ビジネスに生かす中国古典の言葉(第8回) 「無理せずコツコツ」が成功をもたらす

歴史・名言

公開日:2016.01.08

君子くんしいわく、がくもつむべからず。青は、これあいよりりて、藍より青く、氷は、水之をして、水よりさむし」(『荀子』)

 東京大学宇宙線研究所長の梶田隆章さんが物理学賞、北里大学特別栄誉教授の大村智さんが生理学・医学賞と、2015年は新たに2人の日本人がノーベル賞を受賞しました。ここ数年、科学分野でのノーベル賞受賞者が相次ぎ、日本の底力が世界に示された格好です。

 ノーベル賞の受賞は研究者にとっては最高の栄誉ですが、どんな分野でも教えを請うた側の人物が、師を超えた優れた能力を発揮したり、すばらしい業績を上げたりしたとき、これを評して「出藍の誉れ」という言葉がよく使われます。簡単に言うと、弟子が師匠を超えるという意味ですが、今回はこの「出藍の誉れ」という言葉のもとになった中国古典『荀子(じゅんし)』の名言をご紹介します。

 荀子は中国の戦国時代後半の思想家で、人はそのままでいると悪の方向へ向かうという「性悪説」を唱えたことで知られています。その言説をまとめたのが『荀子』です。

君子くんしいわく、がくもつむべからず。青は、これあいよりりて、藍より青く、氷は、水之をして、水よりさむし」(『荀子』)

(訳)君子がこう言った。学問は途中でやめてはならない。青の染料は藍の草からつくり出されるが、その色は藍の草よりもさらに青い。氷は水からつくられるが、その水よりも冷たい。

 現在、私たちは、藍=師匠や先生、青=師匠や先生をしのぐ弟子・生徒と解釈して、「出藍の誉れ」という言葉を、師匠や先生のもとで指導を受けていた弟子や生徒が師匠や先生を超える存在になったとき、それを誉め讃える場合に使っています。ところが、この言葉のもとになった『荀子』の一節から考えると意味が違ってきます。

本当に言いたいことは「継続することの重要性」

 文章の冒頭に、「君子(くんし)曰(いわ)く、学(がく)は以(もつ)て已(や)むべからず」(君子がこう言った。学問は途中でやめてはならない)とあります。つまり、『荀子』が言いたいのは、「学問を継続して高い人格を涵養せねばならない」ということ、つまり継続による蓄積の重要性なのです。

 こう考えると分かりやすいかもしれません。藍という草から取る汁が少なければ、着物を染めるほどの青い染料はできません。藍の汁を取り続けることによって、見事な青色が誕生することになる。つまり、積み重ねることが大事であると言うのが『荀子』に記された本来の意味なのです。もちろん、現在の「出藍の誉れ」の使い方も誤りというわけではありません。時代の変遷の中で言葉の一部がクローズアップされた、というわけです。

 ビジネスの分野でも継続は非常に重要です。ただ、この継続というのが現実には難しく、ポイントとなるのは、「コツコツ」「少しずつ」という姿勢です。その参考となる企業をご紹介しましょう。

 長野県伊那市に本社を置く伊那食品工業という寒天メーカーがあります。会長の塚越寛さんは親会社から経営を任されて以来、原料の安定供給先の確保や職場環境の改善や新製品の開発など経営改革に取り組み、経営不振に陥っていた同社を40年数年連続で増収増益を達成する優良企業に育て上げました。伊那食品工業は従業員本位の経営でも知られ、ベストセラーとなった『日本一大切にしたい会社』でも紹介されています。

 塚越さんの持論は、樹木の年輪のように1年1年、着実に成長することを目指す「年輪経営」です。企業経営でも無理をすれば、必ずひずみが出ます。売り上げを大きく拡大し急成長しても、経営環境の変化で過剰設備を抱え赤字に陥ったり、従業員に過重労働を強いることになったり、場合によっては会社が倒産したりする危険性もあります。ならば、少しずつ少しずつ着実に成長するほうがいいと塚越さんは考えたのです。

 最近、ビジネスでは急成長を求める風潮が強くなっています。新規事業に進出し、ある程度軌道に乗っても、急成長できないと思えばさっと手を引いてしまうケースさえあります。塚越さんの考えはその逆ですが、これが伊那食品工業の成長を後押しし、従業員を大切にする経営を実現させています。

 藍の草から汁を少しずつ少しずつ取り素晴らしい青を生み出すように、樹木が1年1年年輪を積み重ねて大木に育つように、無理をせず着実に取り組んで大きな成果につなげる姿勢は、多くのビジネスパーソンが学ぶべきだと思います。ちなみに、この塚越さんの「年輪経営」は、日本を代表する大企業であるトヨタ自動車社長の豊田章男さんも参考にしているそうです。

【T】

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