ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
最終版とそれより前の版には、もう1つ大きな違いがあります。実は、いわゆる「特ダネ」が入っているのは基本的には最終版だけなのです。
特ダネとは、他紙には載っていない独自の大ニュースのことで、「特報」「スクープ」とも呼ばれます。他紙では読めない記事ですから、これが入っているかどうかは、その新聞の価値を大きく左右します。ところが、最終版が届かない地域の読者は、こうした記事を少なくとも紙面では読むことができないのです。
これは、13版までにスクープを載せてしまうと、他紙に追いつかれる恐れが生じるからです。つまり、ライバル紙の記者が早く刷られた版を目にして取材を開始し、最終版に同じ内容の記事を載せることでスクープではなくなってしまうリスクがあるのです。
こう聞くと、「ライバルが深夜に刷り上がる早版を見たとしても、そこから取材して記事を書くなんて可能なのだろうか」と思う方も多いでしょう。しかし、他社に特ダネを許すというのは新聞記者にとっては非常に恥となるのです。それを防ぐためには深夜でも死にもの狂いの取材をするのです。私自身、独自につかんだネタを12版に入れたら、それを読んだ他紙が14版に載せていた、という経験を何度かしています。
では、最終版が配られない地域に住む人はどうすればいいのでしょう。もちろん、みんながみんなスクープを必要としているわけではありません。仮に朝刊で読めなくても、少なくとも半日もすればネットや夕刊で読めるわけで、それで十分という人もいるでしょう。
どうしても朝一番で最終版を読みたいという人には、最近ではスマホやタブレット端末で読める電子新聞という選択肢があります。電子新聞は物理的に運ぶ手間がかからないので、必ず最終版を配信するからです。
話を紙面に戻しましょう。1面はいわば新聞の「顔」で、ここにどんな記事をどのように載せるのかに、その新聞社の個性や哲学がはっきりと表れます。
まず、トップ記事が何かを見てください。トップ記事というのはページの右上にある、最も大きい記事のことです。見出しの文字も、他の記事より一回り大きくなっているはずです。
1面のトップ記事は、新聞社がその日(厳密にはその前日か当日未明)に一番重要だと位置付けたニュースです。記者にとっても、この1面トップ記事を書くことは大きな名誉です。実際、ここに頻繁に記事を書ける人は「優秀な記者」と見なされます。
大事件が起きた日であれば、どのニュースをトップに据えるか迷う必要はありません。特ダネが入ってきた日も同じです。しかし、そんなに毎日大ニュースや特ダネがあるわけではないので、何をトップに選ぶかはしばしば社内で論争になります。
例えば、政治部の人たちが「今日、国会で可決された法案は重要だからトップにすべきだ」と主張すれば、経済部の人たちが「この企業買収の記事はうちが独自に取材してつかんだ特ダネだからこっちだ」と言うかもしれません。
最終的な決定権限を持っているのは編集局長と呼ばれる幹部ですが、いずれにせよ、どの記事のニュースバリューが高いかを社内で議論して決めるわけです。
こうした議論を経て決まる1面のトップ記事は、新聞社の性格を色濃く反映することになります。「新聞はみんな同じ」という声をよく聞きますが、大ニュースがない日に1面のトップ記事を読み比べれば、「意外と違うな」という印象を受けるのではないでしょうか。これは記事の選択基準、言い換えると価値観が新聞社によって異なるからです。
逆に、各社が1面で報じるような大ニュースがあった日の紙面も見ものです。各社が記事をトップに置くかどうかや、見出しの大きさ、本文での書きぶりなどに注目すると、重要性の判断や政治的なスタンス、持っている情報量などがどう違うかが分かるでしょう。
1面の表記と、ニュース記事についてざっくり見てきましたが、これだけでも「記事に書かれていること」以外に、さまざまな情報が読み取れることが分かっていただけたのではないでしょうか。
執筆=松林 薫
1973年、広島市生まれ。ジャーナリスト。京都大学経済学部、同大学院経済学研究科修了。1999年、日本経済新聞社入社。東京と大阪の経済部で、金融・証券、年金、少子化問題、エネルギー、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」や「やさしい経済学」の編集も手がける。2014年に退社。11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立。著書に『新聞の正しい読み方』(NTT出版)『迷わず書ける記者式文章術』(慶応義塾大学出版会)。
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情報のプロはこう読む!新聞の正しい読み方