知って得する!話題のトレンドワード(第29回) ポイント解説!スッキリわかる「心理的安全性」

業務課題 経営全般

公開日:2026.04.09

 いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第29回のテーマはスッキリわかる「心理的安全性」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説します。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。

 最近よく耳にする「心理的安全性(Psychological Safety)」とは、米ハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年の論文で提唱、「このチームでは、発言や質問などの対人リスクを取っても大丈夫だという共有された信念」をさします。心理的安全性のもとでは、メンバーはアイデアや疑問、失敗も率直に発言でき、互いに尊重されながらチームの成果向上に貢献できます。この源流は、米臨床心理学者のカール・ロジャーズが提唱した来談者中心療法にあり、「無条件の肯定的関心」「共感」「受容」を通じて、安心して自分を表現できる関係を重視する思想にさかのぼるとされます。「心理的安全性」が世界的に注目される契機となったのが、2012年の米Googleの社内研究「プロジェクト・アリストテレス(Project Aristotle)」で、この研究にてGoogleは、効果的なチームを生む5つの要因を挙げ、その中で最も重要な要因を「心理的安全性」として、エドモンドソン教授の名前を挙げています。

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 日本企業では、空気を読む文化や失敗を許容しにくい風土などから、実現が難しい面もありますが、現代ビジネスのテーマである、イノベーション創出やDX推進、少子高齢化社会への対策、多様な人材の活躍を実現するためには、率直に発言し挑戦できる心理的安全性の高い組織づくりが重要とされています。

関連する出来事などの背景

 「心理的安全性」という用語は、アメリカの臨床心理学者カール・ロジャーズが1940~50年代に提唱した「来談者中心療法」(Client-Centered Therapy)に由来するとされます。これは、個人の創造性を育むために、必要な条件を確立するという文脈で用いられた概念です。

 ロジャーズは「無条件の肯定的関心(unconditional positive regard)」「共感(empathy)」「受容(acceptance)」を重視、個人を無条件に肯定し、共感と受容を通じて「安心して自分を表現できる関係」をつくることが重要である、と考えました。その後、米オハイオ・ウェスリアン大学の心理学教授ヒューバート・ボナーは、「感情的な安心(security)に対する人間のニーズ」という文脈でこの用語を使用しました。

 さらに1965年には、アメリカのエドガー・H・シャイン氏とウォーレン・ベニス氏が「恐怖を感じることなく十分な保護のもとでチャンスをつかめる雰囲気づくりが重要であり、その結果、暫定的な試みを奨励し、報復・放棄・罪悪感なしに失敗を許容する風土が醸成される」と定義しました。また、1982年にはアメリカのW・エドワーズ・デミング博士が「経営のための14箇条」の第8条において「恐怖心をなくせ。そうすれば誰もが会社のために効果的に働くことができる」と主張しました。懸念を率直に提起できる対人関係上安全な環境が、質の高いビジネス成果を生むために重要であるという認識です。

 そして1999年、米ハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が研究論文で「心理的安全性」を提唱しました。これが現代の「心理的安全性」の根源とされています。彼女は、心理的安全性を「このチームでは対人リスクを取っても安全であるという共有された信念」と定義しています。つまり、心理的安全性のある環境では、アイデアや質問、懸念、疑問、間違いを発言しても、恥をかかされたり罰せられたりすることはなく、メンバーは受け入れられ尊重されていると感じながら仕事に参加できます。

 組織において心理的安全性が欠けている場合、チームレベルでの学習行動が起こりにくくなり、挑戦や学習を可能にする環境が育ちにくいとエドモンドソン教授は述べています。よく言われることですが、心理的安全性とは「仲が良い」「和気あいあい」といった状態ではなく、安心して意見や違いを表明できる環境であることが重要です。

企業に与えるインパクトは?

 エドモンドソン教授の概念が広まるきっかけとなったのが、2012年にGoogleが実施した社内研究「プロジェクト・アリストテレス」(「効果的なチームとは何か」を知る)であることは概要で述べたとおりですが、この研究では、効果的なチームを生む5つの要因のうち、最も重要な要因として「心理的安全性」が挙げられ、大きく話題を呼びました。なお、この研究タイトルは「全体は部分の総和に勝る」というアリストテレスの言葉に由来しています。

 Googleは心理的安全性について、「無知・無能・ネガティブ・邪魔だと思われる可能性のある行動をとっても、このチームなら大丈夫だと信じられる状態」と定義しています。このプロジェクトでは180以上のチームを分析し、「効果的なチームを生む要因」が調査されました。その結果、チームの成果に最も強く関連する要因が心理的安全性であることが明らかになりました。重要なのは「誰がチームにいるか」ではなく、「どのように協力しているか」であると述べています。Googleいわく、チームの効果性に影響する5つの要因を重要な順に挙げると、次の通りです。

1.心理的安全性...「チームの中でミスをしても、それを理由に非難されることはない」と思えるか
2.相互信頼...「チームメンバーは、一度引き受けた仕事は最後までやりきってくれる」と思えるか
3.構造と明確さ...「チームには、有効な意思決定プロセスがある」と思えるか
4.仕事の意味...「チームのためにしている仕事は、自分自身にとっても意義がある」と思えるか
5.インパクト...「チームの成果が組織の目標達成にどう貢献するかを理解している」か

 なお、心理的安全性の有無は、次のような質問で確認できると考えられています。

・ミスをしても非難されないか
・課題や問題を遠慮なく指摘し合えるか
・異なる意見をもつ人を拒絶しないか
・リスクのある発言が安全にできるか
・助けを求めやすい環境か
・互いの仕事を尊重しているか
・スキルや才能が生かされていると感じるか

 また、心理的安全性を高めるために個人ができることとして、次の3点が挙げられています。

・仕事を「実行」ではなく「学習の機会」と捉える
・自分の間違いを認める
・好奇心を持ち、積極的に質問する

これから予測される課題は?

 心理的安全性の重要性や取り組みの方向性は広く理解されつつありますが、日本企業では、空気を読む文化や根回し中心の意思決定、「ノー」と言いづらい風土、失敗を許容しにくい環境など、構造的な課題が依然として存在しています。そのため、心理的安全性の必要性を理解していても、実際の組織運営でそれを実現していくことは、なかなか容易ではありません。

 しかし、働きやすい環境づくりや人材確保・定着、多様な働き方の実現、DX推進やイノベーション創出といった現代の経営課題は、いずれも「安心して発言し、挑戦できる環境」を前提としてこそ、発展していくものです。心理的安全性は単なる理想論ではなく、組織の成果に直結する基盤です。今後は、従来の慣習にとらわれず、組織全体として心理的安全性を高める取り組みを進めていくことが求められます。それには、Googleの研究やエドモンドソン教授の知見をよく理解し、各種セミナーや研修なども活用しながら、理解を深め、実践につなげていくことが重要でしょう。心理的安全性の研修などは、Web検索するとたくさん出てくるので、自社に合ったものを選ぶとよいでしょう。

 ハラスメント対策や多様性の尊重といった流れとも深く関わるこのテーマは、今後の企業のあり方を左右する重要な要素といえます。「心理的安全性」は現代ビジネスの重要なキーワード。正しく理解し、実践していくことが、これからの組織に求められています。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=青木 恵美

長野県松本市出身。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「自分流ブログ入門」「70歳からはじめるスマホとLINEで毎日が楽しくなる本」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経xTECHなど。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

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