ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
紙の新聞の場合、あるニュースが掲載される面やその位置、見出しの大きさなどを見ることで「その新聞社にとってのニュースの優先順位」がはっきり分かります。
例えば政治家や官僚、教師の読者が多い朝日新聞で大きく取り上げられるニュースは、そうした層が関心を持っているものです。ビジネスパーソンがよく読む日経新聞のニュースの価値付けを見れば、企業人の世の中の見方が分かってきます。産経新聞なら保守層の考え方を理解する助けになるでしょう。
一方、ネットはどうでしょう。ぜひ一度、同じ日の新聞紙面、新聞社のサイト、ヤフーニュースなどのキュレーションサイトを同時に見比べてください。ネットでは新聞に比べ、「たくさんクリックが稼げそうなニュース」が目立つ位置を占めていることに気付くでしょう。具体的には芸能、スポーツ、ネット関連のニュースが圧倒的に多いはずです。
もちろん社会問題や政治経済のニュースも出ています。しかし、ほとんどの場合、報じられるのは「法改正が決まった」「新しい制度が導入される」といった、大きな節目だけです。
この点、新聞はそうした政策の構想が浮上し、それを巡ってさまざまな集団の駆け引きが起き、利害調整を経て決まるまでの長い過程を報じます。ネットに流してもクリックは稼げませんが、社会のキーパーソンは強い関心を持っているからです。
よく、大きな制度変更があったときに、「そんなの知らなかった」「マスコミはこれまで報じてなかったじゃないか」という声を聞きます。しかし、その多くは新聞紙面では半年、1年前の構想段階から報じられている内容です。テレビやネットを見ていても分からないだけで、新聞を読めば、けっこう細かい経過が載っているものなのです。
社会人になると、親や先輩から「新聞を読んだ方がいいよ」と言われることがあるかもしれません。その理由の1つも、会社や役所の主要ポストにいるビジネスパーソンの価値観や関心事を手っ取り早く知るのに、新聞というメディアが適しているからです。
こうした人たちは、自宅で購読しているかどうかはともかく、職場では必ず紙の新聞を読んでいます。ですから新社会人を見る目も、新聞に出ている「最近の若者のイメージ」に影響されています。例えば新聞が「最近の若者は無気力で根気がない」というイメージを振りまいているなら、それが正しかろうが間違っていようが、相手に自分はそうではないことを印象付ける必要があるわけです。
経営陣らが共有している、「これから必要とされる人材のイメージ」も、彼・彼女らが読んでいる新聞を観察すると見えてきます。これは新聞がそうしたイメージをつくっているからというより、記者らがビジネスの世界に広がっている典型的なイメージを「忖度(そんたく)」して記事を書いているからです。ですから「できるヤツ」を演じたければ、先輩らが職場で読んでいる新聞を読んでおくといいでしょう。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉がありますが、相手がどんな考えや戦略を持っているのかを知ることは、成功をつかむための前提条件です。
さらに、新聞にはビジネスの場において「共通の話題の供給源」という機能も担っています。
ビジネスの成否を決めるのは、いうまでもなくコミュニケーションです。上司や同僚との雑談はもちろん、営業先での会話でも、相手に「こいつは仲間になれそうだ」と思ってもらえるような話題選びが重要になります。
みなさんも、誰かと親密になるには、顔を合わせたときの何気ない会話が重要だということはよく知っているはずです。「昨夜のテレビドラマ、面白かったね」といった話題は、その典型です。この場合、テレビというメディアが話題提供の役割を担っているわけです。
同様に、相手が中堅以上のビジネスパーソンの場合、新聞で話題になっているテーマを振るのが一番無難です。仕事の必要性から多くの人が新聞を読んでいるので、そこで取り上げられたニュースや、名物コラム、連載小説などは共通の話題にしやすいのです。これはビジネスパーソンがゴルフを始める理由にも通じます。そもそも、ビジネスパーソンが新聞を読む理由も、そうした「仲間内や取引先との話題づくり」という側面が大きいのです。
執筆=松林 薫
1973年、広島市生まれ。ジャーナリスト。京都大学経済学部、同大学院経済学研究科修了。1999年、日本経済新聞社入社。東京と大阪の経済部で、金融・証券、年金、少子化問題、エネルギー、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」や「やさしい経済学」の編集も手がける。2014年に退社。11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立。著書に『新聞の正しい読み方』(NTT出版)『迷わず書ける記者式文章術』(慶応義塾大学出版会)。
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情報のプロはこう読む!新聞の正しい読み方