実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(第7回) 利益とは条件編 利益を追わずに利益率アップ

経営全般 増収施策

公開日:2016.04.04

 多くの経営者は企業経営の目的は利益を出すことと考えてしまう。しかし、ドラッカーは「事業の目的は顧客の創造である」と断言する。今回は、その考えに共鳴して経営スタイルを大きく変えた経営者のケースを紹介する。

ドラッカーに学んだ先輩企業(4)「北海道健誠社」(後編)

●ドラッカーの言葉
「利益は、個々の企業にとっても、社会にとっても必要である。しかしそれは、企業や企業活動にとって、目的ではなく条件である」

(『マネジメント(上)』)

〈解説〉人生においてお金が目的ではないのと同様に、企業経営において利益は目的でない。「事業の目的は顧客の創造である」と、ドラッカーは断言した。顧客の創造を継続するのに、利益は必要不可欠な条件であり、手段であり、燃料である。何事も目的と手段を混同するとうまくいかない。目的を正しく理解すれば、視線が向かう方向が変わる。利益から顧客に目を転じれば、今まで見えなかったものが見えてくる。利益の唯一の源泉である顧客の姿がよく見えるようになる。

 北海道健誠社(北海道旭川市)の瀧野雅一専務はかつて、高圧的なトップダウンのマネジメントを行っていた。一方的に指示命令し、意見する社員には「辞めて結構。代わりはいる」という態度を見せた。幹部社員とたびたび衝突し、何人もが会社を去った。父の瀧野喜市社長に「あなたの息子は独裁者だ」という手紙を送った元幹部もいた。「ただ利益を出すのに必死だっただけ」と、瀧野専務は振り返る。

 1992年、20歳のときに父母と起業し、ホテルや病院向けのリネンクリーニングを主力に会社を伸ばしてきた。事業拡大に伴い、借入金が膨らんだが、クリーニング業の利幅は薄い。何とか利益を出さなければ、会社が立ち行かなくなる。焦燥感から、社員に厳しく当たる場面が増えていたのだ。

 そんな状況が10年ほど続いた2005年ころから、原因不明の内臓疾患や突発性難聴を患い、年に2~3回の入退院を繰り返すようになった。このまま働けなくなるのではないかと思った。そんな窮地の中で自分を振り返り、「社員に嫌われてまで、何のために頑張ってきたのだろう」と疑問に感じた。

 このころに参加したドラッカーのセミナーで大きな衝撃を受けた。「利益とは条件」──これが、ドラッカーのマネジメントの根幹にある考え方だという。

 長年、利益を出すために奔走してきた瀧野専務は納得できなかった。「会社は営利組織だ。利益を出さなければ倒産してしまう。利益こそ目的ではないのか」。ドラッカーの思想が気になり、翌日、代表作の一つ『経営者の条件』を購入。読み進めるうち、すとんと心に落ちた。「企業の存在意義は、顧客の幸せにある。そして利益は顧客満足の尺度。利益が上がるのは、自分たちの仕事ぶりを顧客に評価してもらえたことの証拠に過ぎない」。そう納得したとき、創業時のことを思い出した。

蘇った創業時の思い

 北海道健誠社は、もともとは病院向けの寝具リースからスタートした。きっかけは、個人で羽毛布団のセールスをしていた瀧野専務が、ある病院に偶然、売りこみに行ったこと。当時、病院の寝具は木綿布団が主力だったが、それと比べて羽毛布団は寝心地が格段にいいという。「患者さんの療養環境を快適にしたい」という純粋な思いから、会社設立を決意した。

 ただ、病院向けの寝具リースは利権の多い業界だった。新規参入の障壁は高く、嫌がらせも受けた。しかし、患者の利益を優先する北海道健誠社の姿勢に支持が集まり、事業は軌道に乗った。「あのころの自分には、世の中の役に立とうとするミッションがあった」。

 それがホテル向けのクリーニングなどに手を広げ、借入金返済の重圧にさらされる中で、無意識のうちに、利益のことしか考えない“独裁者”になっていた。

利益の使い方がカギ

 瀧野専務は、利益は目的でなく、条件だと捉え直した。新しい方針を社員に示すために08年、会社のスローガンを定め、「利益は幸せの継続のため」とした。

 このときから、経営スタイルが大きく変わった。まず、売り上げや利益などの経営数値を社員に公開した。1年の目標と計画は、役員や部門長と合宿会議を開いて定め、利益が上がったときの使い道まで議論した。

 「利益が目的ならば、利益は多いほどいいだけで、使途には無頓着でいい。けれど、利益は条件にすぎないとなると、目的にかなった使い方をする必要がある。だから、お客様や地域の人たちを幸せにする利益の使い方を一緒に考えた」その中で生まれたのが、法人顧客である地元ホテルの集客に協力するといった、地域密着型のアプローチだ(第5回参照)。

 利益を軽視するわけではない。利益がなくては、お客様や地域を幸せにする活動はできない。そのことを社員も理解しているから、利益目標の達成に向けて邁進する。スローガンを定めてから利益はむしろ増えた。1~2%だった経常利益率が10%近くに伸びた。瀧野専務の体の不調も収まった。

 何より変わったのは、社内の空気だ。瀧野専務が大事にしている2枚の写真がある。どちらも社員旅行の集合写真だが、1枚はスローガンを定める前年で、皆、表情が硬い(上写真)。もう1枚は、その2年後。和気あいあいとしたムードが漂う(下写真)。
「今はちょっとした指示にも、社員が笑顔で応えてくれる。経営が心底、楽しくなった」と話す。

経営者の思考が変わると社員が変わる



日経トップリーダー 構成/尾越まり恵

【あなたへの問い】
■あなたの会社がなくなったら、誰が困りますか? どのように困りますか?

〈解説〉窮地に陥った企業が復活する奇跡を目にすることがあります。そのほとんどが、財務状態は最悪でも、その企業がなくなると困る人が多くいるというケースです。裏返せば、その企業があることで助かった、幸せになったという人が多くいる。顧客に貢献し、愛される企業が、結果的に利益を上げる方策を見つけ、生き残るのです。もしも、組織内部にいる人の利益や、組織そのものの存続を優先するなら、その企業は一時的に好業績を上げても、長期的には存続できなくなるでしょう。(佐藤 等)

次号:実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(第8回)
強みを生かす編 社員の個性を生かして累損一掃」2016年5月9日公開

執筆=佐藤 等(佐藤等公認会計士事務所)

佐藤等公認会計士事務所所長、公認会計士・税理士、ドラッカー学会理事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会としてドラッカーの「読書会」を北海道と東京で開催中。著作に『実践するドラッカー[事業編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズがある。

【T】

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