人気会計士が語る、小さな会社の経営“これだけ”(第31回) いかにして経営理念を浸透させるか

資金・経費

公開日:2021.05.07

 顧問先2200社を抱える会計事務所を率いる公認会計士、古田土満氏が語る小さな企業の経営のコツ。前回まで、社長の重要な仕事について、数回にわたり解説してきました。今回からは経営理念について説明します。いくら経営者が立派な理念を持っていても、それが社員に行きわたっていなければ会社としては意味がありません。どうすれば社員に経営理念を浸透させることができるのでしょうか。

 私が知る限り、自分の会社の社員に経営理念が浸透されていると思っている経営者の方は、ほとんどいません。「理念経営」といわれるように、経営理念が大事なことは多くの経営者が理解し、勉強もしていますが、社内には浸透していません。

 では、経営理念を浸透させるためには、独自のよい経営理念を作ることが大事なのでしょうか。私はそう思いません。京セラの「全従業員の物心両面の幸福を追求して……」、あるいは伊那食品工業の「社員の幸せを通して社会に貢献する」のような、手本となる会社の素晴らしい経営理念をまねして作ればよいと思っています。

社員は経営理念を理解はするが、なかなか行動には移せない

 ポイントは、「社員のことが一番大事だ」と、最初に書くということです。2番目に、自社の商品・技術・サービスで社会貢献をするということを書けばよいわけです。社長は2番目に書く言葉を見つけるために、経営理念を勉強すればいいのです。

 次に、社内で勉強会をして経営理念を理解させれば浸透するかというと、私は浸透しないと思っています。社員はすぐに理解はしますが、なかなか行動できないからです。勉強会はやらないよりはやったほうがましですが、効果はそれほどありません。しかし実際には、ほとんどの会社が経営理念を作ることと、その勉強しかしていないので、経営理念が浸透しないのです。

 行動できないのは、体に染み付いていないからです。すなわち、社員がしつけられていないからです。私は経営理念を浸透させる1つの方法として、環境整備を実践しています。頭で理解するのではなく、体で覚えさせるのです。

 環境整備の基本は、「形」から入って「心」に至る、「形」ができるようになれば、あとは自然と「心」がついてくる。具体的には、整理、整頓、清掃、清潔、躾の5Sと、挨拶、礼儀、規律などです。まず形をつくり、徹底的にトレーニング(訓練)することにより、形がそろうようになり、心もそろうようになってきます。

 特に掃除によって物を磨くことにより、心も磨かれるようになります。よい社風にするためには、掃除をすることです。物をピカピカにし、心もピカピカにすることによって会社の文化となります。よい社風になり、働く環境がよくなれば、自然と心がついてきて、結果として経営理念が浸透していきます。

行動に落とし込んで訓練して、習慣にする

 人は、勉強によって意識が変わります。ですから、研修をして意識改革をすることは大切です。しかし、意識が変わっても行動が変わらなければ何の意味もありません。多くの会社では、経営理念を行動まで落とし込んでいないから結果が出ていないのではないでしょうか。

 行動を変えられる会社にするために、環境整備を徹底してやります。社長が方向を示すと、全社員が同じ方向を向いて仕事をする、すなわち、社長の言うことを社員が実行する組織になります。行動が変われば、習慣が変わります。

 「躾とは習慣である」

 イエローハットの創業者である鍵山秀三郎さんは、こう言っていらっしゃいます。まさにその通りで、社員がしつけられている会社がよい社風の会社になっています。稲盛和夫さんが短期間で日本航空の経営を再生しました。これは京セラ・フィロソフィによる教育および、アメーバ経営によるところが大きいと思います。日本航空は社員の質が高く、社員が競争で鍛えられていたから、京セラ・フィロソフィを理解し、行動に移し、結果を出せたのではないかと考えています。

 一方、私ども中小企業は、社長も社員も質はそれほど高くないし、社内で競争はほとんどなく、規律もゆるく、罰も実行されていないので、言って聞かせるだけでは行動に移せません。行動に落とし込んで訓練して、習慣にすることにより、全社員が一丸となって社長の方針を実行する組織になるのではないでしょうか。

※本記事は、2017年に書籍として発刊されたものです

執筆=古田土 満

法政大学を卒業後、公認会計士試験に合格。監査法人にて会計監査を経験して、1983年に古田土公認会計士・税理士事務所を設立。財務分析、市場分析、資金繰りに至るまで、徹底した分析ツールによって企業の体質改善を実現。中小企業経営者の信頼を得る。

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