ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
連載第5回で、PRの際にまず広めるべきは「実績」であると解説しました。今回は、それをより効果的に伝える方法を紹介します。そのために作っていただきたいのが「PRの基本設計」です。そして、それを作成する際に心に刻んでいただきたいのが、「顧客は変化を求めている」ということです。
まず、実績をPRすべきとご説明すると……、「そうはいっても、うちの会社の製品にはそんな華々しい実績なんてないし……。そもそも浅田真央さんにも錦織圭さんにも使ってもらっていないのだから、載せようがないですよ」などと、戸惑う方がいらっしゃいます。
そのような方に声を大にして言いたいのは……、実績とは作るものであるということです。最初はどんなに小さくてもいいのです。どんな商品でも何か実績があるはずです。
これまで商品を買ってくれた顧客のリストを眺めて、「あ、隣町の町内会長さんがリピートしてくれているな」とか、「駅前のビジネスホテルが使ってくれているな」とか。それだけでも、気付くのと気付かないのでは、大きな差が出ます。
もしAというビジネスホテルが使っているという実績があったら、今度はちょっと単価の高いBというシティーホテルの人と会ったとき、「実はAのホテルにも導入されていて好評なんです」とアピールする。その積み重ねが、やがてシティーホテルBにも採用され、新しい実績になる。そうやって小さな実績をコツコツと丁寧に積み重ねるうちに、実績が実績を呼んで、一流ホテルでも使ってもらえるようになる。
私が勤めていたエアウィーヴも、最初はほとんど実績がありませんでした。もともとは釣り糸を作る機械を生産していた会社がマットレスを作ってみたのですが、私が第1号社員として入社した当初は、マットレスは1週間に2枚か3枚しか売れておらず、実績と言えるほどのものは何もありませんでした。
だから私は実績作りから始めました。ちょっとした無償提供で接骨院の先生に使っていただいて、「すごくよかったよ!」というお声をいただく。それは小さな実績だと思います。けれど、その声をホームページに載せたり、PR活動に使ったりすると、「接骨院の先生が言っているのなら」と、アスリートやそのコーチ、舞台俳優、モデルの方などにも「使ってみようかな」と思っていただけるようになります。
エアウィーヴを浅田真央さんに使っていただいたのも、そういった小さな実績の積み重ねの結果でした。小さな実績が積み重なって、大きな実績になっていく。実績が実績を呼んで、PR活動の素晴らしい素材が生まれるのです。
●図1「実績を伝える言葉」の具体例
さて、実績の重要性をしつこく強調してきましたが……、「でも、自慢話ばっかりするみたいで嫌だな」と、思った方もいるはずです。ですが、少し考えてみてください。確かに、「嫌みだ」と思う人は多少出てきます。けれどそれをはるかに上回る数の顧客がついて来ます。例えば、実績をうたえば、今は10人の顧客が1000人に増える。けれど数人に嫌われる。
そこであなたは、どう決断しますか。数人に嫌われないために、990人の潜在顧客を捨てるのでしょうか。小さな会社にどんなに立派な実績があっても、自分から強くアピールしなければ、誰も振り向きません。私がエアウィーヴ時代、嫌というほど思い知った現実です。 自分の商品、サービスを「本当にいいものだ」と思うなら、それを広めるのは、あなたの人生のミッションではないでしょうか。「売り手の覚悟」が問われるところです。
しかし、いくら実績が大事とはいっても、実績だけでは相手の心を深く動かすことはできません。ちょっと興味を持って、1回だけ買ってもらえても、ファンにまではなりません。いいクチコミを広めてもらうまでにはなりません。
顧客にあなたの商品やサービスを買ってもらうのはもちろん、ファンになってもらうためには、ほかにどのような言葉が必要なのか。実績を含めて4つの要素があります。これらを組み合わせると「PRの基本設計」が完成します。
ここから順番に解説していきます。具体的には図2をご自身の商品やサービス、会社に当てはめていく作業になります。
●図2 PRの基本設計
まず、商品やサービスを購入するとき、顧客は何を期待しているか? それは「変化」です。その商品を買ったことをきっかけに、「自分自身がAという状態から、Bという状態へ変化する」ということです。人が何かを欲しがる動機は基本的にすべて、この「変化したい」という感情に基づいていると思います。
お客さまは変化が欲しい。変化によって得られるベネフィット(利益)が欲しい。だからお金を払うのです。例えば、「これは快適なマットレスです」と言うよりも、「熟睡できるようになるマットレスです」と伝えたほうが、顧客は商品に興味を持ちます。
この連載を読んでいる皆さんも、「売り上げを伸ばしたい」「広告コストを下げたい」「今はあまり知られていない会社を、一気に認知させたい」。そういう変化をもたらすスキルが欲しくて、読んでくださったのですよね。一時期話題になった、トレーニングジムのライザップのCMも同じです。ライザップに通えば、たるんだ体形が見事にシェイプアップできる。そんな変化を、インパクトのある映像で見せたから爆発的な反響を呼んだのですよね。
ですから、PRで必ず言語化していただきたいのは、あなたが提供する商品やサービスを購入した顧客がどのように変化するか。つまり「AからBへ」です。安眠できなかった人が、熟睡できる。無名の会社が有名になる。そして、売り上げが低かったのが、高くなる。太っていた人が痩せる。
あなたの会社が提供する「変化」を、明確に言葉にしていただきたいのです。図3に書き出してみてください。
●図3 顧客に約束する「A地点→B地点」とは?
さらに、変化した暁には、どんな「景色」が待っているかも顧客にイメージしてもらいましょう。B地点から見える景色を言語化します。
熟睡できたら、仕事の効率が上がった。
自社商品がテレビで紹介されたら、売り上げはもちろん、社員のやる気も上がった。
痩せたら自信が持てるようになり、プレゼンテーションが上手になった。
こうした「景色」は「変化」とは違って、顧客に対する「約束」ではありません。変化の先に待っているかもしれない「可能性」であり、ほかにもいろいろ考えられるでしょう。図4に書き出してみてください。
●図4 B地点から広がる可能性は?
約束ではなくても、「こんな未来が待っているかもしれませんよ」という可能性を景色として見せてもらうと、顧客はワクワクします。そして、お金をかけてでも手に入れたいというワンランク上の欲求が生まれます。
その結果、あなたの商品、サービスが顧客に選ばれたなら、それは実績です。さらに、選んでくれた顧客に変化があれば、それも実績。そこから見えた新しい景色もまた実績です。 こうして実績を積み上げるほどに、あなたの商品、サービスはしっかりしたファンを持ち、会社の土台は強くなります。実績をコツコツと積み上げていくことが重要です(図5)。さらに、その実績をアピールする重要性は、これまでしつこく強調してきた通りです。
●図5 実績の積み上げが、PRの土台
執筆=笹木 郁乃
山形大学工学部卒業後、アイシン精機で研究開発に従事。その後寝具メーカーのエアウィーヴの第1号正社員として転職し、PRに注力。売上高を5年で1億円から115億円に伸ばす急成長に貢献。鍋メーカー・愛知ドビーでもメディア露出により注文殺到でお届けまで12カ月待ちに貢献。その後、2017年ikunoPRを設立、2019年LITAに社名変更。企業のPR支援のほか、経営者や個人事業主、広報担当者などにPRスキルを伝える「PR塾」も主催し、約1000名が長期講座で学ぶ。これまで5年間常に満員御礼開催。2021年7月に2冊目となる著書「SNS×メディアPR100の法則」(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓。発売日即日重版。プライベートでは一児の母。
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