実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(第17回) イノベーション編 お客様の手段としての組織を確立

経営全般

公開日:2017.02.06

 40年以上減り続けていた路線バスの利用客数を増加に転じさせた北海道の十勝バス。その背後には、野村文吾社長がドラッカーから得た学びがあった。2015年6月に開催した「中小企業経営者のためのドラッカー入門セミナー」での講演を再録する。

ドラッカーに学んだ先輩企業(12) 十勝バス(後編)

●ドラッカーの言葉
組織が存在するのは、組織それ自体のためではない。社会的な目的を実現し、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。組織は目的ではなく手段である。
(『マネジメント』)

 前回は、燃料費高騰をきっかけに企業として営業強化に着手することにこぎ着けた経緯を紹介した。後編では、町の中心部から離れた小さな1つのバス停の近辺から始まった声かけや聞き取りをきっかけに、路線バスの利用客数を増加に転じさせたプロセスを紹介する。

「非顧客」の声を拾う

 最初の停留所の見込み客は、バス停から半径200mほどの範囲に住む約300世帯の住人でした。私たちはそのご自宅を1軒1軒回る「戸別訪問」を実施しました。

 「路線バスに乗っていますか?」

 そう尋ねると、嫌になるくらい乗っていない人ばかりです。

 ただし、訪ねたお宅の約7割が玄関の扉を開けて、話をしてくれました。驚きました。なぜ見ず知らずの人のために玄関を開けてくれるのか。歯を食いしばって地元でバスを運行し続けてきた私たちへの信頼が残っている。チャンスはあると前向きに捉えました。

 ドラッカーはこう言います。

――ほとんどあらゆる組織にとって、最も重要な情報は、顧客ではなく非顧客(ノンカスタマー)についてのものである。(『ネクスト・ソサエティ』)

 「非顧客」とは誰か。「顧客であっておかしくないにもかかわらず顧客になっていない人たち」です。我々にとって、まさにバスに乗らない地域住民のこと。彼らの声の中に、必ずヒントがあるはずです。

 私は、バスを利用していないという地元の人たちに尋ねました。

 「どうしてバスに乗っていただけないのですか?」

 大半の人が「行きたい方向への路線がない」などと答えます。

 「年1回でもいいんですよ。年1回なら、行きたい方向へ向かうバスがあるんじゃないですか」。そう食らいつく私に、「うーん」と考え込んだある人が答えたのです。「よく考えたら、バスがどこに向かっているかを知らないんだ。前と後ろ、どちらから乗ればいいかも知らないし、料金も分からない。だから、ちょっと怖いんだよな」

 私は目が回るほど驚きました。そんな根本的なことすら知らなかったのか。あるいはしばらく乗らない間に忘れてしまったのか……。

 要するに、お客様がバスに乗らないのは「不便」だからではない。「不安」だからでした。

 この発見が突破口になりました。

 とにかく、お客様の不安を解消しよう。そこでバスの乗り方を説明するパンフレットを作成して地元で配りました。また、ケーブルテレビでバスの乗り方を説明するCMも流しました。

お客様の「手段」に徹する

 戸別訪問を重ねると、こんな要望も聞こえてきました。「病院に行くのにバスを使いたい」「スーパーにバスで行きたい」……。私たちは最初、不思議でなりませんでした。なぜなら、バス路線は既に、主な病院やスーパーは必ず通るように設計されているからです。しかし、どの停留所の近くにどんな施設があるかが、地域住民の目には分かりにくかったのです。そこで、どの路線を使えば、どんな施設に行けるかを解説する「目的別時刻表」を作成しました。

 09年、最初の一路線の戸別訪問が終わりました。すると、この路線の利用者は約2割増えていました。この活動を翌年、翌々年と続け、路線を広げていくことで、11年、実に約40年ぶりに全体の利用客数が増加に転じたのです。

 この取り組みを通じて、私は気付きました。バス会社を経営していると、ともするとバスを運行することが「目的」になってしまいます。しかし、お客様にとって、バスは「手段」に過ぎません。自分たちの都合や常識を脇に置き、お客様にとっての「良き手段」に徹することが、極めて重要です。

 ドラッカーも、こう言います。

――組織が存在するのは、組織それ自体のためではない。社会的な目的を実現し、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。組織は目的ではなく手段である。(『マネジメント』)

 ドラッカーは経営者に多くのことを教えてくれます。しかし、その言葉に私が納得したのは、自らの実践を通じてです。知識は行動に移して初めて成果になります。

 私たちの取り組みは地道なものでした。奇抜なアイデアがなくても、大きな投資をしなくても、イノベーションは起こせます。自社に既にある経営資源を丁寧に見直し、配分や組み合わせを工夫するだけで、大きな変化が生まれます。

 中小企業経営者が知恵を振り絞り、全国各地でイノベーションを起こせば、日本全体が元気になります。そう信じて私は今、全国の地方路線バスを活性化するという新しい挑戦を始めています。

【ドラッカー実践のポイント】
(1) 小さく行動を開始する
(2) 非顧客(ノンカスタマー)に「なぜ顧客でないのか?」を尋ねる
(3) 自社の存在は、顧客にとって手段であり、目的でないと自覚する
(4) 知識は行動して初めて成果になることを忘れない
(5) 既にある経営資源の組み合わせでイノベーションを起こす

日経トップリーダー 構成/尾越まり恵

執筆=佐藤 等(佐藤等公認会計士事務所)

佐藤等公認会計士事務所所長、公認会計士・税理士、ドラッカー学会理事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会としてドラッカーの「読書会」を北海道と東京で開催中。著作に『実践するドラッカー[事業編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズがある。

【T】

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