ビジネスを加速させるワークスタイル(第9回) DX推進とはIT活用にとどまらず

働き方改革 デジタル化

公開日:2022.03.30

 DXへの注目度は高い。閉塞感のある日本経済の突破口として期待されているからだ。一方でどこから着手したらよいのか、組織や人材はどうするべきなのかなど悩ましいところも多い。そもそもDXとは何をさしているのか、IT化とはどう違うのか、正確に理解されていないケースも多い。DX未着手企業が多い理由はこのあたりにある。ここで改めて分かりやすくDXを解説していく。

IT化はデジタル化のこと。DXはその先にある

 DXとはデジタル・トランスフォーメーションの略語だ。この「D」と「X」の組み合わせであることが重要なポイントになる。「D」はデジタルなのでデジタル化することだ。紙の書類のようなアナログ情報をデジタル情報にすることをさす。その意味で「IT化」と同じだ。

 この「D」の部分だけでも大きな成果が上がる。例えば今まで紙でファイリングしていた書類をデジタル化する。ファイルサーバーに入れて検索できるようにしておくことで、ペーパーレス化が実現され、保管スペースが不要になり、いつでも簡単に探し出せる。

 これを単なるデジタルへの置き換え、「デジタイゼーション(Digitization)」ともいう。さらにファイルサーバーのデータをクラウド上のストレージに移行し、業務処理の流れを支援するワークフローツールを導入して活用すると、業務プロセス自体のデジタル化が実現する。こうした個別の業務や製造プロセスをデジタル化することを「デジタライゼーション(Digitalization)」という。

 しかし、ここまでのデジタル化で得られる成果は、業務の効率化だったり作業の生産性の向上だったりという"改善"レベルにとどまる。新たな付加価値が生み出されたわけではない。その先に位置付けられるのが、デジタルを駆使したビジネスの変革、デジタル・トランスフォーメーション、DXなのである。「X」とは変革とイコールだ。

課題は人材不足。"2025年の崖"

 このDXとはどんな状態だろうか。「2025年の崖」という警鐘を鳴らした経済産業省のDXレポートでは「組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、"顧客起点の価値創出"のための事業やビジネスモデルの変革」と定義している。

 このDXはこれまでのデジタル化の延長線上にはない。つまり「D」を単純に深掘りしていっても「X」には到達できないのだ。2025年の崖とは、変革に挑戦できる準備を整えなければ、崖に落ちるだけでDXは実現できないことを示唆したものだ。

【2025年の崖】

 どうしたら「X」を実現する準備ができるのか。そのヒントは前述したDXの定義の中にある。つまり「組織横断のデジタル化」「全体プロセスのデジタル化」、そして「顧客起点の価値創造」である。裏を返せば今の状況は、組織で分断されてプロセスが個別最適になっていて、供給者目線でビジネスに取り組んでいるのではないか...ということだ。

まずデジタルの世界でのビジネスを体験してみる

 貴社が「この仮説には当てはまらない。組織を横断して業務プロセスが機能し、その全体がデジタル化されていて、顧客起点で他にない価値が創造できている」としたら、今は「X」の必要はないのかもしれない。

 ただ多くの場合、程度の差はあれ、どこかで仮説が当てはまるのではないだろうか。当てはまったときは何から着手するか。結論から言えば、組織の在り方を見直すと同時に、企業文化を変革し、DXを推進できる人材の確保が必要になる。

 「DXは目的ではなく、手段である」とよく指摘される。その点からすれば、どんなITツールを使うのか検討する前に、どんな企業としての成長をめざすかの議論が先だ。しかし、これからのビジネスでデジタル活用は不可欠で、デジタルの可能性を知らないまま企業の未来の姿を議論しても不十分なものになるのは明白だ。

 例えばリモートワークの導入は、時間や場所にとらわれずに仕事をすることの実現であり、企業文化の変革につながる。単に出社する必要がなくなるだけではない。組織の枠を超えて、プロジェクトベースで仕事をする新しい働き方が体験できる。その先にめざす姿の議論があり、DXという手段の使い道がある。

 そのほかにも、パソコンの定型業務をソフトウエアにより自動化するRPA、紙文書のデータ化に際し手書きの文字を自動でデジタルテキスト化するOCRなど、デジタルの技術導入により業務のやり方が圧倒的に効率化し、その後ビジネス変革へと発展する可能性を持つものは数え上げれば切りがない。

 百聞は一見にしかず。ビジネス変革のためのファーストステップは、ITツールの導入である。まずデジタルの効果を多くの社員が体験することが重要だ。手軽に導入できるツールはそろっている。最初の一歩としてテレワークやクラウドストレージなど、ワークスタイル変革のためのツールをまずは導入してみてはどうだろうか。

執筆=高橋 秀典

【MT】

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