システム構築のための調整力向上講座(第16回) 部下への対応はタイプ別に考えて使い分ける

コミュニケーション

公開日:2017.01.12

 現場リーダーは、プロジェクトでステークホルダーを巻き込み、説得する力を身に付ける必要があります。今回からは、「どうすれば、メンバーがやらされ感を持たずに、パフォーマンスを発揮してくれるか」について解説します。

 人は、得意な能力や視点の違いによって、タイプが分かれます。プロジェクトには通常、タイプの異なる人が混在しています。タイプが異なれば、接し方や生かし方を違うものにしなければなりません。そのために欠かせないのが「人を観る力」です。リーダーは、能力や視点が異なるメンバー一人ひとりに向き合って初めて、説得する力が養われます。ここでは、人を観る力と、その養い方について解説します。

ケーススタディー: 見積もりのバッファーを許すべきか?

 まず、自分がリーダーを務めるプロジェクトで計画を策定中だと想定してください。システム要件がほぼ固まったところで、予算とスケジュールを出さなくてはなりません。あなたはプロジェクトリーダーとして、サブチームのリーダーに「各タスクの工数見積もりを各担当者に行わせるように」と指示してあります。

 今日は、工数見積もりのレビューの日です。レビューは、プロジェクトリーダーと各サブチームのチームリーダーで進めます。見積もりには、機能ごとのタスクと担当者および工数見積もりが記載されています。

 タスクリストを見ていくと、担当者が武田さんになっているタスクが、他のメンバーのものと比べて「少し余裕を見過ぎているのではないか」という印象でした。平均して他のメンバーの1.2 倍の工数となっています。武田さんは他のメンバーよりも生産性が高いにもかかわらずです。

 「ちょっと多過ぎないか」とチームリーダーに尋ねました。すると「確かにそうですね。すぐに修正させます」と答えました。このとき、あなたならすぐに修正させますか?それとも、そのままにしておきますか?(図1)

人を観て対処を決める

 このケースの着眼点には、以下の3つがあります(図2)。

(1)納期のプレッシャーに強いか

 プレッシャーがかかる状況に置かれたとき、人によって反応が異なります。プレッシャーを前向きに捉える人と、プレッシャーにのまれてしまう人に分かれるのです。このケースでまず考えるべきは「武田さんはプレッシャーがかかる状況でどのように振る舞うだろうか」という点です。

 前向きに捉える人であれば、余裕のない見積もりに修正してもパフォーマンスを発揮するでしょう。逆に、プレッシャーにのまれるタイプであれば、余裕のない状況では極端にパフォーマンスを落としかねません。

(2)バッファーを使い切るタイプか

 次に考えるべきは、武田さんは「バッファー(余裕)を使い切るタイプかどうか」です。「仕事は与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」という「パーキンソンの法則」をご存じでしょうか。それほど必要ない調査に時間を使うなどして、バッファーを食い潰してギリギリになった経験を持つ人も多いはずです。

 この法則通りにギリギリになる人は、筆者の経験上、8 割程度います。残りの2 割は「できるだけ前倒しにする」人たちです。武田さんが前者であれば、バッファーを持っていてもギリギリになるでしょう。であれば、バッファーを必要以上に与えるべきではありません。しかし後者であれば、バッファーがあるほうが良い仕事をするかもしれません。

(3)見積もりを修正させるとどうなるか

 (1)と(2)を考えた上で、「見積もりを修正させるとどうなるか」を考えます。上記シーンで見積もりを修正させた場合、指示そのものが「少なく見積もれ」という圧力と捉えられる恐れがあります。そうなると、必要以上に少なく見積もってくる場合があるのです。リーダーにそのつもりはなくても、指示を受けたほうはそう感じるものです。結果として、担当者本人は納得していない見積もりになってしまいます。

 工数を削られたときにメンバーが取りがちな行動は「プロセスを省く」こと。真っ先に省かれるのが設計や単体テストの作業です。設計しながらコーディングしてしまったり、十分な単体テストを経ないまま結合テストに入ったりすると、品質を担保できません。

 何かを判断するとき、必ず「人」が付いて回ります。リーダーに必要な問題解決能力に加え、問題に関わる人がどのようなタイプなのか、どのような行動をする傾向があるのかを見極めなければ、正しい判断ができないのです(図3)。

武田さんへの対処例

 実は、このケースは実際に筆者がプロジェクトリーダーとして経験したことです。そのときは、見積もりを修正させず、そのまま通しました。

 この担当者は技術力があり、納期への責任感も持っていました。しかし、納期ギリギリになると気ばかりが焦ってパフォーマンスが低下し、ミスが多くなるタイプでした。同時に、余裕があってもそれを使い切るわけではなく、できるだけ早く終わらせてそれを報告するタイプでもあったのです。

 そこで、修正させずに通すほうが適切だと考え、サブリーダーに「そのままでいい」と伝えました。ただし、本人には「ちょっと工数積んでるんとちゃうか?(笑)」とだけ伝え、「見積もりはそのままでええけど、早めに終わらせて他のメンバーを手伝ってあげて」とお願いしたのです。すると彼はいつもより高いパフォーマンスを発揮し、積極的に周りのメンバーをサポートしたのでした。

 プロジェクトリーダーは、プレッシャーにさらされる日々のなか、メンバーの人間的側面を見落としてしまいがちです。しかし、プロジェクトを実行するのはあくまでも人です。そして、人に納得感を持ってもらい、パフォーマンスを発揮してもらうためには、「人を観る力」が必要となるのです。

執筆=芝本 秀徳/プロセスデザインエージェント代表取締役

プロセスコンサルタント、戦略実行ファシリテーター。品質と納期が絶対の世界に身を置き、ソフトウエアベンダーにおいて大手自動車部品メーカー、大手エレクトロニクスメーカーのソフトウエア開発に携わる。現在は「人と組織の実行品質を高める」 ことを主眼に、PMO構築支援、ベンダーマネジメント支援、戦略構築からプロジェクトのモニタリング、実行までを一貫して支援するファシリテーション型コンサルティングを行う。

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