような状況を回避するために、東京都医師会の尾﨑治夫会長は、「自己負担なしとはいかないものの、せめて感染者数が増加する夏場だけでも自己負担額が3000円から5000円程度で済むような対応を国や都にお願いしたい」と話していました。
体力のある若者は重症化しないようですが、今の変異株「KP.3(オミクロンJN.1の亜型)」は、これまで作ってきた免疫を回避する力が高く、かなり感染力が強い株のようです。現在は、KP.3が新規感染者の8割を占めています。マスクをする人が減った状況で夏休みに入り、感染者が増えればいずれは高齢者にも影響が及ぶため、金額は高くとも高齢者ほど治療薬の服用を検討したほうが良いようです。
確定申告が必要となりますが、高額な医療費を支払った場合、所得税の負担が軽減される「医療費控除」という所得控除があります。医療費控除は、その年の1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費の金額が対象となります。未払いの医療費については実際に支払った年が対象となります。控除の上限額は200万円ですが、基本的には対象となる医療費の総額から10万円(合計所得金額の5%の金額が10万円より少ない場合はその金額)を超える金額が控除される額となります。
医療費控除の計算にあたり、注意しなければならない点がいくつかあります。まずは、医療費控除の計算の範囲と、医療費から差し引かなければならない金額について少し細かく解説しましょう。
【医療費控除の計算の範囲】
医療費控除を受けられる対象は本人だけではありません。本人と生計を同じくする家族も含まれます。ここでの家族とは、本人と同じ生計で暮らしている配偶者や子ども、その他の親族です。また、仕送りで生活している親や親族も対象となります。このため、対象となる家族の医療費を本人が支払っていれば、支払った医療費の額に含めることができますので、家族分も合わせて10万円を超えていれば医療費控除を受けられます。
【医療費の総額から差し引かなければならない金額】
医療費控除の総額を計算する際には、生命保険や健康保険などから受け取る保険金は差し引かなければなりません。例えば、生命保険契約などから支給される入院給付金や健康保険などから支給される高額療養費・家族診療費・出産育児一時金などです。つまり、支払った医療費の総額から受け取った保険金の額を差し引いて、さらにその残額から10万円を差し引いた金額が医療費控除の対象となります。保険金など差し引く金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度としますので、受け取る保険金の額がその目的となった治療の費用を超えていたとしても他の医療費から差し引く必要はありませんので注意しましょう。
控除の対象となる支払いと、対象とならない支払いの区別も確認しておきましょう。
【対象となる医療費】
医療費控除の対象となるのは、具体的には病院や医院での診療や治療の費用、マッサージ師・はり師・きゅう師・柔道整復師による施術費用、出産費用、治療または療養にかかった医療器具や医薬品の購入費用、通院にかかった公共交通機関の交通費などです。また、レーシックやインプラントなど先進医療にかかる費用も対象となります。このように対象となる診療・治療・療養費には幅広い項目が含まれますので、支払った医療費の領収書などは必ず受け取り、すべて保管しておく必要があります。
【控除の対象とならないもの】
医療や診療に関係すればどのような支払いも対象になるわけではありません。診療などの理由が自分の都合によるものや治療に直接関係のない場合などの費用は対象となりません。具体例は以下の通りです。
・美容のための整形費用・歯列矯正費用
・疲れを癒やしたり、体調を整えたりするなど治療に直接関係しない施術費用
・自家用車で通院した場合のガソリン代・駐車場代
・治療に直接必要のない近視や遠視のための眼鏡や補聴器の購入費用
・疾病の予防や健康増進のための医薬品の購入費用
・未払いの医療費
最後に申告方法の注意点です。2017年より簡略化が図られていますが、領収書の保管は必須です。
【医療費控除の申告方法】
以前は、医療費控除を受けるためには医療機関別に、支払った医療費の金額、保険金などの補てん額の明細を記載し、領収書をすべて添付または提示しなければなりませんでした。2017年の確定申告からは提出書類の簡略化が図られ、「医療費控除の明細書」を確定申告書に添付すれば領収書の提出は不要となりました。ただし、明細書の記入内容の確認のため税務署から領収書の提出または提示を求められる場合があり、確定申告期限の翌日から5年間は領収書を保管しておく必要がありますので、ご注意ください。
以上の通り、医療費控除は上限200万円と金額が大変大きく、本人に限らず家族も含めて病気やけがで医療費の出費が高額になる場合などに備えて、必ず知っておきたい所得控除の一つとなります。日頃から、医療費控除の対象となる支払いはどのようなものかを理解して、治療費などを支払った際には必ず領収書を保管するよう心がけましょう。医療費控除について詳細を確認したい場合は、国税庁HP「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」を参照ください。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ、複数の税務署長を経て、2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。
税務・会計・税理士をテーマに雑誌の作成やニュースサイトなどの運営を手掛ける株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手掛ける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。
【T】
個人事業主・小さな会社の納税入門