実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(第27回) 部下への敬意編 挨拶から不満の相談、業務提案へ

経営全般

公開日:2018.02.07

 実例からドラッカーのマネジメントを学ぶ連載。前回から、百貨店業界の中でも注目を集める東急百貨店本店の取り組みを紹介しています。業績復活の背景には、店長から社員への小まめな挨拶や声かけなどきっかけに、不満の相談、業務提案へとつなげ、社内活性化を成し遂げたことでした。高橋店長の考えと取り組みを解説します。

高橋店長。ドラッカーの著書の引用など、気になる言葉を「金科玉条集」と名付けたノートに記録している

 距離を縮め、相談しやすい環境をつくった結果、やがて従業員は、内心の不満を、高橋功店長に漏らすようになった。

 例えば「トイレが汚い」。言われてみれば確かに、従業員用トイレは67年のオープンから半世紀近く、大規模な改修がされていなかった。きれいにするには、ただ便器を取り換えるのでは不十分。配管工事も必要で、莫大な費用がかかった。それでも少しずつ予算を確保し、2015年から1年に数フロアずつ工事を始めた。今年ようやく、全9フロアの改修が完了する。

 「社員食堂の料理がおいしくない」という不満もあった。食堂を運営する会社と相談して、厨房設備のメンテナンスを実施。毎月29日を「ニクの日」と定めてステーキランチを提供したり、従業員のリクエストに応える特別メニューを企画したりと、工夫を重ねた。

 やがてゆっくりと、従業員の姿勢に変化が見え始めた。

挨拶から広がる主体性

 挨拶運動を始めた半年後、挨拶を返す人が増えた手応えを感じ、1年後には挨拶の習慣が店内に根付いたと確信できた。さらに2年ほど続けると、従業員から「挨拶運動は私たちがやります」という声が上がり、高橋店長はお役御免となった。

 それと同時に、販促などの企画提案が出るようになった。

 大きな転機となったのは、14年4月。屋上に期間限定でバーベキュー施設をオープンさせた。店長室の若手が提案した前例のない企画。来店客に、大人1人2000円で炭火や食器、調味料などを提供し、持ち込み自由の食材や飲み物でバーベキューを楽しんでもらう。消防法上許されるかを行政と話し合うなど、手間はかかったが、実現すると話題を呼び、メディアの取材が相次いだ。

2016年12月には、屋上に期間限定でカーリング場を設置して話題になった。斬新な企画へのチャレンジが、好業績の原動力だ

 バーベキューを目的に来店した顧客を満足させるため、全店一丸となった。精肉売り場では普段、高級品が中心の品ぞろえを見直し、リーズナブルな価格の肉とカットした野菜のセット商品を販売。これがよく売れた。発泡酒なども冷やして用意した。

 その後、さまざまな企画が提案され、部署横断で取り組むプロジェクトが増えた。参加した従業員は、普段と違う仕事を体験して充実感を味わうと同時に、個別プロジェクトの収支への関心を強めた。それが、普段の仕事を見直すきっかけとなった。

 例えば、衣料品売り場で、シーズン中に売れ残った商品を値下げして販売すれば、利益率は下がる。それを防げないかと考える姿勢が生まれた。定価で喜んで買ってもらえるのはどんな商品なのか、顧客が満足する品ぞろえを真剣に考えるようになった。そんな変化が、連続増益につながっている。

 「トップの仕事は、現場が仕事をしやすい環境の整備。提案が湧き出す最初のきっかけさえつくれれば、チャレンジが増える。すべての挑戦が成功しなくても構わない。失敗を許容し、行動力を底上げしていく。そうすれば組織はどこまでも力強く成長していける」。高橋店長はそう確信している。

【あなたへの問い】
■これまでに、あなたが現場に尋ねて出てきた意見や不満、アイデアに、どんなものがありましたか?
■これから現場と、どんな関係を築きたいですか?
■ そのような関係を築きたいことを現場に伝えるため、どんな行動を取りますか?

<解説>現場の声を聞くことを恐れる経営者は、少なくありません。「スタッフに思い切って、『本音で話してくれ』と言ったら、出てきたのは不平不満や愚痴ばかりだった。もう懲り懲り」といった具合です。

 しかし、長い間、無視されてきた現場が、初めて意見を求められれば、不平不満が先立つほうが自然です。現場といい関係を築きたいと本気で思うなら、小さな不満を貴重な提案として扱う。そんなトップの姿を何度も見れば、現場も変わります。
(Dサポート代表※ 清水祥行)

※ Dサポートは、ドラッカーのマネジメント体系を活用した人材開発支援を手掛け、本連載を監修するドラッカー学会理事の佐藤等氏と清水祥行氏の2人が、代表取締役を務める
※ ドラッカーの著作からの引用ページは、ダイヤモンド社刊行の書籍に準拠

日経トップリーダー 構成/尾越まり恵

執筆=佐藤 等(佐藤等公認会計士事務所)

佐藤等公認会計士事務所所長、公認会計士・税理士、ドラッカー学会理事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会としてドラッカーの「読書会」を北海道と東京で開催中。著作に『実践するドラッカー[事業編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズがある。

【T】

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