実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(第10回) 何で憶えられたいか編 “名ばかり専務”が脱皮

経営全般

公開日:2016.07.04

 経営者はその生涯を通じて自らへの問いかけを続けるものだ。対してドラッカーが自らに問いかけたのは「何によって憶えられたいか」だった。未来を見据え、食品卸から食品メーカーへの業態転換を成し遂げた「真田」の真田千奈美専務は、この言葉にけん引され、さまざまな経営改革を打ち出した。今回はその解の一例を紹介する。

ドラッカーに学んだ先輩企業(7)真田(後編)

●ドラッカーの言葉
「私が13歳のとき、宗教の先生が『何によって憶えられたいかね』と聞いた。誰も答えられなかった。すると、『答えられると思って聞いたわけではない。でも50になっても答えられなければ、人生を無駄に過ごしたことになるよ』といった」

(『非営利組織の経営』)

〈解説〉ドラッカーが生涯、自らに問い続けたのが「何によって憶えられたいか」。昨日と異なる自分であり続けるためだ。誰にどんな存在として憶えられたいかを問うことは、未来に思いを馳せること。未来の人々が、今の自分の貢献に感謝し、記憶に残す。そんな未来を生み出そうと考えれば、おのずと後世のために今、自分がなすべきことは何かを問うことになる。姿勢が変わり、行動が変わる。覚悟が決まる。

 初めは主婦業の延長のようだった。食品メーカー、真田(京都府宇治市)の真田千奈美専務は33年前に、当時取締役だった真田佳武(よしたけ)社長と結婚。経理や総務を手伝うようになった。「家計簿を付けている感覚だった」という。

 真田は1904年、煮干し問屋、山城屋として創業。戦後、スーパー向けの食品卸などに業容を広げ、株式会社に改組した。そのけん引役だった中興の祖が、病弱だった初代社長の妻で前会長の悦子氏だ。

 だが、悦子氏の息子の佳武社長は食品卸の将来性に疑問を抱き、千奈美専務との結婚と相前後して、干物に特化したメーカーへの業態転換を断行する。30億円ほどあった売り上げをいったん約5億円まで落としたものの、高付加価値路線が当たり、2005年12月期には売上高36億円まで成長させた。

 その間、千奈美専務は肩書こそ役員だったが子育てにも追われ、経営陣としての意識は薄かった。

自分の生きる意味を問う

 そんな千奈美専務に転機が訪れたのは08年。立命館大学のMBA(経営学修士)コースに入学し、ドラッカー研究の第一人者、上田惇生氏の講義を受けたことだ。最初の授業で投げかけられたドラッカーの問いが人生を変えた。

 「何によって憶えられたいか」

 自分の生きる意味を改めて考えた。嫁ぎ先の真田は、山城屋として創業して104年になる。その歴史は、多くの先人たちに支えられてきた。その1人に自分も名を連ねたい。

 「自分の役割は、100年企業の山城屋を1000年永続する企業に育てること。その礎をつくった者として後世に憶えられたい」

 折しも06年から真田は2期連続の減収に陥っていた。

 「事業構造を見直すべき過渡期」。そう考えた千奈美専務は、当時大阪府にあった本社工場を、京都府へ移転することを夫に進言した。強みである品質をアピールするのに「京都」という地名が持つブランド力が役立つと考えたのだ。これに夫も賛同し、すぐ実行に移した。

 とはいえ、ほかに京都ブランドを確立する具体策を打ち出せず、もどかしさが募っていた。

 しかし、ドラッカーに背中を押され、千奈美専務は変わった。矢継ぎ早に経営改革のアイデアを出し、断行していった。

 「京都ブランド」という視点で商品ラインアップを見直すと、低価格帯のものが増えていることが気になった。そこで当時、約300アイテムあった商品を一気に200アイテムまで減らした。

 さらに、社内横断的なプロジェクトチームによる商品企画や業務改善活動を強化。加えて総合職社員は全員、2年ごとに配置転換すると決めた。同じ部署に長くいると従来のやり方に固執し、働き方の改革が進まないと考えたからだ。

カリスマ前会長に告げ口

 社員は猛反発した。「専務が訳の分からないことを始めた」と、カリスマの前会長、悦子氏に直訴することもしばしば。たびたび悦子氏に呼び出されたが諦めなかった。

 数年続けると成果が上がり始めた。商品アイテム数を減らした代わりに、国産素材にこだわった商品を拡充したところ次々ヒット。業務改善活動からは、社員発案のIT(情報技術)導入といった成功事例が生まれ、自信を付けた社員たちが主体的に仕事に取り組むようになった。一連の改革の効果で13年から2期連続で増収増益だ。

 「自分自身の『ありたい姿』をはっきりと見定めたときから、名実ともに経営陣の一員になれた」と、千奈美専務は振り返る。

 14年からは、直営店などを手掛ける関連会社、京山城屋(京都市)の社長を務める。「次の大仕事は事業承継。1000年企業の礎の役割を全うする」覚悟だ。

日経トップリーダー 構成/尾越まり恵

【あなたへの問い】
■今のあなたは「何をする人」として、初対面の人に紹介されますか?
■10年後には、どう紹介されると思いますか?

〈解説〉自分を取り巻く環境が変わり、役割が変わる。長い人生の中で誰もが経験することです。新しい環境に身を置いたときに最初に考えるべきことは、そこで発揮できる自分の強みではない。そこで自分に期待されることは何かであると、ドラッカーは言います。期待される役割を積極的に引き受ければ、環境の変化は、見違えるような成長を人にもたらします。(佐藤 等)

次号:実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(第11回)
顧客の現実を知る編 技術に自信ありの罠を脱する」2016年8月1日公開

執筆=佐藤 等(佐藤等公認会計士事務所)

佐藤等公認会計士事務所所長、公認会計士・税理士、ドラッカー学会理事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会としてドラッカーの「読書会」を北海道と東京で開催中。著作に『実践するドラッカー[事業編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズがある。

【T】

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