実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(第32回) 報酬と動機付け編 金銭的な報酬に潜む弊害とは?

経営全般

公開日:2018.07.04

 実例からドラッカーのマネジメントを学ぶ連載。第28回からスタートした米菓メーカーの三州製菓の取り組み、5回目になります。社内の味覚テストで女性社員の味覚の確かさが証明されたこともあり、斉之平社長は思い切って社員にいくつかの権限を委譲することにした。さらに海外の企業からヒントを得て、「一人一研究制度」をスタート。どのような研究成果が見えてきたのだろうか?

斉之平社長

ドラッカーに学んだ先輩企業(17) 三州製菓 (5)

社員食堂を称賛の場に

 自社との共通点も発見した。マルコム・ボルドリッジ賞のトロフィーが置かれているのは社員の休憩室。三州製菓が一人一研究の金賞受賞者の名前を食堂に掲げるのと同様、社員の功績を皆の目に触れる形でたたえていた。

 この視察で、心理学者のエドワード・デシ教授が行った、いわゆる「デシの実験」について知った。

 実験では、大学生を2グループに分け、難しいパズルの課題をいくつか与えた。1日目は両グループとも同じようにパズルを解き、2日目は片方のグループに限って、パズルが解けると1ドルの報酬を与えた。3日目は1日目と同様、どちらにも報酬を与えなかった。

 すると2日目に報酬を得たグループは、その間だけモチベーションが著しく高まったが、報酬がなくなった3日目はガクンと落ちた。一方、報酬ゼロの学生は一定のモチベーションを維持した。

 つまり、金銭的な報酬はモチベーションにマイナスの影響を与えかねない。報酬という「外発的動機付け」が、「自分が面白いと思うからやる」という「内発的動機付け」を弱める恐れがある――。

 斉之平社長はハッとした。

 自分もこれまで社員の主体性を大事にしてきた。しかし、デシの実験が示すように、外発的動機付けが内発的なモチベーションを阻害するという認識は乏しかった。

 ドラッカーはこう記す。「知識労働者の動機付けは、ボランティアの動機付けと同じである。周知のように、ボランティアは、まさに報酬を手にしないがゆえに、仕事そのものから満足を得なければならない」(『明日を支配するもの』)。

 視察から戻った斉之平社長は、一人一研究のあり方を見直した。

 テーマ設定はもともと自由だったが、現実には「せんべい反転機」を筆頭に、業務改善を目的としたものが目立った。社員には「会社のための研究」という意識が強く、「自分が面白いから研究する」という姿勢は弱いことがうかがえた。

創造力の回路を開く

 そこで「研究テーマには、自分が心から興味が持てるものを選んでほしい。仕事に関係なくていい」と強調した。社長自ら、「熟成玄米のおいしい炊き方」を一人一研究で発表するなど、率先垂範(そっせんすいはん)で「自由な研究」を推奨した。

 すると、製造中に割れてしまったせんべいを料理に使う方法など、私生活を楽しむような研究が少しずつ出てきた。2007年にはダイエットに成功した社員がその間の試行錯誤をプレゼンし、金賞を得た。

 この変化を斉之平社長は歓迎した。実際、研究の自由度が高まると同時に、チョコを染みこませたおかきなど、独創的なヒット商品が続々と出てきた。

「仕事に無関係な研究を会社が奨励していると分かれば、社員の中の〝やらされ感〞が減り、結果、創造力を働かせる脳の回路が開く。創造は一種の習慣だから、プライベートでも一度、回路が開けば、仕事でも必ず機能する。それが、わが社が研究開発型のメーカーとして発展する基盤になった」

 斉之平社長はそう断言する。

【あなたへの問い】
■ あなたの会社の社員は、自分の今の待遇に満足していると思いますか?
■ 社員は、自分の仕事ぶりに満足していると思いますか?
■ 社員が、自分の仕事の中で、面白がりながら試行錯誤し、達成感を味わうために、何ができますか?

 ドラッカー教授は「満足は動機付けとして間違っている。満足とは受け身の気持ちである」(『現代の経営』)と、指摘しました。

 労働の対価としての給与ばかりに目が向くと、「待遇の満足」が、仕事の動機付けになると考えがちです。

 しかし、自社の社員も本当は、あたかも芸術家のように、自分の仕事ぶりに満足できるかを重視していたとしたら、どうでしょう。「次はもっといい仕事をしたい」という「自分への不満」が、大きな動機付けになるはずです。
(Dサポート代表※ 清水祥行)

※ Dサポートは、ドラッカーのマネジメント体系を活用した人材開発支援を手掛け、本連載を監修するドラッカー学会理事の佐藤等氏と清水祥行氏の2人が、代表取締役を務める
※ ドラッカーの著作からの引用ページは、ダイヤモンド社刊行の書籍に準拠

日経トップリーダー 構成/尾越まり恵

執筆=佐藤 等(佐藤等公認会計士事務所)

佐藤等公認会計士事務所所長、公認会計士・税理士、ドラッカー学会理事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会としてドラッカーの「読書会」を北海道と東京で開催中。著作に『実践するドラッカー[事業編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズがある。

【T】

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