ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
パフォーマンス心理学の最新の知見から、部下をやる気にする方法を紹介する連載。部下に対して効果的にメッセージを伝える方法を紹介する第13回は、「貢献」についてです。仕事はお客さまや社会に貢献するだけでなく、自分の成長にも貢献することを伝えれば、モチベーションはアップします。
部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(3)
1年前に、ハッと気付かされる体験をしました。それは都内のある美容系の会社における研修で新入社員に60分間の講演をしたときのことです。私は講演を頼まれると、自分の直前の講演も聞くことにしています。会場で聴衆の様子を見れば興味の傾向が分かり、その場で自分が話す内容を変更したり、微調整したりできるからです。
その日もそうでした。会場に到着すると、私の前の講師が美意識について話していました。あちらでコックリ、こちらでコックリ。どうやら聞き手にはニーズがない話題のようです。そこで、私は用意をしていた「日本人の自己表現の特徴」というテーマをやめ、「人を助ける仕事と話し方」について話すことにしました。新入社員が自分事として捉えられるテーマに変えたのです。
講演の中で心理学者のアルフレッド・アドラー(1870~1937)の言葉に言及しました。最近はやっているアドラー心理学ですが、実は1992年に、私がパフォーマンス学会を立ち上げたほぼ同時期に日本でアドラー心理学の勉強が始まったのです。私自身、アドラーの自己肯定的な考えを基に、それを自己表現にどうつなげようかと、パフォーマンス学を組み立ててきました。
アドラーは、3つの貢献――「自分に貢献」し、「相手に貢献」し、そして「社会に貢献」するという考え方を提唱しています。「自分に貢献」とは耳慣れない言葉ですが、これは自分の能力を伸ばして自らを成長させることを意味しています。自分も成長し、目の前の相手に貢献でき、さらに社会にも貢献できると感じられることが、人間が生きていくときに最も大切な感覚だとアドラーは説いたのです。
米国の精神科医で、多くの研究者に影響を与えたロロ・メイも「貢献」について、著書『失われし自己をもとめて』(誠信書房)でこう述べています。「あらゆる人間にとって共通の快感は、自己の潜在能力を開花することである」。できないことができるようになった自分の成長に、喜びを感じるというわけです。実は、私は全ての心理系研究者の中でロロ・メイが一番好きです。考え方が主体的だからです。私は講演の中で、仕事とはそういうものだと話しました。
そこで私の講演の後、パタパタと女子社員が追いかけてきました。そして言ったのです。「先生、私は今日の話が気に入りました。特に『自分に貢献』というところが気に入りました」。仕事が自分の成長に貢献しているという言い方が、若い社員に伝わったようです。
若くて純粋な人ほど、人の役に立ちたい、役に立って「ありがとう」と言われたいという欲求を持っています。そんな人たちに、相手や社会だけでなく、自分も含めた3つの貢献の話をしてやると、本当に喜んで動き出します。これについては、日本では昔からある近江商人の「三方よし」ということわざと共通しています。「自分よし、相手よし、世間よし」です。心理学と近江商人の習慣が一緒だとは面白いことです。
部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(3)
◆ 若い部下も、仕事を通じて自分が成長できると分かれば、モチベーションが上がります。
◆ 仕事は、相手(お客さま)、社会、そして自分のためにもなると伝えましょう。
※本記事は、2017年に書籍として発刊されたものです
執筆=佐藤 綾子
パフォーマンス心理学博士。1969年信州大学教育学部卒業。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科修士課程修了。上智大学大学院博士後期課程満期修了。日本大学藝術学部教授を経て、2017年よりハリウッド大学院大学教授。国際パフォーマンス研究所代表、(一社)パフォーマンス教育協会理事長、「佐藤綾子のパフォーマンス学講座R」主宰。自己表現研究の第一人者として、首相経験者を含む54名の国会議員や累計4万人のビジネスリーダーやエグゼクティブのスピーチコンサルタントとして信頼あり。「自分を伝える自己表現」をテーマにした著書は191冊、累計321万部。
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