部下のやる気に火をつける方法(第7回) 部下の本音を見抜くための「28秒」と「32秒」

コミュニケーション

公開日:2019.09.12

 パフォーマンス心理学の最新の知見から、部下をやる気にする方法を紹介する連載。今回は、その前提となる、言葉に出ていない部下の心を見抜く技術の第7回です。部下の態度で、さまざまな心理を読み取ることができます。部下の本音が一瞬で分かるチェックポイントもありますが、ある程度時間をかけて見て分かることもあります。今回は約30秒で分かることを2つ紹介しましょう。

言葉に出ていない部下の心を見抜く技術(10)

表情筋の動きを見落とさないための「28秒分岐点」

 数年前、不思議なことがありました。商工会議所の依頼でいくつかの会社の合同新人講演に行ったときのことです。主催者が前もって控室で言ったのです。

 「今年の新人は全く表情がない。朝一番の講師が気を悪くして帰りました。先生も覚悟して話してください」

 「あらまあ私は表情の専門家ですよ。それでは全くがっかりですねぇ」

 そう言ってから会場に入って、すぐに「これだ!」と分かりました。

 200人近い新社会人が座っているのですが、妙に無表情です。すぐにアイスブレークで何か口を開かせようと思い、「人間はすぐに感情を表情で表しますね。チンパンジーはどうだと思いますか?」と尋ねてみました。マイクを渡された前列の男性が、ちょっと迷ってから「あの……やっぱりチンパンジーもうれしいと笑うと思います」。次の男性は「激しく威嚇するのも見たことがあります」。これで「アハハ」と会場に笑い声が少し上がりました。

 皆さん控えめながら、なかなかいい笑顔です。そこですかさず、「表情筋はどこにあるか」という本題の導入に入り、自分の顔を手で触ってもらい、隣の人に笑顔を見せてチェックしてもらいました。こんなワークショップを20分間やったら、ほぼ9割の出席者の表情が動き出し、顔つきが変わりました。

 私の実験データでは、日本人同士が対話をしているとき、表情筋が動くのは1分間のうち平均28秒間です。元気のいいときであれば、28秒以上にわたり表情筋が動いています。特に頰や目の周りの筋肉は、気持ちが活発に動いているときによく動きます。

 けれど、あまり皆の話についていけないとか、相手の言っていることが分からない、元気がない、やる気がない、そんなときには表情筋が動かなくなります。

 パッと部下の顔を見て、何だかフリーズしている表情だなとか、いつもより表情筋が動いていないなと思ったら、注意をしましょう。表情筋が動かない場合は、頭の中で理解できていないか、気分的に乗っていないか、どちらかです。1人のときを見計らって、部下に声をかけましょう。

まとめ

言葉に出ていない部下の心を見抜く技術(10)

◆無表情になっていたり、表情が固まっていたりする場合は、意味が分からない、元気がない、やる気がない……などのケースが考えられます。
◆部下に「何か問題はないかな?」などと声をかけてみましょう。

 

アイコンタクトは長いほうがいいが、演技している可能性も

言葉に出ていない部下の心を見抜く技術(11)

アイコンタクト、1分間に32秒以上が元気のしるし

 オバマ前大統領、トランプ大統領、小泉進次郎氏の演説中の画像を撮影して表情分析をしていると、彼らのアイコンタクトの時間が長いことに驚かされます。もちろんアイコンタクトは方向性や目の周りにある眼輪筋の力とも関係しますから、ただ長ければ良いというものでもありません。けれど、長く見つめているほうが「元気がある」、「相手に関心を払っている」、「自分に隠し事がない」という3つの証拠であることは確かです。

 分かりやすい例を1つご紹介しましょう。安倍晋三首相です。2006年の第一次安倍内閣所信表明演説の224秒間で、アイコンタクトはたった62秒(27.7%)しかありませんでした。体調を壊して辞任したときです。そして2013年、第二次安倍内閣での所信表明演説は、アイコンタクトは99・5秒(44・5%)、さらに同年のオリンピック招致プレゼンでは、207・5秒(92・6%)でした。つまり、ほぼ全ての時間、聴衆に視線を送りっ放しだったのです。これが彼のエネルギー状態だと見れば大体当たっていたわけです。

 もし上司が何か仕事の指示をするとき、部下がしっかり目を見て聞いていたら、ほぼこの部下は自分や仕事の内容に関心を払って注意していると受け取って差し支えないでしょう。逆に、時々目を伏せてしまったり、肝心な話なのに泳ぎ目が出れば、気が散っていたり、場合によっては心身の調子が下がっている状態である可能性が高いです。

 ただ、厄介な例外もあります。

 「上司の顔をちゃんと見て聞くのが、自分が有能であることのサインだ」とはっきり演技の意識を持っている部下もいるからです。

 これは、見分け方がややこしくなります。あの仏の哲学者で皮肉屋のサルトルが、「授業中、よく聞いているという態度を取っている学生は、ほとんど授業の内容を理解していない。なぜならば彼のエネルギーは全て、よく聞いている自分を演じることに使われてしまっているから」という言葉を残していますが、その通りなのです。

 上司に「よく聞いていますよ」というサインを送りたくてアイコンタクトを強く長く保っている部下か、本当に熱意があって注意深く聞いている部下なのか。これは日ごろの部下の言動と合わせてアイコンタクトを評価することが必要です。一般的には1分間当たり32秒以上、つまり対話中の半分以上ちゃんと見つめている部下は、信用できる部下と取っていいでしょう。

まとめ

言葉に出ていない部下の心を見抜く技術(11)

◆1分間に32秒以上、上司の顔を見ている部下は、信用できそうです。
◆目を伏せたり、目線が泳いでいたりする場合は、話に注意を払っていなかったり、心身の調子が下がったりしています。

※本記事は、2017年に書籍として発刊されたものです

執筆=佐藤 綾子

パフォーマンス心理学博士。1969年信州大学教育学部卒業。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科修士課程修了。上智大学大学院博士後期課程満期修了。日本大学藝術学部教授を経て、2017年よりハリウッド大学院大学教授。国際パフォーマンス研究所代表、(一社)パフォーマンス教育協会理事長、「佐藤綾子のパフォーマンス学講座R」主宰。自己表現研究の第一人者として、首相経験者を含む54名の国会議員や累計4万人のビジネスリーダーやエグゼクティブのスピーチコンサルタントとして信頼あり。「自分を伝える自己表現」をテーマにした著書は191冊、累計321万部。

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