人気会計士が語る、小さな会社の経営“これだけ”(第19回) 会社で一番大切なのは「社員とその家族」を守ること

資金・経費

公開日:2020.05.01

 顧問先2200社を抱える会計事務所を率いる公認会計士、古田土満氏が語る小さな企業の経営のコツ。その第19回は、会社の役割についてです。社員の幸せとお客さまの幸せを通して社会貢献をすることこそが会社の役割であると古田土氏は考えています。

 古田土会計の34年の歴史の中で2度、事業が継続できなくなるのではと思ったことがあります。最初は、開業後5年目のことです。社員が定着しないので人材の育成に自信がなくなり、友人の会計事務所と合併することにしました。

 私が営業、友人が人の管理、役割を分担することにしたのですが、うちの社員は現吉田専務以外全員が社交性のある友人の会計士のほうに付いてしまい、合併して6カ月後に解散しました。

 2度目は、7年目に起こした交通事故です。社員が十数人の頃で、確定申告も終わり社員の慰労のために東京・秋川渓谷に花見がてらバーベキューに行ったときに、1台の車が事故を起こしました。車は社員が運転していました。乗っていた4人のうち、2人は当日がヤマですと医者に言われました。結局、命は助かったものの障害は残りました。

 私と専務が事故の対応に追われ、4人が入院しているときに社員が辞めていきました。会社の将来に見切りをつけられたのでしょう。このとき、事故を理由に会社を潰してはいけないと心に誓いました。後に経営理念に「一生、あなたと家族を守る」と書きました。

 会社で一番大切なのは「社員とその家族」、2番目は「お客様の社員とその家族」と言い続けています。そのためには急成長ではなく、安定成長することです。階段を一段、一段コツコツと上るような経営をしてきました。

借金をしない。
資産はお金で持つ。
株・不動産は持たない。
本業以外やらない。
凡人なので人の数倍働く。
個人でも質素な生活をする。

 そして、前述した合併の失敗からも学びました。私の人格では、人を引っ張れません。そこで経営計画書を作成し、そこに記入した経営方針をトップが先頭に立って実践します。実践している「後ろ姿」を見せることによって、全社員が価値観を共有して、明るく、元気で、使命感に燃える職場をつくり、社員が安心して働ける会社にしようと心掛けています。

 経営者の判断ミスが、会社を潰します。経営者は多くの失敗をしています。社員も失敗しますが、経営者の失敗に比べたら大したことはありません。社員の失敗に対して教育は必要ですが、寛大であるべきだと私は思っています。多くの人に迷惑をかけ、助けられて古田土会計の今があります。

 会計事務所として果たすべき役割は何かと考えたとき、それは社員の幸せとお客さまの幸せを通して社会貢献をすることではないでしょうか。

なぜ、会計事務所甲子園をやろうと思ったか

 お客さまの中で、一番困っているのは中小企業の社長と社員です。一番大変な思いをしている中小企業がよくなる方法は何か、全ての中小企業がよくなる可能性のあるものは何か。それは、経営計画書を作成することではないでしょうか。

 経営者が経営理念をつくり、あるべき未来像を掲げ、方針を打ち出し、全社員が一丸となって目標に向かって努力すれば、会社はよくなります。自社、つまり古田土会計で経営計画書を実践している姿をお客さまにも見てもらい、お客さまが実践してよくなり、お客さまから褒められたり、感謝の言葉をいただいたりすることが、社員の人間性を高め、幸せにします。

 会計事務所の先生ではなく、会計事務所で働く社員が、この仕事を通じて多くのことに気付き、人間として成長し、人様から喜ばれたり、感謝されたりした体験をすることが大切です。多くの会計事務所がこうした体験を共有し、自社の経営に生かし、会計事務所から日本を元気にしようという目的を持って、「会計事務所甲子園」を十数人の先生方と共に立ち上げました。

 具体的にどのような内容でやるかは試行錯誤の中でスタートしましたので、勉強会にも人が集まらず、予約した会場をキャンセルしたこともあります。多くの方々にいろいろご意見もいただきましたが、手詰まり感がありました。

 そんなときに、あることに気付きました。会計事務所甲子園は、会社の質、個人の質を競うのが目的ではありません。あくまでも「会計事務所から日本を元気にする」ことが目的です。日本の中小企業を元気にする一番の道具は、経営計画書ではないかということです。

 経営計画書を実践している中小企業の経営者から会計事務所が学ぶ勉強会を立ち上げ、学んだことを会計事務所が実践し、お客さまにも指導する。「経営計画書を作り、実践することによって自分が変わり、会社が変わり、お客様が変わったという、体験発表の場が会計事務所甲子園である」と定義すると、具体的なイメージが湧いてきました。そして2014年2月5日、第1回会計事務所甲子園を開催しました。

「こなす仕事」から「取り組む仕事」へ

 「動機善なりや、私心なかりしか」これは、稲盛和夫さんの有名な言葉です。居酒屋甲子園をはじめ、多くの業界の方々が日本を元気にするために立ち上がっているのを見て、会計事務所も志の高い人が集まって、このような、団体の垣根なく、誰でも参加できるイベントができないかと考えました。これが会計事務所甲子園立ち上げの動機です。

 自分にできる業界への貢献、日本中の中小企業を元気にするという経営ビジョンの実現をめざしています。

 4年ほど前に、私がとても尊敬していた経営者、愛和食品の早川孔惟会長が亡くなられました。最後の言葉が周りの人に対する「ありがとう」だったと、息子さんの早川恭彦社長から聞きました。人は自分でも気付かないうちに多くの人に迷惑をかけ、数多くの失敗をしています。人生最後の言葉として、「ありがとう」が言える人間になりたいと思います。

 そのために、社会に貢献できることはやりたい。社員には多くの無理、難題、苦労をかけます。しかし、「こなす仕事」のみをしていたのでは人生はつまらないでしょう。「取り組む仕事」をしてこそ、人は夢を持ち、生き生きとした人生を送れます。それを示すのが、トップの役割です。

※本記事は、2017年に書籍として発刊されたものです

執筆=古田土 満

法政大学を卒業後、公認会計士試験に合格。監査法人にて会計監査を経験して、1983年に古田土公認会計士・税理士事務所を設立。財務分析、市場分析、資金繰りに至るまで、徹底した分析ツールによって企業の体質改善を実現。中小企業経営者の信頼を得る。

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