一足お先に!IT活用でパワーアップ(第29回) “RPA素人”が返品業務を自動化。600時間浮かす

自動化・AI 働き方改革

公開日:2019.07.31

 刺すだけで野菜が長持ちする「ベジシャキちゃん」をはじめとするアイデア商品、雑貨、美容・健康商品の開発から販売までを手掛けるコジット(大阪市)は、経理業務の一部をRPAにより自動化した。運用開始から1年ほど経過した現在、年間で600時間の定型業務時間の削減に成功した。

ベジシャキちゃん

 

<株式会社コジット>

1000種類もの生活雑貨用品、アイデア商品、美容・健康商品の無店舗販売による製造卸。1970年の創業以来、単なる商品販売にとどまらない、顧客への夢や楽しさの提供をコンセプトに事業を展開している。「毛づまりごっそりパイプ職人スリム」「間に干せる!はしごポールDX」「中身が見える大小仕分けポリピュット」などユニークな商品ラインアップをそろえる。

 定型業務を自動化する「RPA」の話が、NTTマーケティングアクトからコジットに持ち込まれたのは2017年秋。導入に至る半年ほど前のことだ。導入推進の中心人物となる経理部門の藤林正典氏は、その当時、RPAという言葉すら聞いたことがなかった。

 同社にシステム部門はあるが、藤林氏はそこに在籍した経験があるわけでもなく、もちろんシステムエンジニアでもない。“普通”の経理部門の藤林氏が、いかにしてRPAを導入し、実際に効果を出すまでになったのだろうか。

経理部門は定型業務、入力作業の負荷が重い

管理部経理 チーフ 藤林正典氏

 経理部門で日々行われる単純な定型作業は、1つひとつの作業は小さくても累積すると相当な負荷になる。この業務をなんとかできないものかと、藤林氏は普段から問題意識を持っていた。

 中でも頭を悩ませていたのが返品業務だ。コジットは無店舗販売のため、客から直接、商品が返品され、その処理業務がどうしても発生する。返品されると、返品伝票が経理に送られてくる。それを手で基幹システムに入力する。

 返品は“マイナスの売り上げ”に相当し、さらに在庫管理にも影響していく。だから、他の業務よりも優先せざるを得ない。経理部門の人員7人のうち、売掛業務担当4人が持ち回りでこの業務を担当していた。返品処理業務は毎日発生し、それに要する時間は多いときで月に約80時間にも及ぶ。年間では約600時間に達した。

 藤林氏の気持ちはすぐに固まった。返品処理業務を自動化できれば、この単純作業の負荷は軽減できる。RPA導入費用は1ID(パソコン1台1年間)100万円弱。現状、費やしている600時間は、時給1500円としても90万円分。ほぼトントンになる計算だ。藤林氏は迷うことなく社長にRPA導入の稟議(りんぎ)を上げた。

社長が一言「これは投資だ」

 社長の決断も速かった。すぐに決裁が下りた。藤林氏の耳に今でも残っているのが、そのときの社長の「これは投資だ」という言葉。導入費用は現状の出費で賄え、イーブンになるだけではない。RPA導入によって浮いた時間を何かに生かすことができれば、プラスの効果が出てくる。社長が導入にかかる費用を「投資」と表現したのはこのためだ。

 経営トップの理解を得るまでスムーズだったが、稼働に至るまでの苦労は少なからずあった。その1つがシナリオ作りだ。RPAは、アプリケーションをまたいでパソコン作業を自動化する。イメージとしてはExcelのマクロが近い。違いは自動化する際に「マウスがどのように動いてクリックする」という位置情報の記録ができるところと、「こういう形のものが表れたときにそこを押す」といった画像認識が可能なところだ。「こうなったらこうする」「こういうときはこうする」という分岐やループなどの工程シナリオを記述して初めて、RPAは自動で仕事をしてくれるようになる。

 実は、シナリオは試用期間でほぼ出来上がっていたつもりだった。しかし実際に動かしてみると理屈は合っているはずなのに、途中で止まってしまう。NTTマーケティングアクトの営業担当者に相談すると、修正のコツを教えてくれた。「“待機”というフローを入れるといいですよ」。

 RPAの処理が速過ぎるので、所々、あえて作業を止める工程を挟むと、RPAはまた円滑に動き出した。藤林氏は、経理の本来業務を終えてからの時間をシナリオ作りに充てた。正式に導入が決定したのは18年3月で、それからこうした準備作業に延べ3カ月を要した。「業務が楽になる、その一心だった」と、そのモチベーションについて藤林氏は振り返る。その姿に、やらされ感はみじんもない。コツが分かった今は、「シナリオに費やす時間を3分の1程度にするのはたやすい」と言えるまでになった。

うまくいったのは担当者がシナリオを作ったところ

管理部システムデータ管理 リーダー 横内大輔氏

 RPA導入に伴い、業務フローを一部変更した。自動化するには倉庫から来る伝票を、基幹システムに入力しやすいよう、あらかじめExcelで「こういう形」とフォーマット化した。この取り組みは、システム部門の横内大輔氏が担当した。だが「それ以外、ほとんど我々は手を貸していない」と強調する。

 横内氏は「この試みがうまくいったのは、我々システム部門が主導せず、現場の作業担当者自身がシナリオを作ったところだ」と言う。業務を分かっている現場が、自動化に取り組めれば一番効率的だ。業務を誰よりも理解しているからだ。

 また、一般的に新しいシステムを導入したり、IT機器を入れたりすると、非協力的な層が少なからず出てくる。今まで自分たちがやっていた仕事を奪われると恐れたり、新しい変化への抵抗感を持ったりするのが原因だ。こういった状況は、構築側と使う側とが別の部署の場合に起こりやすい。

 使う側(現場)が構築に携われば、おのずと“自分のこと”として取り組む。今回、経理の藤林氏は自分たちの効率化のために自ら動き、それが実現したので喜びもひとしおだ。部署内でも「楽になった」との声が多い。特に忙しい時期にありがたみが感じられ、「一度使うともう元には戻れない」という声が上がるほどだ。他の部門からも「ええなあ」「うちの部署で使えるとこ、ないんか?」などと言われるという。

 自分たちの力で業務効率化に取り組めたのは、導入したRPAが専門家でなくてもできる難易度だったのも大きい。同社が導入したRPAは「WinActor」(NTTグループ)。サーバー型ではなくクライアント型で、パソコン1台から導入できる。導入費用が安いのも特徴だ。

 「初めての試みで効果がどれくらい出るかが分からない時点で、多額のコストはかけにくい。RPA以外にも業務をアウトソーシングする選択肢もあった。ただ、アウトソーシングは、システム導入より組織に与えるインパクトが大きい。RPAはコストが比較的安く、“やわらかく”スタートしていける」(横内氏)

 今後は、予定されている基幹システムの入れ替えが済み次第、RPAを経理部門だけでなく、全社に展開していく方針だ。その際にも、システム部門や藤林氏がシナリオを作るのではなく、それぞれの現場でやる形を想定する。他部門で“RPA使い”を藤林氏が中心となって育成するイメージだ。誰もがシナリオを作るわけではない。だが、「やってみると意外にできるものだ。今も何人かがシナリオを作っている」という。すでに波及効果が出始めたようだ。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=Biz Clip編集部

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