ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)が運用する、企業が自らセキュリティ対策を実施していると宣言する「SECURITY ACTION」という制度については、以前にもこの連載で解説した。
2017年に始まったこの制度だが、宣言した事業者数は2023年10月に30万者を超えたという。宣言によってどんな効果がもたらされたのだろうか。2024年4月9日に公開されたIPAのアンケート「2023年度 SECURITY ACTION宣言事業者における情報セキュリティ対策の実態調査」の結果を基に考えてみたい。
以前このコラムで「SECURITY ACTION」を解説した際に、メリットとして名刺やパンフレットなどにロゴマークを掲載できるようになる他、IT関連の補助金や助成金の申請がスムーズに行えるようになると紹介した。
今回のIPAの調査でも、SECURITY ACTION宣言のきっかけの第1位は「補助金を申請する際の要件となっていた」という回答で、75.1%に上った。第2位の「情報セキュリティに係る自社の対応を改善したいと考えていた」は24.4%にすぎない。しかし注目すべきは、宣言の効果は補助金の申請だけではないという点だ。
5577件の回答者のうち23.0%が「経営層の情報セキュリティ対策に関する意識の向上」を、22.8%が「従業員による情報管理や情報セキュリティに関する意識の向上」を効果として挙げている。全体の4割強は意識の向上につながっていると回答しているのである。
効果の具体例として、「経営層や従業員の情報セキュリティに対する意識向上により社内でのセキュリティソフト導入のきっかけになった」「SECURITY ACTIONロゴマークを名刺に記載、またSECURITY ACTION宣言を社内にお知らせしたことで、意識向上につながっている」などがあったという。
SECURITY ACTION宣言はどのように意識変革につながっているのだろうか、また、今後の問題点はどこにあるのだろうか。もう少し詳しく調査内容を見てみよう。
調査では「経営層の情報セキュリティ対策に関する意識の向上」につながったと回答した割合は、小規模な事業者に多く見られる傾向が強かった。「従業員による情報管理や情報セキュリティに関する意識の向上」では従業員数が51人から300人の事業者の割合が多くなっている。
ここから推測できるのは2つ。まず、小規模事業者はもともと経営層が情報セキュリティに関心を持つ機会が少なく、ある程度の規模の企業は情報セキュリティ教育が不足しがちだったことだ。そして、SECURITY ACTION宣言による取り組みは、前者では経営層が、後者では従業員がセキュリティに対する関心を高めるきっかけになったということだろう。
SECURITY ACTION宣言は、取り組み目標に応じて「★一つ星」と「★★二つ星」の2種類がある。「★一つ星」は「情報セキュリティ5か条」への取り組み宣言が求められる。「★★二つ星」はIPAが提供している「情報セキュリティ自己診断」の実施と、情報セキュリティ基本方針を策定し外部へ公開することが求められる。
調査からは取り組みを通じた宣言が意識変化につながり、意識変化により事業者が情報セキュリティ対策への継続的な取り組みを推進するという好循環が生まれていると分かる。全体の60%が何らかのセキュリティ対策を1年以内に実施、あるいは実施予定だと回答しているのだ。
一方、問題点として挙げられるのは人材面だ。38.6%が「情報セキュリティ対策を行うための人員が不足している」と回答し、33.3%が「情報セキュリティ対策の知識を持った従業員がいない」と回答している。セキュリティ人材の問題はSECURITY ACTION宣言にかかわらず、中小企業全体に共通する課題だろう。
情報セキュリティ対策の実践や強化のために必要な支援策でも、「国や自治体からの情報セキュリティ対策導入、運用に係る補助金」に続いて「従業員に対する情報セキュリティ対策教育に活用できるツールの提供」「情報セキュリティ対策を進める際に参考となるガイドラインの提供」が挙げられている。
IPAのサイトでは教育ツールやガイドラインが数多く提供されており、このコラムでもいくつか紹介してきた。人材不足の解決のために、これらの活用を改めて考えてみてほしい。
執筆=高橋 秀典
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