ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
福岡県直方市の小林英樹税理士事務所は、現所長である小林英樹氏の祖父が1954年に開業した歴史ある事務所だ。法人約50件、個人約100件の顧客を擁して、確定申告を中心に業務を行っている。ICTにも明るい小林氏は、事務所業務のAI(人工知能)やICTの活用だけでなく、顧客への導入サポートも手掛けるデジタル時代の税理士でもある。
この事例のポイント3つ
・税理士事務所の事務職員の人手不足をITでカバー
・罫線入りの伝票も読める高精度なAI OCR
・適材適所のツール活用で業務効率化を実現
「昔は事務員を多く抱えて人海戦術で業務を進めていた税理士業界ですが、最近は事務員のなり手も少なく、コストの面でも人手に頼った運営がしにくくなりました。人材不足の一部を、IT化して解決していこうという取り組みを進めています」
こう語るのは、福岡県直方市で小林英樹税理士事務所を開業している小林英樹氏。祖父の代からの税理士事務所を20年ほど前に受け継ぎ、地方都市の平均的な税理士事務所の規模感で業務をしているという。従来は所長以下5人の体制で運営していたが、事務員の退職などにより、2020年からは小林氏夫妻で業務を切り盛りすることになった。
税理士事務所は、法人や個人事業主から依頼された確定申告が業務の中心だ。振替伝票や領収書など、顧客から預かった紙の伝票類に記載された事項を、データ化する作業が膨大になる。従来は慣れた事務員が手作業でパソコンに入力してデータ化していたが、業界全体で事務員の人手不足は深刻で、小林氏の事務所でも人海戦術は難しくなっていた。
「数年前、事務員が確定申告の時期に突然辞めるという悪夢のような事態に陥った年がありました。そこで、知り合いに紹介してもらった税理士事務所向けの財務・税務サービスを利用して、なんとか窮状を乗り切りました」(小林氏)
これが2019年のこと。利用したのは税務に特化したサービスで、伝票類をスキャンして送ると、金額から費目の仕分けなども含めて人手でデータ化してくれる。
IT活用は必須だと言う小林税理士の仕事風景
一方で課題もあった。利用していたのは、19時までに伝票をスキャンして渡すと、24時間以内にデータ化される。「日常的な業務ならこの所要時間で問題ないのですが、確定申告の繁忙期には時間との戦いで、タイムラグが課題でした。例えば金曜日の19時過ぎにスキャンして渡すと、データが出来上がるのは月曜日の19時過ぎになる場合があり、このタイムラグをなんとかしたかったのです」と小林氏は語る。
そこで、小林氏は行動に出た。なるべくリアルタイムで処理できる製品やサービスの導入を検討し、会計ソフトベンダーの製品とOCR(光学的文字認識)ソフトを合計で10件近く試した。そうした中で、NTT西日本の『おまかせAI OCR』の無料体験を知り、試すことにした。
小林氏は、おまかせAI OCRを試したときの印象をこう語る。「読み取る性能は抜群でした。人が読めないくらい崩れた文字でなければ、まず間違えない。さすがに達筆の人の文字は読めませんが(笑)。それは私が見ても分からない文字なので、おまかせAI OCRによる問題ではないと感じます。とにかく間違わない文字認識に感動しました」
税理士事務所で使われるツールとするならば、おまかせAI OCRにはもう1つ特筆すべき点があった。それは伝票につきものの罫線である。OCRソフトを試していく中で困ったのが、罫線入りの伝票ではうまく文字の読み取りができなかったところだ。おまかせAI OCRを試したところ、罫線があってもバッチリ読み取れるのでこれにも驚いた。
伝票を読ませるまでの使い勝手への評価も高い。「伝票をスキャンして、画面に表示させた伝票の上から読み取り用の枠を指定するやり方は、とても使いやすくすぐに作業できました。最終的にはExcelなどで読めるCSV形式のファイルに出力するのですが、そのときの手順などは少し細かい設定が必要です。でも、NTT西日本のサポート窓口に電話をして相談すれば詳細なやり方を教えてもらえますから、パソコン操作は敷居が高いと思う人でもクリアできると思います」と小林氏は語る。
小林氏自身はパソコン操作も手慣れているが、税理士の中にはITスキルが高くない人もいるという。そうした人たちでも、サポート窓口に相談しながら使いこなせるだろうとの評価だ。
一方で、実際の税理士の業務で使うには完璧とはいえない部分も見えてきた。小林氏は、「手書き伝票では、上の行と同じ内容の場合に『〃』と記号で記載されることが多く、これは『11』などと認識されます。そこで、お客さまに協力を依頼して、書き方を変えるよう伝えているのですが、長年の習慣を変えてもらうのはなかなか難しいようです。こうした手直しは、エントリー画面でいちいち訂正するのではなく、CSVファイルに出力してExcelに読み込ませてからソートをかけ、まとめて修正して時間を短縮する工夫をしています」と語る。
小林氏は、おまかせAI OCRを定形の伝票の読み取りに活用する。「毎月の顧問契約をしている法人顧客からは、きれいに整形された伝票が届くので、これをスキャンしてデータ化するにはおまかせAI OCRが役に立っています。定形のものを読ませる場合には、読み取り精度の高さの効果により、今までデータ化に費やしていた時間を他の業務に回せるようになりました」
加えて、現状のおまかせAI OCRでは効率化できない業務も見えてきた。領収書などフォーマットが異なるものは、読み取り枠をあらかじめ設定して文字を認識する方法では対応が難しい。おまかせAI OCRとは別の手段を使って、読み取りの自動化、省力化も検討しているところだ。
また、伝票には空白の欄も少なくない。読み取り枠1つにつき「1カウント」とされ、「空白のデータを読む」のも料金に含まれる点も気になるという。コストにシビアな税理士事務所の中には、こうした空白の読み取りにコストがかかるのを嫌うところもあると小林氏は指摘する。
試行錯誤をしながら、おまかせAI OCRを業務に活用しようとしている小林氏は、「おまかせAI OCRの読み取り性能を持ちつつ、税理士の業務にきめ細かく対応してくれる税務システムと同様の機能があるとありがたいです。NTT西日本が税理士向けにおまかせAI OCRを含んだシステムを提供してくれるのが理想的ですね」と言う。
とはいえ、そうした業種特化型のシステム提供が難しいのは承知している。次に模索しているのは、RPA(ロボティクスプロセスオートメーション)との連携だ。おまかせAI OCRの出力データを、税務システムに適切に投入できるように変換する業務をRPAに任せられれば、おまかせAI OCRの活用範囲が広がるとの考えだ。
人手不足に悩む税理士事務所で業務を効率化させるために始めた小林氏の取り組みは、業務にマッチしたIT活用の形を模索しながらさらに進展していきそうだ。
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです
執筆=岩元 直久
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