情報のプロはこう読む!新聞の正しい読み方(第18回) 「飛ばし記事」でも「誤報」とまでは言えない(下)

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公開日:2019.12.19

 週刊誌などでは、スクープの続報の中で「本誌の既報通り」と書いていることがあります。「ほらね、我々が報じた通りでしょう」というちょっと誇らしげな気分が伝わってくるような表現です。新聞では「正式発表した」という表現に、これと同じ意味を込めているわけです。

 ただし、自社のスクープであれば全て「正式発表した」と書いているというわけではありません。「発表した」としか書いていなくても、その新聞社のスクープであるケースはあります。

 実は、どんなときに「正式発表」と書くかという基準は、特に決まっていません。一般的には、読者に特ダネであったことを強調したい、スクープの中でも特に重要なケースで使われると考えてください。

 この例からも、読み飛ばしてしまいそうなくらい小さな表現の違いに、意外な意味が隠されていることは分かっていただけたと思います。

 ただ、こうした表現の違いは読者にほとんど知られていません。このことが、報道をめぐるさまざまな誤解を生んでいるように思います。

「飛ばし記事」とは?

 ところで最近、一般の人の間でも「飛ばし記事」という言葉が使われるようになりました。ネットなどでの使用例を見る限り、「臆測だけで書いている」という意味で使われることが多いようです。「書き飛ばす」とうニュアンスでしょうか。

 まず断っておきたいのは、一般紙、通信社、NHKの間では、関係者の噂や臆測だけに基づいて、つまりウラを取らずに記事を書くことは明確な「ルール違反」だということです。こうした記事を書いたことが分かれば、記者としての地位も危うくなるのが現実です。

 もちろん過去には、実際には取材をしていないのに報じたことが明らかになり、指弾されたケースが少なからずあります。裏付けが不十分な、「誤報」に近い「飛ばし」があることも事実です。しかし、決定過程のかなり前段階で報じるという意味での「飛ばし」と、「臆測だけで書かれた記事」とはまったく意味が異なります。

 例えば、「〜の方向で検討に入った」と書かれた内容が実現しないケースは時々あります。前回説明したように、こうした表現を使っていること自体が、「不確定要素をたくさん含んでいる」ことを表しているからです。

 報道自体が、当事者の交渉や意思決定に影響を与えるケースもあります。例えばM&Aの記事であれば、それまで交渉の事実を知らなかったライバルが妨害工作を始めるかもしれません。買われる側の企業の株価が報道の影響で上がってしまい、その結果、交渉が破談になることもあるでしょう。

 ただし、原則として「交渉している事実はある」ということです。確かに「交渉の打診」などかなり初期の段階で報じた場合などは、実現性が低いので「飛ばし」と言われても仕方ありません。ただ、結果として合併が実現しなかったとしても、記事が「誤報」だとまでは言えないのです。

執筆=松林 薫

1973年、広島市生まれ。ジャーナリスト。京都大学経済学部、同大学院経済学研究科修了。1999年、日本経済新聞社入社。東京と大阪の経済部で、金融・証券、年金、少子化問題、エネルギー、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」や「やさしい経済学」の編集も手がける。2014年に退社。11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立。著書に『新聞の正しい読み方』(NTT出版)『迷わず書ける記者式文章術』(慶応義塾大学出版会)。

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