制度活用でお得マネジメント(第3回) 経産省肝煎りの施策「IT導入補助金」の真意

法・制度対応

公開日:2018.06.27

 IT導入は、中小企業にとって費用が負担になるケースが多い。ITに詳しい人材が少ないのもハードルだ。こうした課題を抱える中小企業に朗報がある。経済産業省が進めるIT導入補助金施策である「サービス等生産性向上IT導入支援事業」をご存じだろうか。予算額は平成28年度100億円から平成29年度補正予算で5倍の500億円に増額された。今年度もすでに申請の受け付けは始まっており、同省の本気度がうかがえる。ここまで力を入れる理由は何だろうか。

 経済産業省「平成29年度 補正予算の概要(PR資料)」には、IT導入補助金の意図が記載されている。生産性向上にはIT投資が有効だが、資金面、ITリテラシーの不足などで中小企業・小規模事業者への浸透の遅れを指摘する。

 超少子高齢化による労働力人口の減少などに伴い、人手不足の傾向が今後も続く。企業経営に直結する問題だけに、対策を打たないわけにはいかない。人手を確保するために給与を上げるといっても、業績との兼ね合いもあり、経営者も請け合いは難しい。

 柔軟な勤務体系を取り入れるなど働き方改革を進めれば、従業員の離職を防ぎ、採用時の自社アピールにもなる。ただ、働き方改革を進めて労働時間を短くしても、業績が下がっては意味がない。働き方改革で重要なのは生産性の向上だ。そのカギとなるIT導入を、補助金により活性化させようというのが目的だ。

申請しやすい補助金事業

 この補助金事業の特徴は、IT事業者が中小企業の代理で補助金に申請できるところだ。中小企業がどこにも相談できず、申請に不備がないか心配する必要はない。ITに詳しい人材が自社にいなくても、活用したいITツールを提供しているIT事業者に相談すればよいので、申請しやすい補助金制度といえる。

 さらに、狙いはもう1つある。それはツール側の拡充だ。これはITベンダー側に開発成果の公開を促すとともに、「こういう便利なものがある」という中小企業への認知拡大につなげる意味を持つ。IT導入補助金を通じ、ITツールを提供するIT事業者間の競争も促される。補助金対象となれば、ITベンダーにとっては商機が生まれるからだ。提供者側、利用者側、どちらか一方が盛り上がっても効果は生まれない。相互を刺激し両輪が回ることで「中小企業・小規模事業者によるIT投資を加速化させ、我が国全体の生産性向上を実現」する。大企業に比べ、遅れているといわれる中小企業のIT活用が進めば、日本全体の生産性は大きく向上するはずだ。

 中小IT化の課題はコストと人材

 現在、中小企業のIT活用はどのような状況にあるのだろうか。商工中金調査部が実施した「中小企業のIT活用に関する調査」(2017年7月調査)によると、ITの活用状況(導入・開設済み)は、「自社のホームページの開設」が77.5%に上るものの、「ホームページ上での販売・注文の受付」は26.8%にとどまる。働き方改革の推進につながる「クラウド化」についても、導入・開設済みは19.0%にすぎない。

 同調査では、IT化の障害や制約についても尋ねている。障害・制約の第1位は「費用対効果」。それに「人材の不足」「投資費用」と続く。コストと人材不足がIT化の大きなハードルなのは明らかだ。にもかかわらず、「経営者のITへの理解不足」と答える割合が過去調査に比べて増えている。ITに対する経営者の意識の希薄さが見える。

 中小企業庁の2017年版「中小企業白書」第2部第4章「人材不足の克服」では、中小企業の景況や人手不足などの動向について分析している。「人手不足を前提としても、現在の生産力を維持・向上させるためには、設備投資等による省力化や、一人当たりの生産性を向上させる取組が必須」という。その手段として機械化・IT化の取り組みを指摘。「人材が不足している中でも増益傾向にある企業は、バックオフィスやフロントオフィスへのIT導入、省力化や作業負担軽減のための機械化や、能力開発による一人当たりの生産性向上といった取組を行い、利益を確保し、生産性の維持・向上を図っている可能性」があると示唆する。

 また、同白書では、機械化・IT化、新技術導入の課題についても解説。製造業・非製造業共に、一番の課題は「導入に必要なコスト負担が大きい」だ。以下、「導入の費用対効果が不明」「導入の技術・ノウハウを持った人材が不足」となっている。ここでも、IT化の大きな課題はコストと人材不足である。

人材不足の課題も同時解決

 中小企業のIT活用の実情を考えると、IT導入補助金の意義は大きい。中小企業の課題であるIT導入に関わるコスト負担を軽減できるだけでなく、人材の課題も一部解決できるからだ。補助金申請はITツールを提供しているIT事業者が代理で行う。中小企業は自社にIT人材がいなくても、活用したいITツールを決めて、IT事業者に相談すればよい。

 日本の中小企業の生産性を向上させる処方箋は、ITツール、特にソフトウエアやクラウド活用にありと、経産省はある種の“解”を提示したといえる。中小企業がIT導入補助金を活用すればするほど、日本の生産性は上がるのではないか。補助金制度はまさにそのトリガーとしての役割を担っている。

執筆=山崎 俊明

【MT】

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