ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
1つのニュースが飛び込んできた。カセットテープ(コンパクトカセット)を製造していた日立マクセルが2016年11月25日に、1970年代に人気を誇ったモデル「UD」のデザインを復刻した製品を発売した。1966年に同社が国内で初めてカセットテープを製品化・発売してから50周年を記念したモデルだ。ケースのデザインから、黒い本体(ブラックハーフ)まで当時そのものを再現。日本製にもこだわった。
音楽を記録するメディアは、カセットテープなどのアナログ方式から、CDやMDといったデジタル方式のディスク、さらに半導体メモリーへと急速に変化を遂げてきた。そうした中で、近年ではカセットテープの奏でるアナログ方式の音色への再評価や、カセットテープを知らない若い世代が感じる新鮮さなどから、カセットテープが注目されている。カセットテープで新曲をリリースするアーティストもいるほどだ。
そうした中、車載用多機能カセットデッキを新たに発売したメーカーもある。車載機器などを製造・販売するビートソニックは「HTC3」という製品を2016年9月に発売した。1DINタイプの車載デッキで、カセットテープを挿入するスロットが何とも懐かしい。カセットテープを再生できるだけでなく、マイクロSDカードやUSBメモリーを装着したり、ケーブルでスマートフォンなどを接続したりすることで、現代の音源を再生できる。FM/AMラジオの聴取も含めて、アナログからデジタルまでフルに対応した製品だ。カセットテープが1つの音楽記録メディアとして、生き残っていく道が見えてきそうな印象を覚える。
こうしたカセットテープに代表される磁気テープは、もう古くて不要な技術なのだろうか。いやいや、そうではない。
磁気テープの“復権”には、コンピューターなどのデータの記録媒体としての使い方が大きく関わっている。経済産業省の統計では、年々減少を続けてきた磁気テープの生産量は2010年ごろからV字回復を見せる。その後は一進一退ではあるものの、消え行くメディアという認識は必ずしも当たっていない。
磁気テープは、コンピューターのデータのストレージとして見たときに、現在も通用するメリットを備えている。それが、コストや消費電力といったファクターだ。容量当たりのコストが安く、保管中は電源が不要であり、大量のデータを長期保存する際のランニングコストが低く抑えられるためである。磁性体技術の進展もあり、一層の大容量ストレージの構築も可能だ。
データのストレージ用途で、磁気テープが注目される1つの要因は、東日本大震災の経験からくるデータをバックアップする重要性の見直しだ。災害でデータが失われ、業務を継続することが困難になる事態に直面したためだ。企業でも自治体でも、重要なデータをどのようにバックアップするかが課題となった。そこで着目されたのが磁気テープによるバックアップだ。
磁気テープは、持ち運びが容易。通信回線を利用して大量のデータをバックアップするよりも、低いコストで物理的に別の場所にデータをバックアップできる。1カ月に1度、バックアップしたデータを遠隔地に送るといった運用で、大量のデータを災害などの被害から守れる。いざというときに、磁気テープを持ち出して避難することも可能だ。保管中には電源が不要なので、停電があってもデータが保持される。
こうした災害時の事業継続計画(BCP)の立案に、磁気テープを使ったストレージが改めて見直されているというわけだ。2012年を中心に生産量が増加したのも、東日本大震災後のデータバックアップ需要に応えるためだと考えられる。
こうして“復活”ののろしを上げた磁気テープは、災害対策以外でも注目されるようになっている。それがクラウドやIoTといったICTの先端技術との関わりだ。
磁気テープは、高密度な記録ができるような新しい磁性体の開発や実用化が進められている。さらに、ノイズを抑えて記録できる磁性体についても開発中だ。技術開発は今も着実に続いている。こうした技術開発により、一層の大容量の記録が可能になるだろう。
さまざまなモノがネットワークにつながって、データを発信するようになるIoT時代。データの活用・編集等が生じる場面においては、すでにクラウド化は不可欠な状況だ。一方、こと「保管」に関していえば、磁気テープにも他にはないメリットがある。将来に向けて大量のデータを残すには、低コスト、電力消費不要という磁気テープの特徴が寄与する。大容量記録の技術が組み合わされれば、大量データ保管のメディアとして一層の活用も期待できるはずだ。
古くて新しいメディアとして、今も注目され続ける磁気テープ。メディアの潮流とは、新しいものが古いものを駆逐するのがすべてではないと物語る。もはや揺るぎないクラウドの利点を享受しつつ、磁気テープのメリットにも目を向けてみてはいかがだろうか。
執筆=岩元 直久
【MT】
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