部下のやる気に火をつける方法(第12回) 相手にはあなたの話を聞かない権利がある

人材活用

公開日:2020.02.13

 パフォーマンス心理学の最新の知見から、部下をやる気にする方法を紹介する連載。部下に対して効果的にメッセージを伝える方法を紹介する第2回は、相手に話を聞く気にさせるための心得です。感情によって相手の話を聞くかどうかは変わってしまうことを理解していないと、いくら話しかけても無駄になってしまいます。

部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(2)


反感、好感、倦怠(けんたい)というような感情によって、話を聞くかどうかが決まる

 会議や説明会などで一生懸命説明をしているのに、1人2人居眠りしている人がいると、つくづくガッカリするものです。大学の教授会でも企業の説明会でも、こんな光景を何度見たことでしょうか。スピーカーの意気消沈を招く聞き手の居眠りですが、実は聞き手側にも言い分があります。「こんなに面白くない話を聞き続けるのは、なかなかつらい」という理由です。

 聞き手のシビアな反応は、テレビで選挙の政見放送などが放映されるときに、一番分かりやすいものです。候補者が大きな身ぶり手ぶりとよく通る声で、聞き手にニーズのあることを話しているときには、視聴者はトイレに立たずに聞いています。しかし、聞いても何の意味もないと思ったり、くぐもった声だったり、つまらなかったり、無表情な候補者だと思ったりすればちゅうちょなく席を立ち、お茶を入れに行き、チャンネルを変えるでしょう。視聴者には、テレビの人物の話を聞かない権利があるからです。

 部下に話をするときも同じです。たとえ1対1で話すときでも、相対している部下には上司の言葉を耳に入れない権利があるのです。「それは立場上けしからん!」とどんなに怒っても、部下が上司の目を見ながら心の中では上司の言葉をスルーしていたら、何の意味もないでしょう。

 話を聞かないのは、どのような場合でしょうか。まず、相手がニーズや興味、関心がない話は耳に入らないことが多いと理解しましょう。ですから、相手が興味を持つ話題から始めるのも1つの方法です。さらに、この話が相手のメリットになる内容だと伝える、あるいは聞かなかった場合のデメリットを明示する手もあります。

絶対服従的に上司の話を聞くとは限らない

 声のトーンも非常に重要です。面白い実験があります。ハーバード大学医学部の心理学者のナリニ・アンバディ教授が医師と患者の説明場面を録画し、言葉を抜いた音声だけのデータを取りました。その中で、声に威圧感のある医師と威圧感のない医師を2群に分けたのです。

 すると、声に威圧感のある医師たちは威圧感のない医師よりも、患者からの医療訴訟の件数が1.5倍多いことが分かりました。「高圧的な声だな、嫌だな」と感じた途端、嫌悪感を抱いたり、相手に反感を持ったりしやすいのです。となると、当然聞かない権利も発生しやすくなります。上から目線で強い口調で偉そうに話すことは避けましょう。

 また、「昔はね」「僕が新入社員の頃はね」と次々と自分の自慢話をする上司がいます。これは心理学の用語では「自己開示」と呼びますが、そこに自慢の気持ちがあれば、これは「自己高揚的自己呈示」となります。要するに「俺は偉いんだ。おまえはそうでもないだろう」という印象さえ与えかねない昔話です。このような雰囲気をチラッとでも感知すると、今の若者の耳は途端に閉じてしまいます。「また自慢話が始まった、やれやれ」と思っているのです。

 ひどい場合は、アフターファイブのお茶会などで友達に「うちの上司ったら、自慢話ばかりして、本当に嫌になるよ」と、社内にとっては何のプラスにもならないネガティブ情報が発信されてしまいます。

 人間は感情の動物です。部下といえども、ただ絶対服従的に上司であるあなたの話を聞くとは限りません。話し手の意図とは別に、部下の持つ反感、好感、倦怠(けんたい)というような感情によって、話を聞くかどうかが決まるのだと覚えておきましょう。

まとめ

部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(2)
◆ 自分が興味のない話や相手の長い自慢話などは耳に入りません。
◆ 威圧的なトーンは避け、関心がありそうな話や、メリットを感じられる内容を話していると分かれば聞く耳を持ちます。

※本記事は、2017年に書籍として発刊されたものです

執筆=佐藤 綾子

パフォーマンス心理学博士。1969年信州大学教育学部卒業。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科修士課程修了。上智大学大学院博士後期課程満期修了。日本大学藝術学部教授を経て、2017年よりハリウッド大学院大学教授。国際パフォーマンス研究所代表、(一社)パフォーマンス教育協会理事長、「佐藤綾子のパフォーマンス学講座R」主宰。自己表現研究の第一人者として、首相経験者を含む54名の国会議員や累計4万人のビジネスリーダーやエグゼクティブのスピーチコンサルタントとして信頼あり。「自分を伝える自己表現」をテーマにした著書は191冊、累計321万部。

【T】

あわせて読みたい記事

連載バックナンバー

部下のやる気に火をつける方法