実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(第31回) 報酬と動機付け編 創造力を刺激するための工夫

経営全般

公開日:2018.06.06

 実例からドラッカーのマネジメントを学ぶ連載。第28回からスタートした米菓メーカーの三州製菓の取り組み、4回目になります。パスタ生地を揚げて作るスナック菓子というヒット商品の開発に成功した三州製菓は、営業職を減らし、商品企画に注力するようになる。そして発見したのは、食品会社の社長だからといって味覚が鋭いわけではないという事実。そこで、思い切って社員にいくつかの権限を委譲することにした。

「組織は、優秀な人たちがいるから成果をあげるのではない。組織の水準や習慣や気風によって自己開発を動機付けるから、優秀な人たちをもつことになる」
(『経営者の条件』223ページ)

 社員のモチベーションを上げるのは本来、社員自身にしかできない。すなわち「内発的な動機付け」が基本となる。金銭的報酬を与え、褒めるなどする「外発的な動機付け」には限界がある。

 外発的動機付けが不要ということではない。例えば、給与が世間水準より著しく低ければ不満が生まれる。ここで給与を引き上げることには、マイナスの状態をゼロに戻す効果がある。 しかし、心の状態をゼロからプラスにする真の動機付けは内発的な要因から生まれる。それがドラッカー教授の言う「自己開発」だ。

 個人の自己開発を組織が後押しするため、何ができるのか。ポイントは「自己決定」と「有能感」だ。

 社員に自ら考え、行動させる。そこから自らを成長させたいという意欲が芽生え、自身の成長度合いを測る、自分なりの物差しができる。自己決定し、自己評価できることが有能感の源泉だ。

 三州製菓は「自由な研究」を仕組みにすることで、社員の自己開発を動機付けた。自由な研究とは、目的意識を持って何かに体系的に取り組むこと。一種の思考訓練である。結果として社員個人が成長し、さらには組織に良き習慣、良き気風が醸成された。
(ドラッカー学会理事=佐藤 等)

斉之平社長。中小企業の2代目として、青年期から経営学に深い関心を寄せた

ドラッカーに学んだ先輩企業(17) 三州製菓 (4)

 長い試行錯誤を経て、理想の経営を追える体制が整ってきた。

 2代目の斉之平伸一社長が入社した1976年、米菓メーカーの三州製菓(埼玉県春日部市)はジリ貧だった。そこで大手との消耗戦を避けるため、10年がかりで業態を転換。和菓子店向けのOEM(相手先ブランドでの生産)供給に活路を見いだし、収益力を高めた。そんな斉之平社長の戦略の背後には常にドラッカーの言葉があった。

「一人一研究」で業務改善

 特に共鳴したのが、現場に意思決定を委ねるマネジメントだった。

 「働く人は、マネジメント的な視点をもつときにのみ、…(中略)…最高の仕事を目指して自らの責任を果たすことができる。そのような視点は、参画を通じてのみ獲得できる」(『現代の経営』)。

 つまり、社員1人ひとりが経営に参画し、主体性とやりがいを持つことが組織の成果につながる。そんな認識から、95年に立ち上げたのが「一人一研究制度」だ。

 夏休みの自由研究のように、全社員が毎年、自分で好きなテーマを1つ定めて研究する。グループで取り組んでもいい。研究結果は部署ごとに発表会を開いて披露し、評価が高かった研究は全社発表会でプレゼンし、表彰する。金賞を受賞した研究と発表者の名前は、パネルに刻んで社員食堂に飾り、たたえる。

 この一人一研究からはさまざまな業務改善案が生まれた。

 例えば、99年に金賞を受賞した「せんべいの反転装置」。せんべいの製造ラインでは、最後に割れや欠けがないか、目視で両面をチェックする。その際、ベルトコンベヤー上を流れるせんべいを手作業でひっくり返していた。これを自動化する仕組みを、パート社員がチームを組んで考えた。

 具体的には、ベルトコンベヤーの途中で、せんべいを少し落下させる。その途中に、せんべいが空中で軽く引っかかるような棒を置き、着地する前に反転させた。

 最初は、パート社員が自宅から持ち込んだラップの芯を使って作った簡易な装置だった。それがほぼ100%の確率できれいにせんべいをひっくり返し、社内のエンジニアも舌を巻いた。その後改良を重ね、棒の代わりにプラスチックの板を使う形に姿を変えて活躍している。

 しかし、程なくして斉之平社長は「うちはまだまだ」と、痛感させられる会社と出合った。2001年、米国の部品加工メーカー、トライデント・プレシジョン・マニュファクチャリングを視察した。社員数百人の中小企業ながら、米国政府が経営品質の優れた企業を表彰する「マルコム・ボルドリッジ賞」を受賞していると知り、興味を持った。

2001年に斉之平社長が視察し、刺激を受けた米トライデント・プレシジョン・マニュファクチャリング

 現場を見て、社員のモチベーションの高さに驚いた。その背後にある仕組みや考え方には、学ぶべきところが数多くあった。

 例えば、社員教育に人件費総額の5%を投資する。ミスに対して減点主義はとらず、仕組みで再発を防ぐ方法を考える。社員の投票で月間優秀社員賞を決める……。

「一人一研究制度」で業務改善進む
三州製菓の「一人一研究制度」では、パート社員も含めた全社員が毎年1つ、自分で選んだテーマを研究。「全社発表会」で、金賞、銀賞、銅賞を選定する。選考を担うのは社員で、社長は口を出さない。金賞受賞者は、社員食堂に飾られたプレートに名前と研究テーマが刻まれ、全社員の目に触れる形でたたえられる。

 

パートも含めて全社員が参加する「一人一研究」の発表会(左写真)、「一人一研究」の金賞受賞者は社員食堂にかけたプレートに名前を刻まれる(右写真)

1999年に金賞を受賞した「せんべいの反転装置」は改良を加えられ、今も活躍中

日経トップリーダー 構成/尾越まり恵

執筆=佐藤 等(佐藤等公認会計士事務所)

佐藤等公認会計士事務所所長、公認会計士・税理士、ドラッカー学会理事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会としてドラッカーの「読書会」を北海道と東京で開催中。著作に『実践するドラッカー[事業編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズがある。

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