ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
日本を訪れる海外からの観光客が急増している。2020年の東京五輪に向けてこの勢いはますます加速するだろう。海外からの観光客がよく探すのが、無料で使えるWi-Fiスポットだ。手軽にインターネットに接続して情報収集ができる場所は、海外からの観光客を引き寄せ、彼らの満足度向上につながる。太宰府天満宮の参道に店舗を構え、お食事所、茶房などを営む「かさの家」ではWi-Fi環境を整備して、こうしたニーズに応えている。
<かさの家>
福岡県筑紫郡大宰府町(現太宰府市)で、1922年に旅籠(はたご)として開業。1944年に「笠の家」を開店。1977年に笠の家から「かさの家」に。大宰府名物「梅ヶ枝餅」を提供するお店として人気を博し、現在では太宰府天満宮の参道に、お食事所、茶房、ギャラリー、雑貨屋など4つの店舗を運営するまでに事業を拡大している。
毎年多くの観光客が訪れる福岡県太宰府市の太宰府天満宮。菅原道真を祭り、学問の神様として有名だ。韓国や中国からの観光客も多い。旧正月を祝う春節祭の頃には、大変な人出でにぎわう。参道で1、2を争う人気店かさの家にも多くの観光客が立ち寄る。
かさの家の栗山由佳取締役
株式会社かさの家の取締役である栗山由佳氏は、「お客さま向けWi-Fi環境を整備する必要性は以前から感じていました。地域柄、繁忙期には多くのお客さまが来店されるため、お食事の提供やお会計などの場面で長時間お待たせしてしまうこともあります。そんなときにインターネットを見て情報収集などをしていただければ、待ち時間を少しでも有効活用いただけるのではと考えました。こうした待ち時間対策に加え、海外から観光で来られたお客さまについても、旅先でインターネットに接続できれば非常に便利だと思い、Wi-Fi環境の整備も重要と考えていました」と話す。
かさの家の店頭では、大宰府名物「梅ヶ枝餅」を製造するところを見られて、待つ時間も楽しめる。それに加えて、無料のWi-Fi環境が整っていれば、スマホで情報を収集したり、ゲームなどを楽しんだりできるため、顧客満足度の向上につながる。こうした狙いでかさの家では、2017年10月、NTT西日本が提供する「スマート光ビジネスWi-Fi【ハイエンドプラン】(※1)」を導入し、無料Wi-Fiサービスの提供を開始した。
これまでかさの家では、店舗に光回線「Bフレッツ」を導入し、インターネットを使っていた。インターネット通販を手がけているので、ネットで注文のやり取りを行っていたが、他の用途で使うことはなかった。
無料Wi-Fi導入のきっかけとなったのは、Bフレッツから「フレッツ 光ネクスト」へのサービス移行だった。2017年7月に、NTT西日本の担当者から移行手続きの説明を聞いた栗山氏は「色々な商品を説明してくださり、料金プランも教えてもらったので、導入したいと考えていたWi-Fiも含めてネットワーク環境を刷新しようと思いました」と語る。さらに、ネットワーク関連のセールスがあっても、どうすべきか判断に迷い悩むことが多かったので、この機会にICT環境を整備したいという思いが働いた。
「Japan Connected-Free Wi-Fi」アプリの地図画面上でかさの家の位置にWi-Fiスポットである印が表示される
現場調査を経てNTT西日本が提案したのは、当時発売されたばかりのスマート光ビジネスWi-Fi【ハイエンドプラン】だった。初期投資は必要なく(※1)、アクセスポイントが月額レンタルで利用でき(※2)、電源コードとLANケーブルを挿し込むだけですぐに使える。1台の無線AP(アクセスポイント)で最大120台(※3)まで無線端末が接続できて、通信速度も安定している。
特に栗山氏の関心を引いたのはフリーWi-Fiアプリ「Japan Connected-free Wi-Fi」との連携機能だった。NTTBPが提供するこのアプリは英語をはじめ16言語に対応し、利用登録を一度行えば各地のフリーWi-Fiに接続できるため、海外観光客の利用者も多い。まさにかさの家にとって最適なサービスだった。また、同サービスの「指定Webサイト表示機能」を用いて、店舗の来訪者が接続する際に、店舗のホームページを表示するように設定できた(※4)。こうした顧客向け機能が充実している点が、導入の決め手となった。
現在、かさの家には2台の無線APが導入されている。飲食ブース用に1台、雑貨販売ブース用に1台だ。栗山氏は「無料Wi-Fiの看板を見て、若い人たちは『Wi-Fiが使えるんだ、うれしい』と言ってくれます。梅ヶ枝餅を買うために並ぶ人たちは、待ち時間にスマホを触っていることが多いですね」と話す。
Wi-Fiの案内POPを設置してアピール
待っている人たちは、かさの家のホームページを見て、商品や飲食のメニューをチェックするケースもある。海外からの来訪者は電子マネーで決済する人も多く、Wi-Fi環境の整備に合わせて、電子マネーの決済もできる旨を伝える貼り紙も掲出した。
現在、Japan Connected-free Wi-Fiアプリの地図画面では、かさの家が無料Wi-Fiスポットであることが確認できるようになっている。実際にその地図を見てきた人がどれくらいか、アンケートなどを取っていないので、正確な数字は分からない。ただ、「アプリをご利用の方が来店するきっかけになっているのではないかと思います」と栗山氏は推測する。
顧客に使ってもらうだけではなく、従業員の業務改善にもWi-Fi環境の整備は役立っている。「これまでは2階にしかネットワーク環境がありませんでした。1階で商品の数などを管理して、2階のパソコンで色々な発注をしていましたから、メモを持って階段を上り下りする必要がありました。Wi-Fi環境が整ったことで、2階でしか行えなかった発注業務を、今は1階店舗のタブレットからも行えるようになり、スタッフの負担が軽減しました」(栗山氏)
同プランは家庭用のWi-Fi機器と違って、1台の無線APで最大120台まで同時に接続できる。来訪者に開放してもまだまだ余力がある。来訪者用のWi-Fiと社内用のWi-Fiはきちんと分けて運用することでセキュリティに配慮しながら、業務効率も高めている。
今回、かさの家がネット環境の刷新に踏み切ることができた理由として挙げるのが、導入前サポートだ。電話で説明されてもなかなか理解できなくても、NTT西日本の営業担当者が来訪して説明してくれたので、栗山氏は安心して任せられたという。サービス導入後も、ネットワーク関連で分からないときには気軽に聞いた。「どうやってビジネスフォンにつなげるのか」「社内用のWi-FiにSSIDを設定するにはどうしたらよいか」など、相談してきた。
今後は、外部からのサイバー攻撃に対応した機器の選定など、セキュリティ面の強化をしたいと栗山氏は考えている。
現在、ネット環境は整備されたが、お客さまへのPRはまだ始まったばかりだ。周辺には無料Wi-Fiの導入に着手していない店舗が多い。早めにPRしていけば、より成果も期待できる。今後さらに、集客や顧客満足度の向上に役立てていきたいという。
※1 スマート光ビジネスWi-Fiの利用には、「フレッツ 光ネクスト」または「フレッツ 光ライト」もしくはコラボ光、およびプロバイダーの契約・料金が必要
※2 月額レンタル型の他に、機器買い上げ型もあり、料金プランが選べる
※3 技術規格仕様上の最大同時接続数。推奨されている同時接続台数は無線AP1台当たり50台
※4 一部の端末では正常に表示できない場合がある
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです
執筆=高橋 秀典
【M】
一足お先に!IT活用でパワーアップ