ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
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日本は海外に比べて労働生産性が低い。経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中、20位でしかない。政府もこの点を問題視した。生産性を高め国際競争力を上げるための試みが、2019年4月から施行される働き方改革関連法に組み込まれた。「高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)」(特定高度専門業務・成果型労働制)である。
本制度は、労働基準法第41条の2に新設された。ただ、同条の規定は複雑かつ曖昧で、一読しただけでは内容の正確な把握が難しい。そこで、制度の概要と趣旨について、簡単に見ておく。
本制度を一文で述べれば、(1)高度な専門的知識等を必要とする一定の業務に従事する一定範囲の労働者について、(2)使用者が健康確保措置を講じることを要件として、(3)制度導入に係る労使委員会の決議を行政官庁(労働基準監督署)に届け出た場合に、(4)対象労働者本人の同意を得て、(5)労働基準法第4章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定の適用を除外する、というものである。
つまり、(2)から(4)の厳格な要件の下、一定の業務に従事する一定範囲の労働者について、労働時間の規制などといった労基法の規定を適用しないとするものだ。
このような制度が導入されたのは、時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするためである。ただ、この制度が適用されると、労働時間、休日、深夜の割増賃金などの労働者保護に関する規定が適用されなくなる。そのため、対象となる労働者は、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす者とし、また一定の手続きや健康確保措置を講じることを条件としている。
高プロ制度は、専門職を対象に、労働時間に関係なく成果によって賃金を決める制度だ。制度のアウトラインは決まっているものの、いまだ確定はしていない。詳細は厚生労働省の省令によって定められる。同省から素案が出されているので、それに沿って概要を見てみよう。
高プロ制度の対象となるのは、「金融商品開発」「金融ディーラー」「アナリスト」「コンサルタント」「研究開発」など、高度な専門的知識を必要とし、その性質上、従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる職種だ。ただ、これらの職種に当てはまる働き手がすべて対象となるわけではない。
例えば金融商品開発では、金融工学などの専門知識を用いて新商品の開発をしている場合は対象となる。単にデータ入力を行っている場合は除外される。研究開発でも、日々の作業スケジュールが指示される業務は対象外となる。それぞれの業種で、高度に専門的な業務を行っている場合のみに対象は限定される。また、年収の面でもガイドラインが示される。年間平均給与額の3倍を上回る水準の給与が要件。目安となるのは年収1075万円だ。
まとめると、上記の5業種に携わり、「高度に専門的な業務を行う年収1075万円以上の労働者」が対象となる。
この条件を見ると、大企業の専門職が中心になるように思える。しかし、中小企業でも、新規事業の創出にはプロフェッショナルが必須だ。特に、研究開発の分野では、高度な専門職が成否の鍵を握る。中堅中小企業のマネジメント層も、決して見逃せない制度だ。
高プロ制度を採用すれば、残業時間が長いほど給与が高くなる事態を避けられる。これまでは、短時間で成果を上げている社員より、ダラダラ残業して労働時間が長い社員のほうが収入の多いケースもあった。こういったねじれの解消にもつながるはずだ。
働き手にとっては労働時間に関係なく、成果だけが評価の対象になる。そのため、働く時間・場所をフレキシブルに設定し、多様な働き方ができる。会社側にも働く側にもメリットがある制度といっていいだろう。
一般の労働者の場合、労働時間1日8時間、週40時間以内と決められている。それを超えた場合は、時間外手当が発生する。しかし、高プロ制度は成果のみを評価の対象にする。短い労働時間でも成果を出せば減給されない代わりに、どんなに長く働いても時間外手当が発生しない。「残業代ゼロ法案」といわれるのは、このためだ。
また、高プロ制度では休日出勤手当、深夜手当も発生しない。対象者は非常に長い時間働く可能性があるため、健康状態が懸念される。そこで、高プロ制度の採用に関してはさまざまな制限が設けられた。
まず、会社に制度を導入するには、労使委員会で合意を得なければならない。また、実際に適用する際には、対象者の同意を得る必要がある。そのほか、対象者が年104日以上かつ4週4日以上の休日取得が義務付けられるのに加え、「インターバル措置(始業から24時間が経過するまでに一定の休息時間『勤務間インターバル』を確保し、かつ、1カ月の深夜業は一定回数以内とする)」「1カ月又は3カ月の健康管理時間(事業場内にいた時間+事業場外で労働した時間)の上限措置」「2週間連続の休日取得」「臨時の健康診断」の中から1つ以上を選んで実行しなければならない。
専門職の生産性向上を促すには、すでに制度が始まっている裁量労働制を導入する方法もある。
裁量労働制は、実際の労働時間とは関係なく、労使で定めた時間を「みなし労働時間」とし、それに基づいて給与を支払う仕組みだ。高プロ制度では認められない時間外手当、休日出勤手当、深夜手当が発生するが、「プロデューサー」「ディレクター」「システムコンサルタント」「ゲーム用ソフトウエア開発」「中枢部門での企画立案」など、厳格な労働時間規制にはそぐわない、幅広い業種に適用できる。
高プロ制度にせよ、裁量労働制にせよ、高い専門性を持つ社員をいかに活用するかは、企業の命運に関わる問題だ。こういった制度を使いこなせば、高度なスキルを持つ人材を呼び込める。社員にとっても生産性を上げる契機となる。会社側、労働者側の双方が納得する形で、最大限に生産性を上げるべく、適切な制度を今から検討すべきだろう。
監修=上野真裕
中野通り法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)
1995年日本大学法学部卒業、1997年同大学院法学研究科博士前期課程修了。2003年10月、弁護士登録。2007年10月、中野通り法律事務所開設。現在に至る。
執筆=Biz Clip編集部
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