ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
新聞は若い人にはなじみが薄いメディアですし、どちらかといえば「古臭くて、これから消えていくもの」というイメージが強いでしょう。「ニュースなんてテレビとネットで見れば十分」と考えている人も少なくないはずです。
私自身も、ここ数年はパソコンやスマートフォンでニュースを読む機会が増えました。確かに速報性という意味では紙の新聞より圧倒的に上ですし、利便性も年々高まっていると感じます。恐らく、紙からネットへのシフトは今後も加速していくでしょう。
ただ、ネットで情報をがんがん集めて分析し、ビジネスなどに活用したいという人にこそ、まず一定期間、「紙の新聞」を読むことをお勧めしたいと思います。
私は「ネットより紙の方が優れている」というつもりは全くありません。私が強調したいのは「ネット情報を本気で活用したいなら、まず紙の新聞を読みこなす力を付けた方がいい」ということです。
メディアリテラシーや情報分析の基本を身に付ける「教材」として、紙の新聞に勝るものはないと思うからです。
その第一の理由は、新聞業界が一定のルールや、ある種の文化を共有した上で「報道の速さ」や「正確さ」を競っているからです。
記事で使う表現、紙面のデザイン、スクープ競争の勝ち負けの決め方などには、業界で共有されている暗黙の了解があります。こうした「ゲームのルール」が共有されているということは、異なる新聞同士で比較しやすいということを意味します。
そうしたルールや文化、つまり「正しく読む手順」を知っていれば、記事を読んだときに、それが自信を持って書かれているかどうかや、情報源が何かなどがだいたい分かります。あるニュースについて各社が異なる解釈を示したとき、時間がたってから、どれが結果として正しかったのかを検証することも容易でしょう。
こうした点に注目しながらニュースを読むことは、情報分析の基本中の基本です。新聞はブログや新興メディアに比べて取材手法や文章表現などが標準化、統一化されているので、共通の法則を知ってしまえば、新聞同士を同じモノサシで比べることができます。
情報のカオスともいうべきネット情報の世界に立ち向かうなら、まずは新聞情報の分析という「基本問題」が十分に解けるようになってからでないと、歯が立たないでしょう。
もう1つ、新聞にはネットメディアとの決定的な違いがあります。それは歴史の古さです。
論争的なテーマや大事件は、その社会的影響が大きければ大きいほど、検証には長い時間がかかります。以前の従軍慰安婦をめぐる「誤報」事件はその最たるものでしょう。ある報道や、誰かが示した予測が正しかったのか、間違っていたのかは、ある程度時間がたたなければ見えないことがあるのです。
そうした検証や比較を経験してこそ、報道を適切に評価する視点や姿勢を身に付けることができます。そして、一般の人でもそうした長期の検証が可能なメディアは、現時点では新聞くらいなのです。
例えば、新聞が過去に何をどう報じていたかは、図書館に行けば、20〜30年まで遡って、誰でも調べることができます。バックナンバーを縮小して1カ月ごとにまとめた「縮刷版」がそろっているからです。最近は新聞社が提供する記事の有料データベースで、キーワード検索なども可能です。つまり、数十年という長い時間軸の下で記事の検証や比較が可能なのです。過去の記事を読むことで、政府やシンクタンクの経済予測がどれくらいの確率で当たるのかや、新聞が「○○省が検討に入った」と書いた政策はどれくらい実現性があるのか、についての相場観を持つことができるわけです。
最後の理由は、新聞というメディアが、政治家や官僚、ビジネスパーソンなど、政治や経済の大きな流れを左右する人たちと、「ニュースの選択」において価値観をかなり共有しているからです。
ネットから情報を得てビジネスなどに生かす場合でも、まずはこうした社会のキーパーソンがどんな価値観の持ち主か、今何に注目しているかを理解する必要があるでしょう。
確かにネットを探すと、新聞には載っていない「政局の裏側」といったディープな情報がたくさん転がっています。しかし、そもそも政局の大きな流れや、登場するプレーヤーの行動原理を理解していなければ、その情報を真贋も含めて評価するのは不可能です。こうした基本情報を得るのに、紙の新聞は格好の情報源なのです。
執筆=松林 薫
1973年、広島市生まれ。ジャーナリスト。京都大学経済学部、同大学院経済学研究科修了。1999年、日本経済新聞社入社。東京と大阪の経済部で、金融・証券、年金、少子化問題、エネルギー、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」や「やさしい経済学」の編集も手がける。2014年に退社。11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立。著書に『新聞の正しい読み方』(NTT出版)『迷わず書ける記者式文章術』(慶応義塾大学出版会)。
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情報のプロはこう読む!新聞の正しい読み方