ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
連載第6回では、顧客は「変化」を求めていると指摘し、それを理解したうえで実績をPRするようお勧めしました。今回は、効果的に実績をPRするために、絶対に欠かせないものを紹介します。
PRに絶対欠かせないもの。それはストーリーです。
これまでにPRで伝えるべき点を3つ挙げました。
第1に、変化。
第2に、景色。
第3に、実績。
しかしこの3つは、実のところ競合他社も、似たようなものを提供できている可能性が高いのです。マットレスが安眠をもたらすのも、経営セミナーが増収をもたらすのも、トレーニングジムに通って痩せるのも、すごく珍しいことではありません。
それに対し、ストーリーというのは、あなたの会社にしかない、唯一無二のものなのです。 しかし、ストーリーとは何だろう。そう思った方もいますよね。ストーリーとは……
・ なぜその事業(商品やサービス)を始めたのか
・ その事業に対する並々ならぬこだわり
・ 事業が成功する(軌道に乗る)までの苦労
・ 成功した実績(顧客の反応など)
・ 今後の夢
といった、あなたの商品、サービスにまつわるさまざまなドラマなのです。商品そのものはまねできても、ストーリーはまねができません。そう考えれば、「ストーリーは唯一無二のPRポイント」という理由に納得していただけるかと思います。
●図1 ストーリーは「唯一無二」のPRポイント
ストーリーは多くの人の共感を呼ぶものですし、特にメディア向けのPRでは強いフックになるものです。雑誌や新聞、テレビなどのメディアはストーリーが大好き。それは、ストーリーがあると記事や番組などのコンテンツが作りやすいからです。ストーリーがあれば、メディアで取り上げられる確率もグンと高まります。
ストーリーの中でも、特に共感を呼びやすいのが、「苦労」のエピソードです。例えば、このペンを完成させるまでに5万個の試作品を作りました。5万個の失敗作がありました。あるいは、この製品を完成させるのには3年もかかりました。どの工場に行って交渉しても、誰も製造を引き受けてくれなかったけれど、最後にたった一人、協力してもいいという人が現れて、やっと実現したのです、など。
これらのエピソードを、当事者は「恥ずかしい」などとネガティブに捉えがちですが、そんなことはありません。何の苦労もなく完成したペンではなくて、5万個の失敗を経て完成したペンのほうが、商品の説得力は何倍も何十倍もアップします。消費者もメディアも、「だからこそこの会社は素晴らしい」「ぜひ応援しよう」という気持ちになるのです。ですから、苦労話や失敗談をどんどんアピールしてください。
このストーリーを描くときに重要なのが「起伏」です。下図のイメージです。平凡だった会社が失敗や苦労を経験する。そこから立ち上がって成功し、さらに未来に向かって挑戦していくという、感情の起伏のあるストーリーが魅力的です。
●図2 マイストーリーを描こう
失敗や苦労は、どん底まで味わったほうが話は深まります。苦しかった昔があればあるほど、PRするときにはラッキーです。いつもハッピー、順風満帆では、ストーリーとして面白くありません。共感を呼び、メディアも取材したがるストーリーとは、苦労と成功の落差が大きいストーリーです。
ストーリーについて、私の経験をお伝えします。エアウィーヴという会社は、もともとマットレスの会社ではなく、釣り糸を作る機械を生産している会社でした。しかし、その機械が売れなくなり、赤字が続き、会社の存続すら危うくなってきたとき、社長が起死回生の一手に出ました。
釣り糸を作る機械は需要が減るばかり。ならば、その技術を使って全くほかの商品を作れないかと考えたのです。それも自社ブランドの商品を。そして、釣り糸が絡まったものが工場のゴミ箱に捨てられているのを目に留め、そのクッション性、弾力と通気性をマットレスに使えないかと考え、試行錯誤のうちに開発したのがエアウィーヴです。
このストーリーには感情の起伏があります。私は最初、釣り糸製造機の会社だったとか、赤字を出していたという話は、ネガティブだから出さないほうがいいのではないかと思っていました。しかし、メディアの人と話しているとき、このエピソードを明かすと、とても食い付きがいいのです。「その話は絶対載せたい」「昔の写真はないか」といった要望を聞くうち、だんだんと積極的に苦労話を出すようにしていったのです。
実際、エアウィーヴがメディアに取り上げられるようになると、釣り糸製造機の会社が赤字を出していたのがきっかけという、このエピソードは必ず紹介されました。ストーリーには画像があったほうが断然いいです。SNSでもメディアでも画像があるのとないのとでは、記憶への残り方がまったく違います。
私が過去にPRを担当したお鍋のメーカーには、人気商品を完成させるまで、何度も試作を繰り返したというストーリーがありました。メディアの方にお話しすると必ず、「そのときの失敗作のお鍋はありませんか」と、おっしゃいます。絵になるからです。実際には失敗作は残っていませんでしたが、あまりに要望が多いので、失敗作を再現して作ってもらいました。
さて、これでPRの基本設計に必要な4つの要素を押さえました。おさらいです。
PRの基本設計に必要な4つの要素とは……
第1に、A地点からB地点への「変化」。
第2に、B地点から見える「景色」。
第3に、そのような変化と景色を顧客に提供してきた「実績」。
第4に、この3つを支えるストーリー。
こうして第6回の図2で紹介した「PRの基本設計」を完成させたのが図3になります。
●図3 顧客の感情を動かすプレゼンの型
4つの要素をより詳しく解説した図4を用意したので参考にしてください。
●図4 プレゼンの型を構成する4つの要素
PRの基本設計を押さえたところで、再度確認しておきたいのは、どんなPRも商品やサービスの優れた品質があってこそ効果がある、ということです。
PRの土台となるストーリーとは、実績を支えるものでもあります。顧客に変化を約束し、ワクワクする景色をお見せできるのは、商品やサービスを開発する苦労があってこそ。苦労して品質を高めたからこそ、です。ここには必ず、品質を支える理屈と手順があります。ストーリーを語るときには、そんなロジックもさりげなく伝えられると、説得力が増していいですね。
今の時代は、いい商品にはいい評判が、悪い商品には悪い評判がすぐに広まります。だからPRにおいても、商品やサービスの「質」が決定的に重要です。そもそも、「いいもの」でなければ、どんなにPRのテクニックを駆使してもクチコミは生まれません。
そんな時代をどう思いますか。小さな会社にとってはチャンス到来です。質が低いものはどんなに広告費をかけても受け入れられない。一方で、いいものを作ってうまくPRすれば、広告費をかけなくてもいい評判がどんどん拡散されて、顧客に愛されながら売り上げを伸ばしていけるのです。
コスト0円のPRの力で、無名の会社のものであっても、本当に質が高い商品、サービスが、どんどん世の中に広まっていく。ちょっとワクワクしませんか。ぜひこの連載を読んでいる皆さんにも、そんなすてきな体験をしてほしいのです。
最後に、連載第5回から7回を通じて、絶対に押さえておいていただきたいポイントをクイズ形式で質問します。
Q:あなたの会社の商品、サービスのPR。最優先して伝えるべき情報は何でしょうか?
A 商品の特徴(良いところ)
B売れた実績、評価された実績
C開発ストーリー(物語)
A:私の考える正解は「B 売れた実績、評価された実績」です。現在の消費者が最も信頼するのは「第三者が評価した実績」であり、最優先で伝えるべき。ただし実績だけでもダメ。特に開発ストーリーには大事な役割があります。
執筆=笹木 郁乃
山形大学工学部卒業後、アイシン精機で研究開発に従事。その後寝具メーカーのエアウィーヴの第1号正社員として転職し、PRに注力。売上高を5年で1億円から115億円に伸ばす急成長に貢献。鍋メーカー・愛知ドビーでもメディア露出により注文殺到でお届けまで12カ月待ちに貢献。その後、2017年ikunoPRを設立、2019年LITAに社名変更。企業のPR支援のほか、経営者や個人事業主、広報担当者などにPRスキルを伝える「PR塾」も主催し、約1000名が長期講座で学ぶ。これまで5年間常に満員御礼開催。2021年7月に2冊目となる著書「SNS×メディアPR100の法則」(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓。発売日即日重版。プライベートでは一児の母。
【T】
ゼロ円販促