人気会計士が語る、小さな会社の経営“これだけ”(第8回) 1人当たりの自己資本額の目標は1000万円

資金・経費

公開日:2019.06.07

 顧問先2200社を抱える会計事務所を率いる公認会計士、古田土満氏が語る小さな企業の経営のコツ。前回は固定費を削らずに、粗利益率の向上をめざすのが経営者の役割であることを解説しました。今回は、貸借対照表の項目に戻り、自己資本額についての目標を紹介します。会社は赤字だから倒産するのではありません。お金がないから倒産するのです。その意味で、自己資本の充実は非常に大切なのです。

もうかっていても資金不足なら黒字倒産

 本連載の基本的なスタンス、貸借対照表中心の経営で、もう1つ気を付けるべきことを紹介しましょう。

 多くの経営者は損益計算書中心の経営を行っており、経営者の経営能力は増収増益を何期連続しているかによって評価されることが多くなっています。

 まず損益(税引き前利益の増加)は良いのですが、増収(売り上げの増加)のみで増益にならない場合は、繰り返し述べているように、自己資本額が増えないのに、売上債権(受取手形・売掛金)や棚卸し資産が増えます。さらに売り上げアップのために設備投資まですれば総資産はさらに増加し、自己資本比率は下落します。

 総資産が増えて自己資本が増えないということは、借入金が間違いなく増えているということです。借入金依存度は高まります。

 次に増益でも利益以上に売上仕入資金(資金別貸借対照表)のマイナスが増えたり、棚卸し資産が増えたりすると、実質損益資金はマイナスになり、もうかっているのに資金不足になり、黒字倒産になります。多くの上場会社が、倒産する直前の決算書は黒字です。会社は赤字だから倒産するのではなく、お金がないから倒産するわけです。

借入金の返済は“お金(預金)”でしかできない

 会社が増収・増益にこだわる理由の1つに、銀行の格付けがあります。銀行の格付けは営業利益・経常利益を多くして流動資産を多くし、流動負債を少なくすれば良くなるようになっています。銀行が一番重視している債務償還年数は、借入金を償却前利益で割って計算します。

 しかし、借入金の返済は償却前利益ではできません。損益計算書の科目で貸借対照表の科目である借入金は返せません。借入金の返済は同じ貸借対照表の科目であるお金(預金)でしかできません。仕訳をしてみれば納得できると思います。

 借入金を返済するためにも、預金を増やす経営、キャッシュフロー経営をしながら、自己資本額を高めることを念頭に、企業を発展させなければなりません。貸借対照表中心の経営のポイントは、絶対的な額ではなく、比率や従業員1人当たりの額で見ていくことです。

 1人当たりの生産性、1人当たりの利益、1人当たりの自己資本額などで計算すると、日本一になれる中小企業もあります。私ども中小企業の経営で目標とする1人当たり自己資本額は、1000万円くらいだと考えています。

 30人の会社なら自己資本額3億円、100人なら10億円です。古田土会計グループは自己資本16億円でスタッフ181人ですから、1人当たり884万円です。中小企業では、自己資金比率40%を目安にしながら、金額としてはまず1億円をめざします。その後、1人当たり1000万円をめざすべきと思っています。

手元資金は少なくとも、給料の6カ月分

 次に、いくら自己資本額が多くても、手元にお金が残っていなかったなら会社は簡単に倒産します。留保しておきたい資金の目安は、社員とその家族を守るために、できたら給料の1年分。少なくとも6カ月分は必要です。

 理想的な貸借対照表は結果としてできるものでなく、経営者の強い意志で作り上げるものです。理想的な貸借対照表を作るには、損益計算書上の利益を出すだけでは時間がかかり過ぎます。

(1)仮払金、貸付金、投機などに無駄な資金が流れていないか
(2)土地・建物などの固定資産は本当に必要なのか、賃借ではダメなのか
(3)売上仕入資金が大きくサイト負けしているのをどう改善するか
(4)棚卸し資産はどのくらい減らせるか

などの項目を長期的に改善しながら、足りない分を利益で埋める。この利益の計画を、古田土式経営計画書の中期事業計画で立てます。効率の良い経営をするためにも、経営者・幹部は貸借対照表中心の経営をすべきです。

※本記事は、2017年に書籍として発刊されたものです

執筆=古田土 満

法政大学を卒業後、公認会計士試験に合格。監査法人にて会計監査を経験して、1983年に古田土公認会計士・税理士事務所を設立。財務分析、市場分析、資金繰りに至るまで、徹底した分析ツールによって企業の体質改善を実現。中小企業経営者の信頼を得る。

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