ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
経営者は万能ではない。自分の強みや弱みをきちんと認識することは必要不可欠だ。その上で、ドラッカーは「強みを伸ばすことによって弱みを克服する」ことの大切さを説明する。今回は、その考えに共鳴した経営者のケースを紹介する。
●ドラッカーの言葉
「強みを伸ばすということは、弱みを無視してよいということではない。弱みには常に関心を払わなければならない。しかし人が弱みを克服するのは、強みを伸ばすことによってである」
(『非営利組織の経営』)
〈解説〉人にはそれぞれ指紋があるように、人には固有の強みと弱みがある。弱みには目が行きやすい。自覚もある。しかし強みを自覚する人は少ない。意識せずとも自然に成果に結びついているからだ。強みを自覚し、意識的に生かせば、さらに成果は上がる。弱みは誰かがカバーしてくれる。他人の強みを使い、自分の弱みを意味のないものにする。それがチームだ。1+1が2以上になる。相互補完が、チーム力の源泉だ。
「組織として崩壊寸前だった」。2012年、社長就任時のかめや(長野県原村)の状況を、亀原和成社長はこう振り返る。
かめやは長野県を中心にたこ焼き・たい焼き店「焼きたて屋」を展開する。1989年、亀原社長が先代の社長と共同で設立した。コンテナハウスを使ってスーパーの敷地の一角などに出店。売れ行きが悪ければすぐ撤退し、売れる立地を探して移動する。そんな機動的な出店戦略が当たって、2000年ごろから売り上げが急激に伸びた。月に1坪(3.3m2)当たり600万円を売り上げる店舗もあったという。売上高が10億円を超え、経常利益率は6.7%を確保していた。
つまずきのきっかけは多角化だった。新しい事業の柱を作ろうと考え、2003年からラーメン店やカフェの出店に乗り出したが、売り上げが伸び悩んだ。08年には外食事業からの撤退を始めたが、6000万~7000万円ほどの負債を抱えた。
業績低迷が社内の人間関係を悪化させた。「役員会議では数字の話ばかりで、人のマネジメントは後回し。社員は皆、顔を合わせれば誰かの批判を口にしていた」。古川博徳専務は当時の様子をこう語る。亀原社長がバトンタッチを受けたのは、こんな混乱の最中だった。
経営について改めて学びたいと考えた亀原社長は、ドラッカーの勉強会に参加した。ドラッカーが示す経営の原理原則と、自分たちがしてきたことがまったく違っていたことに衝撃を受けた。中でも最も印象に残ったのは「強みを生かす」という言葉だ。
外食事業の不振を振り返り、「自社の強みが生きない事業だった」と痛感した。「本業のたこ焼き・たい焼きの販売と似ているようで、実は全然違う商売だった。コンテナ方式の物販店で求められたのは、機敏に動く狩猟民族のようなスキル。一方、飲食店の運営には、地域に根差して顧客と関係を深める農耕民族的なスキルが必要だった。その違いに気づかなかったばかりに、経営危機を招いた」(亀原社長)
社員への接し方も変わった。これまでは欠点ばかりを見て「なぜできないのか」と批判していたが、長所を探さなくては、社員も会社も成長しないと考えを改めた。まず役員の自己分析から始めた。外部のテストなどを活用して一人ひとりの強みを探った。すると、各自の持ち味と担当業務にかい離があることが見えてきた。
例えば、亀原社長は「焼きたて屋」のFC(フランチャイズチェーン)オーナーの指導を担当していた。しかし、不採算店を抱えるオーナーに、有効なテコ入れ策を提案することがなかなかできずにいた。その理由を探ると、亀原社長は、新しいことへの挑戦は得意な半面、業務改善のような緻密さを求められる仕事が苦手だからだと分かった。一方、古川専務は亀原社長と正反対のタイプだ。
そこで、不採算店の指導を古川専務が担当すると、不採算店が次々に黒字化。一方、亀原社長は新規出店に専念して実績を上げた。このように社長は“攻め”、専務は“守り”と、役割分担を明確にしたことで、お互いに仕事のやりがいが増し、成果も上がった。
「強みを生かした役割分担」の効果を実感した2人は、社員一人ひとりの持ち味も調べ、配置換えの際に考慮することにした。例えば、数字には弱いが、後輩の指導が抜群にうまい女性社員がいた。彼女に人づき合いは苦手だが数字に強い男性社員とペアを組ませて、長野県のエリアリーダーを任せると、業績が上がった。このような補完関係を生かした人員配置によって、本業が成長した。
15年6月期は当期利益2500万円以上を計上。多角化の失敗で生んだ累積損失を一掃した。
日経トップリーダー 構成/尾越まり恵
【あなたへの問い】
■攻めと守り、あなたはどちらが得意ですか? あなたの参謀はどうですか?
〈解説〉人にはそれぞれに持ち味があります。得意分野に集中できると、余計なストレスや迷いを感じることなく、実力を発揮できます。だから、不得意分野を補い合えるパートナーを探しましょう。経営者にとっては参謀です。理想の相手はあなたと正反対のタイプ。考え方が違い過ぎて普段は話が合わない人こそ、適任者かもしれません。(佐藤 等)
次号:実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(第9回)
「自らの事業は何か編 売り上げを捨てて連続増収増益」2016年6月6日公開
執筆=佐藤 等(佐藤等公認会計士事務所)
佐藤等公認会計士事務所所長、公認会計士・税理士、ドラッカー学会理事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会としてドラッカーの「読書会」を北海道と東京で開催中。著作に『実践するドラッカー[事業編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズがある。
【T】
実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ