ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
記者としては、「発表モノ」や「発生モノ」であっても、なんとか付加価値を付けたいところです。こうした場合に使うのが、幾つかの共通ネタを集めて1つの記事にする「傾向モノ」「まとめモノ」と呼ばれる手法です。
例えば、食品メーカーが2~3社、値上げを発表したとします。それぞれはせいぜい「ベタ」か「段モノ」のニュースですし、書いても「発表処理」でしかないので社内でも評価されません。そこで、「最近、食品の値上げが相次いでいる」という「まとめモノ」に仕立てるわけです。買い物に行けなかった日に、冷蔵庫にある有り合わせの材料で料理を作るのに似ているかもしれません。
意外性があって面白いまとめモノは、世間で話題になって他紙も追わざるを得なくなります。こうした記事では、なぜそのような現象が起きるのかといった背景も解説するため独自性や付加価値が生じますし、バラバラのニュースの共通性に気付くセンスも必要とされます。このため、内容によっては他紙が後追い記事を掲載するなどし、スクープ並みに評価されることもあります。
新聞社や記者にとってまとめモノが重要なもう1つの理由は、紙面を埋めるのに都合がいいという点にあります。これは、まとめモノが長い記事にしやすいということと、「腐らないネタ」であることが理由です。
大ニュースはそうそういつも起きるものではありません。しかし政治面、経済面、社会面といったそれぞれのページには、毎日「トップ記事」が必要です。新聞は、どの面も必ず「トップ」と「サイド」があり、残りを「段モノ」「ベタ」などが埋めるという構成になっているからです。
そこで、大きなニュースがない日には、まとめモノをトップに据えることになります。まとめモノであれば、事前に準備しておくこともできます。発生モノのニュースはすぐ載せなければなりませんし、特ダネも先延ばしすると他紙に追いつかれてしまいます。しかし、まとめモノであれば、事件や特ダネがない日のために温存しておけるのです。
というわけで、ニュースがない日の翌日には、たいていトップにまとめモノが載ることになります。実際、月曜日の朝刊の1面を見ると、かなりの確率で「まとめモノ」になっています。ただし、最近はさすがに発表モノを寄せ集めただけの記事は減っており、経済データを独自に加工・分析するなどした、手の込んだまとめモノが増えています。
このように、記者にとって「記事の価値」は異なります。あえて順位づけをすれば、下記のようになります。
調査報道 > 特ダネ > 特ダネではないが独自モノ > 傾向・まとめモノ > 共通・発表モノ
当然、記事の大きさ(扱い)も基本的にはこれに比例します。ただし、すでに述べたように「傾向・まとめモノ」でも目の付けどころが良ければ、並の独自モノよりは価値が高くなります。
記者も新聞社という企業で働く組織人ですから、「なるべく価値の高い記事を書いて自分の評価を上げたい」と考えながら仕事をしています。ニュースがない日に工夫の跡が見られる記事を発見したり、取材に手間がかかる調査報道を目にしたりしたら、裏にある人間ドラマを想像すると、記事の見方が違ってくるかもしれません。
執筆=松林 薫
1973年、広島市生まれ。ジャーナリスト。京都大学経済学部、同大学院経済学研究科修了。1999年、日本経済新聞社入社。東京と大阪の経済部で、金融・証券、年金、少子化問題、エネルギー、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」や「やさしい経済学」の編集も手がける。2014年に退社。11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立。著書に『新聞の正しい読み方』(NTT出版)『迷わず書ける記者式文章術』(慶応義塾大学出版会)。
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情報のプロはこう読む!新聞の正しい読み方