MIT×デロイトに学ぶ DX経営戦略(第7回) デジタルリーダーシップに違いをもたらすものは何か?

業務課題 デジタル化経営全般

公開日:2022.01.17

これまでのリーダーシップとの違いはどこにあるのか?

 当然のことながら、優れたデジタルリーダーシップにおいて、従来のリーダーシップと比べて多くのことが変わらないというのは、「何も」変わらないという意味ではない。組織の環境が変わるにつれて、優れたリーダーに求められるスキルもいくらか変わるだろう。ただ、そのスキルの特徴がデジタル環境でどのような形で現れるかについては、それが前の環境でどのような形で現れていたかによって異なるかもしれない。

 例えば、優れたリーダーの中には並外れたコミュニケーションスキルがあり、他者の気持ちをかき立てることができる人がいる。とはいえ、有能なリーダーが現在の環境で用いるコミュニケーションのツールとプラットフォームは、ほんの数年前に使われていたツールとはかなり異なる。私たちは現在、スラック、フェイスブックの企業向けSNSであるワークプレイス、ヤマー、ジャイブなどの世界に生きている。10年前なら、質問や議論への迅速な対応として通用したスピード感が、今やひどく遅いと見なされる場合がある。効果的なコミュニケーションをする人は、コミュニケーションの目的にふさわしい、利用可能な最高のツールを用いる。現在の環境で効果的なコミュニケーションを図るために、マネジャーはメールの使い方も再考する必要もあるだろう。

 ほかに挙げるとすれば、「信頼」だろう。ご存じのように、社員、顧客、その他ステークホルダーとの信頼の確立は、優れたリーダーシップの重要な特徴の1つである。だが、徹底的な透明性が期待されるデジタル環境でリーダーが築く信頼のプロセスは、かつて用いられていたプロセスとはまったく異なる。少し前までは、問題に公式にあるいは非公式に対処して、組織はある種のタイプの情報を適切にコントロールできた。現在の情報化社会では、どんな情報であれ隠したままにしておけると思ってはいけない。リーダーはあらゆる状況に公式に対処できるように備えるべきだ。つまり、リーダーたちは異なるやり方を用いて、かつて生み出していた信頼と同じような信頼を生み出さなくてはならないのだ。

デジタルリーダーに求められるスキルとは?

 デジタル環境でどのスキルと能力が重要なのか理解するために、私たちは調査対象者に質問を投げかけた。

 回答から、リーダーはテクノロジーを理解する必要があることがうかがえたが、テクノロジーのスキル自体は、効果的なデジタルリーダーシップにとって必須の条件ではない。デジタルリーダーシップは、デジタルディスラプションがもたらした新たなビジネス環境の中で指揮を執るが、テクノロジーに精通することが中心ではない。

①変革ビジョンと➁前向きな展望
 ビジョンと方向性を授けることは、従来リーダーシップにとって不可欠な要素である。だが、この2点はデジタル環境において未来の変化に重きを置いた新たな重要性を帯びる。私たちの調査で、回答者が一番重要なスキルとして選んだのは、変革ビジョンを構築することだった(22パーセント)。これには、市場とトレンドの知識、ビジネス的慧眼、高い問題解決能力などが含まれる。二番目は、前向きであること(20パーセント)で、明確なビジョン、健全な戦略、先見の明などが含まれる。こうした一連のスキルは明らかに互いに関連している。

 二番目のスキルは、テクノロジーによるビジネストレンドの進化を理解することであり、一番目のスキルは、こうしたトレンドに対応して企業を導く能力だと、私たちは解釈している。ビジョンとは、必要とされる変化に、目的と方向性を与えることだ。求められる変化の大きさを考えると、この変革ビジョンはとても重要である。

デジタルリーダーに求められるリテラシーとマインドセット

③デジタルリテラシー
 テクノロジーの理解は、重要なスキルの中でようやく三番目に入っている。回答者によれば、リーダーに必要とされるのは先行する経験と、一般的なデジタルリテラシー(プログラミングやデータサイエンスなどの本格的なテクノロジーのスキルではなく)だという。言い換えれば、テクノロジーの仕組みに関する一般原理、およびこのテクノロジーに備わる能力(と可能性)の領域を理解することが、リーダーにとって大事だということになる。

 リーダーのデジタルリテラシーは2つの点で有益である。1つは、前述した最初の2つのリーダーシップのスキル、すなわちビジョンを抱くことと、前向きであることというスキルを維持するためには、デジタルリテラシーが欠かせないということだ。新しく現れたトレンドが組織と社員に新たな価値をどうやってもたらすか理解しなくてはいけないのに、デジタルリテラシーがないリーダーは、新しいトレンドと発展に遅れずについて行くことができないだろう。

 もう1つは、テクノロジーがどのように機能するか(あるいはしないか)一般原理を把握することで、リーダーはいっそう優れた、情報に基づく意思決定ができるようになるということだ――これは、不確実な環境だからこそ、重要になる点だ。幸いにも、このような基本知識を身に付けることは難しくない。効果的なリーダーシップに必要な戦略的知識を技術者に教えるよりも、すでに地位を確立したビジネスリーダーのデジタルリテラシーを高めるほうが、はるかに容易で効果がある。この場合のデジタルリテラシーとは、特定のテクノロジーがビジネスへの適用にふさわしいかどうか、リーダーが理解できるということだ。

④変化指向型
 重要な特徴はもう1つあり、リーダーは変化指向型であるべきだというものだ。これには、オープンマインド、適応性、イノベーティブなどの特徴が含まれる。これも、前述したスキルと関連する。オープンマインドが重要であるのは、テクノロジーと市場環境が予期せぬ形で展開した場合でも、リーダーは平静を保ちながら、流動的な環境に適応し、進路変更する準備をしなくてはならないからだ。

 この変化指向型のマインドセットは、デジタルリーダーに必須となる知識にも当てはまる。デジタルリーダーの知識の“蓄え”は、テクノロジーの変化に応じて絶えず更新する必要がある。リーダーが知識を定期的に更新する適切なプロセスが組織になければ、リーダーたちのデジタルの知識は次第に時代遅れになるだろう。規定の継続学習、社内教育、世代を超えたリバース・メンタリング(逆メンター制度)、豊富なオンラインプログラムなど、多様な実践の機会を通して、リーダーは知識の蓄えを補充することが可能だ。

分散型リーダーシップの文化を創造する

 デジタル時代のリーダーシップには、もう1つ大きな違いがある。組織のどこでリーダーシップが見られるかという点だ。20世紀の階層的企業では、組織図のトップにしかリーダーシップは求められなかった。物事のスピードが変化した今、効果的なリーダーシップが見つかる場所として、それは必ずしも現実的ではない。

 デジタル的に未成熟な企業の特徴の1つは、リーダーシップが組織の上位に閉じ込められているという点だ。これはたいてい、デジタル戦略は口先だけだという見方を会社全体にもたらすことになる。どれほど入念に、明確に、専門的に構築されていても、戦略が企業幹部クラスの域を出ることがないからだ。変化を起こすには、企業はあらゆるレベルで効果的なリーダーシップを利用しなくてはならない。デジタルに成熟している組織ほど、階層的ではなく、下位に意思決定を委ねている。そのほうが、迅速に、多くの情報を得たうえで決定できる。

トランスフォーメーションしようとする意志

 トランスフォーメーションしようとする意志は、デジタルリーダーシップのパズルの最後の1ピースだ。組織は意識してトランスフォーメーションに努め、この努力を優先しなくてはいけない。

 乗り出すのは今だ。デジタル能力と組織経営とのギャップは、日々広がっている。従来のビジネスモデルが機能していないことを示す証拠が市場に現れるまで組織が待てば、手遅れになる恐れがある。力強いリーダーは不安定なトレンドを事前に察知し、それに対処しようと意識的に行動を起こす。デジタルトランスフォーメーションが成功を収めたとしても、これは継続する反復的な取り組みであり、一度限りのプロジェクトではない。これには柔軟なマインドセットと、企業が対応できるような組織構造が必要になる。

 強力なデジタルリーダーシップとは、長期間にわたる反復を繰り返し、組織がビジョンにフォーカスし続けるようにすることなのである。

執筆=訳者=庭田 よう子

翻訳家。慶應義塾大学文学部卒業。おもな訳書に『目に見えない傷』(みすず書房)、『ウェルス・マネジャー 富裕層の金庫番』(みすず書房)など。

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