ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
本連載はデザイン・シンキングもしくはデザイン思考として、知られる手法について具体的な事例を基に解説します。デザイン・シンキングをひと言で言うと、生活者をよく観察し、新たな気付きを得ることです。そして、迷ったら常に生活者の立場に戻って検証していくことです。
作り手の都合はどうしても仕方のないことですが、それではいつまでも生活者の視点になりません。今までにない気付きさえ分かれば、後は実行するのみ。生活者がどう考えているか、どんなニーズを欲しているか、常に生活者の視点に立つことを忘れないのが、問題解決のソリューションに近づく最初の一歩です。
CASE STUDY 01 クリナップ(前編)
システムキッチン「クリンレディ 流レールシンク」の開発
クリナップが2015年7月に販売したシステムキッチン「クリンレディ」の新機能「流レールシンク」(ながれーるしんく)はユーザーでさえも気付かなかったニーズに注目し、ヒット商品になった。
デザイン・シンキングの手法を生かした開発事例として、クリナップが2015年7月から販売しているシステムキッチン「クリンレディ」の新機能「流レールシンク」を取り上げる。
主婦モニターの意見を聞いたりフィールド観察(オブザベーション)したりすることでユーザーでさえも気付かなかった新たなニーズに注目し、それを解消するための機能を工夫しただけでなく、新たに考えた形状を実現することは不可能と社内外からの声がありながらも、デザインや生産現場の努力によって最終的に開発に成功し、数々のアワードを受賞してヒット商品になったからである。クリンレディ自体は同社が1983年から手がけてきた主力商品だが、成熟している市場でも今回のような新機能を搭載したことで、さらに市場を深掘りし活性化できた。
流レールシンクとは文字通り、クリンレディの新しい「シンク」である。野菜や食器を洗うシンク内には、どうしても生ゴミや汚れが広がりやすい。水を使うたびに生ゴミや汚れがシンク内に飛んだり、隅にたまったりする。仕方なく手でかき集めたりして、処理に手間がかかっているのが現状だ。そこで流レールシンクでは特殊な形状を新たにデザインし、シンク内の生ゴミや汚れの広がりを抑えたことで掃除の手間を大きく軽減することができた。
従来のシンクを見ると、水を流すために奥にある排水口に向かって底部分が斜めに傾いているものがほとんどだろう。しかし水の流れと底部分の傾きが合っていないと水が飛んでしまい、シンク内の生ゴミや汚れがシンク内に散乱してしまう。そこで流レールシンクでは排水口の位置とは反対に、底部分を手前に傾けるようにした。
こうして水の流れと底部分の傾斜を一致させると、生ゴミや汚れが広がりにくくなるという。さらにシンク内の底部分の手前に溝を新たに設けたり、従来はシンク内の奥の中央にあるのが普通だった排水口の位置も見直して左隅に設けた。排水口も従来のような円形ではなく三角形にして、シンクと継ぎ目のない一体成型で作っている。
こうしたデザインにしたことで、いったんは手前に流れた水が溝を伝って排水口までスムーズに進むようにした。すると生ゴミや汚れが「水路」(流レール)を通ってシンク内に広がらず、排水口にたまるようになったのである。
シャワーで余計に流す必要がなく、指でかき集めるのも簡単になるなど、生ゴミや汚れを効率的に処理できるとユーザーから好評を博し、標準価格(税・施工費別)が63万8000円と流レールシンク搭載前より4万円ほど価格が上がったものの、2015年下期の販売数量は前年比10~20%増で推移しているという。
だが新しい機能だけに、開発ではさまざまな苦労があった。「生ゴミや汚れを処理することに、どれだけのニーズがあるのか」「ユーザーは本当にそんなことを望んでいるのか」といったマーケットに対する意見の他にも、シンク内の底部に傾斜や溝を作ったり排水口の位置や形状を変えたりするなど従来とは異なる複雑なデザインになるため、「金型はどうするのか」「本当に作れるのか」などの声も相次いだ。
実際、シミュレーションシステムで形状分析した結果は「ノー」で、材料分野の取引先からも「無理」と判断された。そうした状況で、開発チームはどうやって周囲を納得させ、成功に結び付けたのか。次回はそのプロセスを紹介する。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年4月)のものです
執筆=日経デザイン編集部 大山 繁樹
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ビジネス課題を創造的に解決するデザイン・シンキング