ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
2018年6月29日、「働き方改革関連法」が成立した。ポイントは3つ。「残業時間規制」「同一労働同一賃金」「高度プロフェッショナル制度(労働時間規制適用除外制度)」だ。法案をよく読めば、どんな制限があるのか分かる。しかし、自社はどう変わっていけばよいのか、なかなか“自分ゴト”にしにくい。
働き方改革関連法への対応は、生産性を上げて、競争力を高めるチャンスだ。3つのポイントの詳細は、本連載の過去記事を読んでほしい。今回は、自社での対応方法をイメージできるよう、ブラック企業のB社を仮想事例として紹介する。
人事担当:社長、今年は採用がものすごく苦戦しています。全然人が集まりません。
社長:なんだと。100人必ず集めろと言ったはずだ!
人事担当:それが、ネットでわが社が話題になっているようでして……。
社長:話題になったらいいじゃないか。無料で宣伝してもらっているようなもんだ。
人事担当:良い話題ならいいんですが。当社は「サービス残業がひどい」というコメントが拡散されているようなんです。採用に応募しようとしている人も、その情報を見て応募をためらっている可能性があります。
SNSなどで自社の評判があっという間に広まる時代だ。働き方改革関連法の施行を待つ現在、新たな法律への対応は必須となる。むしろ、法対応を対外的にアピールするくらいの姿勢でいれば、ブランドイメージの向上にもつながる。まずは正確な勤務時間を計る仕組みを入れて、その上で社員の残業時間を制限しよう。
働き方改革関連法の残業時間規制は次の通り。雇用主には罰則が科せられるので厳守が求められる。
(1)原則的な限度時間は、1カ月45時間、かつ、1年360時間まで(休日労働を含まず)。
(2)特別の事情がある場合であっても、1年720時間まで(休日労働を含まず)。
(3)(2)の場合、以下のすべてを満たす必要がある。
●単月で100時間未満(休日労働を含む)
●2~6カ月の平均で月80時間以内(休日労働を含む)
●月45時間を上回る回数は年6回まで
(4)会社がこれらの規制に違反した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる。
総務担当 社長、ついにわが社が訴えられてしまいました。
社長 なんだと! 誰に? ついに、ってどういうことだ?
総務担当 契約社員が団結して、正社員との待遇格差解消を求めてわが社を訴えたんです。どうすれば……。
社長:正社員と契約社員の待遇が違うのは当たり前だと思っていたのだが……。
今度施行される働き方改革関連法では、正規雇用と非正規雇用で不合理な待遇格差を設けるのが禁止される。従業員と裁判にでもなれば、費用も手間も大変なものとなる。
「同一労働同一賃金」の基本概念は次の通り。あらかじめ対応しておこう。
(1)不合理な待遇差をなくすための整備
同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに、不合理な待遇差を設けることが禁止される。どのような待遇差が不合理に当たるかについては、ガイドラインを策定して明確にする。
(2)労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
非正規雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」など、自身の待遇について説明を求めることができる。事業主は、非正規雇用労働者から求めがあった場合は、説明をしなければならない。
(3)行政による事業主への助言・指導などや裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備
都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きを行う。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」に関する説明についても、行政ADRの対象となる。
人事担当:社長、研究開発の社員を採用すると聞いたのですが、本当ですか。私にも相談してもらわないと。
社長:わが社も研究開発に力を入れていかないと生き残れないからな。総務から聞いたのだが、高度プロフェッショナル制度というのを使えば、残業代をゼロにできるらしい。
総務担当:制度の趣旨が違いますって!むしろ年収1075万円以上の特定業務の人に適用されるので、人件費はそれなりに見込む必要があります。
社長:そんなに給料を払わないといけないのか。ならやめとくか。
人事担当:いやいや、専門知識を持つ人材を集めるにはそれくらいの投資は必要です!研究開発に力を入れていると宣言すれば、将来性のある会社として採用全体に好影響があるかもしれませんし、その話、ぜひ進めさせてください!
高度プロフェッショナル制度は大企業の話と思い込まれる場合が多い。中小企業であっても、研究開発に力を入れて新規事業をつくっていかないと生き残れない。その場合、高度プロフェッショナルの採用が成否に関わるケースも出てくるだろう。プロフェッショナルを雇用したい場合、制度への対応・非対応が人材獲得に影響する可能性がある。
高度プロフェッショナル制度は2019年4月から適用される。制度の対象となるのは、「金融商品開発」「金融ディーラー」「アナリスト」「コンサルタント」「研究開発」。高度な専門的知識を必要とし、その性質上、従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる職種だ。それぞれの職種で、高度に専門的な業務を行っている場合のみに対象は限定される。また、年収の面でもガイドラインが示される。年間平均給与額の3倍を上回る水準の給与が要件。目安となるのは年収1075万円だ。
いくら働き方改革関連法が施行されても、それぞれの企業が変わらなければ意味がない。今回、仮想事例で紹介したように、経営陣を説得するケースもあれば、トップダウンなのに現場が従わない場合もあるだろう。会社の制度や社員の意識を変えるには時間がかかる。働き方改革法の施行を待たず、今から対応を検討すべきだろう。
執筆=Biz Clip編集部
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