ビジネスを加速させるワークスタイル(第22回) ワークライフバランスはもう古い⁉ 「ワークインライフ」とは

デジタル化

公開日:2025.05.09

 事業環境の先行きが不透明な中で企業として重要なのは、従業員の自主性を引き出し、そのポテンシャルを発揮させることだ。それによって環境の変化に対応できる俊敏性や柔軟性を高めることができる。テレワークに代表される働き方改革もその一環として捉えられてきた。その延長線上にあるのが「ワークインライフ」という考え方だ。どんなメリットがあり、実現するには何が必要なのだろうか。

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仕事を人生の一部に位置付けて自己肯定感を高めてもらおう

 以前、「ワークライフバランス」という言葉が話題になったことは覚えているだろうか。定義はさまざまだが、仕事とプライベートを切り分けて両立させることで、人生を豊かにしようという考え方だ。どちらかと言うと"時間"に重きを置いたものだと言える。

 これに対してワークインライフは文字通り"人生"に重きを置いた考え方だ。働くことを人生の一部として位置付け、仕事と生活を一体化することで、自分らしく生き生きと働き、自らを高めながら、より大きな成果を生み出そうというものだ。

 人はなぜ働くのか、人生とは何なのかというと哲学的な話になり、その答えは人によってさまざまだが、その解の1つが、20世紀の心理学者であるマズローが主張した「欲求の段階説」だ。人間の欲求を5、ないし6つの段階に分けて理論化したもので、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」ことが前提とされている。

 ワークインライフがめざすところはこの自己実現に近いと思われる。「自分が納得する形で仕事をすることで、人生を自分のものにしていく」という考えだからだ。仕事を仕方のないもの、やらなければならないものとするのではなく、人生に彩りを添えるものと考えることで、自己肯定感を高めていくことができる。

 従業員がそういう意識で働いてくれることは、経営者にとっては大きなプラス要因となる。仕事を通して能力を高め、自ら課題を見つけて解決していく従業員が増えれば、業績は向上し、変化にも柔軟に対応できるようになるからだ。

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ワークインライフのために経営者ができることは多い

 従業員にワークインライフの意識を高めてもらうために経営者ができることは多い。まず事業の社会的意義ややりがいを正しく伝え、従業員が納得できる戦略を示し、成果に対してきちんと評価をすることが必要だ。

 そして何よりも従業員が自分のペースで自主的に働ける環境を提供することが重要になる。具体的にはフレックスタイムやテレワークを導入し、従業員が柔軟に働けるように社内制度を整備することだ。育児休暇制度や時短勤務制度などの整備も必要になる。

 社内の環境をフリーアドレスにして社内外のどこでも働ける仕組みも自主性を高めることにつながる。同時に社内のクラブ活動などを補助して、コミュニティーを形成させることで、プライベートを充実させて、仕事と人生の垣根を低くする工夫も有効だろう。

 ただし、企業としてすべてを野放しに従業員任せにすることはお勧めしない。経営者、管理者として現状を把握し、課題があれば解決に向けて行動することは必要だ。そのためには従業員の仕事を"見える化"する仕組みも必要になる。例えば、関西の従業員十数名のある空調設備工事の会社では、技術者の人材不足に対処するために、働きやすい環境をつくり、業務の生産性向上を図ったという。その際に、パソコン上の業務を可視化するツールを導入し、課題の早期発見とスピーディーな解決に役立てている。

 ポイントはあくまでも従業員の自主性を尊重することだ。ワークインライフで企業力を強化するために、経営者や管理者はモチベーション向上を図ると共に、仕事に対する障害を取り除いて気持ちよく仕事ができる環境を提供することを心がけよう。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=高橋 秀典

【MT】

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