雑談力を強くする時事ネタ・キーワード(第13回) 国内は熟成肉、海外は和牛。牛肉ブームを分析する

雑学

公開日:2016.11.28

 「空前の肉ブーム」などといわれる昨今。昔から牛肉はごちそうであったわけですが、近年のブームの特徴は、熟成肉と赤身肉が注目されていることといえます。

 熟成肉で人気となった始まりの1つが、2007年にオープンした東京・牛込の「ANTICA OSTERIA CARNEYA」(アンティカ オステリア カルネヤ)。オーナーは浅草の老舗焼肉店の息子で、イタリアで料理修業をした経験があることから「肉系イタリアン」とも呼ばれています。

 この店では「さの萬」という静岡県富士宮市の食肉専門店の肉を扱っています。「さの萬」は「日本におけるドライエイジングビーフ(熟成肉)の先駆的存在」として外食アワード2013(外食産業記者会)の食材業者部門を受賞した会社です。

 赤身肉の魅力を打ち出してファンを集めている店としては、2011年東京・阿佐ヶ谷にオープンした「SATO ブリアン」があります。焼肉店に勤めていたオーナーがシャトーブリアン(牛ヒレの中心部分、赤身で味がよい)の魅力を前面に打ち出しています。

すでに4年間続いている熟成肉・赤身肉ブーム

 こうしたお店の人気に注目が集まり、熟成肉および赤身肉を売り物にするレストランが急増したのが2013年でした。この年はファミリーレストラン各社の業績回復傾向が鮮明になった年でもあるのですが、その人気回復の決め手の1つは肉料理の魅力を丁寧に訴求したことだったといわれています。12月には、量り売りでステーキが食べられる店「いきなり!ステーキ」1号店が東京・銀座に登場。連日の行列で肉人気を印象づけました。

 明けて2014年5月に東京の駒沢オリンピック公園で肉料理に特化したフードイベント、第1回「肉フェス」が開催されました。会場では、熟成肉をアピールする参加者も見られ、注目を浴びました。同イベントは現在も続く人気イベントになっています。

 こうして熟成肉や赤身肉が脚光を浴びた一因として価格が挙げられます。人気のある霜降りの和牛肉は高価格です。それに比べると赤身肉は一般に価格が安いわけですが、味の面で霜降り肉よりは人気がありませんでした。ところが、熟成をかけることや赤身でも特別な部位を選ぶことによって、むしろ赤身ならではの魅力を引き出す技術者や店が現れたわけです。

 熟成という手間をかけ多少高価なものになっても、霜降り和牛よりは提供価格を抑えられる可能性があります。また、同じ価格だったとしても、付加価値を生産者ではなく販売者のものにできるという事情もあります。こうしたこともあって、日本では肉の王様級の扱いをされている霜降り和牛肉ですが、昨今の肉ブームの中では、必ずしも主役をはっているわけではありませんでした。

海外でWAGYU人気、支えるのはオーストラリア

 このように日本の外食市場が熟成肉と赤身肉に注目しているのとは逆に、現在世界各国で日本食人気が高まるとともに「和牛」が注目されています。世界各国で「WAGYU」という表記を見かけることが珍しいことではなくなっているのです。

 日本産の和牛は1990年代からよく輸出されるようになり、特に東南アジアや中国の高級店で扱われるようになっていました。軟らかく脂のうま味が魅力の霜降り肉が、富裕層の舌をとりこにしたのです。ところが、2010年に宮崎県南部を中心に口蹄疫が広がり、さらに2011年に福島第一原子力発電所事故が発生し、これらによって日本産の和牛の輸出は不可能となりました。

 そんなときに東アジアの和牛市場をそっくり手中に収める形となったのが、オーストラリア産の「WAGYU」です。さらに現在では、米国、カナダ、欧州でも、WAGYU生産が行われています。これらは日本から輸入した和牛の仔牛、受精卵、精液を使い、日本式の肥育を行い、品質も日本産に迫るといわれています。

 こうした海外生産の伸びとは裏腹に、実は口蹄疫などの問題が生ずる以前から、日本における和牛生産は衰退傾向にありました。和牛生産者の高齢化がベースにあり、国内でのBSE発生で牛肉価格が落ち込み、生産者戸数が大幅に減少しています。

 この状況を改善するために、政府は肉用牛肥育経営安定特別対策事業(通称、牛マルキン)という収入補填制度で生産者を支えようとする一方、牛肉の輸出戦略を掲げ、欧米諸国を中心に各種のプロモーションを展開しています。

 プロモーションによって販売量は上向く可能性はありますが、生産者は仔牛価格と肥育コストの上昇のほうに頭を痛めています。これを解決しなければ取り組みにくいものであり続け、生産戸数の増加は望めないでしょう。牛マルキンは生産者の利益確保を狙った制度ですが、皮肉にもこれが肥育用に買う仔牛の価格上昇を抑える圧力を弱めてしまう面があるといわれています。

 今、求められているのは、肥育のプロセスでの生産コストを抑える方法を考えていくことです。それに対して、最近は、ICTによって牛の挙動を監視し、省力でしかも適時的確に給餌その他の世話をするといった仕組みが開発されるなど、新たな取り組みも行われています。赤身の熟成肉、霜降りの和牛の両方が、好みに合わせてリーズナブルに楽しめるような牛肉生産が実現することを期待したいものです。

執筆=齋藤 訓之

飲食店経営誌、農業経営誌の記者、編集者を経て独立。株式会社香雪社を設立し同社代表取締役。公益財団法人流通経済研究所客員研究員、亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員を務める。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)などがある。

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